仲違い
「よぉし、腹も膨れたし。カルロスとアルジェントにも食べさせよう!」
俺がそう言って原っぱを立ち上がり、もう一度タイガーチキンの卵を売る屋台に並ぼうとするのを、マイヤーとショーンは呆れ顔で見送ろうとするが、アインだけは違っていた。
「カルロスはともかく、アルジェントに卵を与えるのは止めといた方が良いと思う」
いつもの訥々とした語り口だが、そこには確かに非難めいたものが込められていた。
「は? どういう事? 竜にとってタイガーチキンの卵は毒なのか? いや、でも、竜は雑食で食べれない物はないって聞くしなあ」
「そう言う事を言っているんじゃない。ブレイドも学院の授業で習っただろ? 竜に常日頃から人間と同じ物を食べさせるのはよろしくないって」
ああ、あれね。ポーリン先生がそんな事を言っていたなあ。人と同じ物を食べさせていると、それ以外口にしなくなり、いずれ食料を求めて人を襲うようになる。とか何とか。
「場合によるだろ? 先生も竜とのコミユニケーションの一端として、食事を与える者もいるって言ってたし」
「でもブレイドは日頃から芋をアルジェントに与えているだろ?」
「アルジェントが芋好きだからな」
「それって常習性が身に付いてしまっているって事なんじゃないのか?」
「は? アルジェントが芋欲しさに人を襲うって言いたいのか?」
「いや、そこまでは言ってないけど」
「言ってるのと同じだろ!? 悪いがアルジェントは賢い竜だ。人を襲うなんてありえない!」
なんなんだこいつ。俺はアルジェントが喜ぶから芋を与えているだけだ。アルジェントだって普段は土や岩を食べている。これっぽっちでアルジェントが人を襲うようになるって? そんな馬鹿な事あるわけないだろ。
「ああ、それに関しては私もそう思ってた」
な!? マイヤーまで!?
「僕も思っていました」
ショーンもか!?
「竜に人間の食事を与えるのって、私らからしたら、特別な行事なのよ。例えば良く頑張った竜に対するご褒美だとか」
「それはそっちの教育方針がそうだってだけたろ? アルジェントとはもっと幼い頃からの付き合いで、あいつは本当に芋が好きなだけなんだ。それで人を襲うようになんてならない。なってたまるか!」
なんなんだよ、その同情するような視線と顔は! 俺を憐れむなよ! 俺は間違ってない! アルジェントは人を襲わない!
はあ、興が削がれたな。俺はチラリと卵の屋台を見遣るが、足を運ぶ気になれなくなっていた。
「分かったよ。卵は諦める。今後は芋以外は出来るだけ与えないようにする。それでいいんだろ?」
俺がそう答えると、マイヤーとショーンは納得してくれたが、アインは、
「いや、だから人間と同じ物を常食させているのが異常なのであって……」
「アイン、それ以上は黙っていましょうねえ」
俺がブチ切れそうなのを察したのか、まだ言い足りなそうなアインの口を、マイヤーとショーンが塞いでくれた。ありがたい。アインに対しては色々言い負かしてやりたい気分だが、悔しいがそれは今後、行動で示していくしかない事だ。しかしこの鬱憤、どうにかして晴らしたい。
「アインも、何も今それ言う? ジョストの直前なのよ? 私本当にヒヤヒヤしたわ」
とはマイヤー。そうだ。この後にはジョストが控えているんだった。ふふ。この鬱憤、初戦の相手にぶつけてやろう。
「僕は間違った事は言っていないつもりだけど?」
「正論であっても時と場合は選んだ方が良いよ」
まだ俺に文句を言い足りないらしいアインを、ショーンが正論でもって窘めるが、アインは納得言っていない顔だ。まあ、ショーンはショーンで二年生との軋轢があったから人にとやかく言えるとも思えなかったが。俺の気持ちは既にジョストに向いていたので、もうアインの小言は気にならなくなっていた。
俺のジョストの初戦の相手は三年生だった。赤茶色の竜で、アルジェントより一回り大きい。まあ、アルジェントはまだまだ幼竜だから、これから大きくなるから。
ジョストの進行役はポーリン先生だ。闘技場の外からこちらを見ている。流石にいざと言う時、竜の戦いに生身一つで止めに入るのは無理なので、先生の後ろに相棒の竜が控えていた。ポーリン先生の髪のような濃紫の竜だ。
「始め!」
拡声の魔法で大きくなったポーリン先生の宣言で、試合が始まった。俺は木剣を木槍に変え脇に抱えると、鞍の前方に付いた取っ手を握る。
「アルジェント!」
俺の声に一声鳴いてアルジェントが応える。アルジェントは一気に加速して前方の敵に突進していった。相手もこれを迎え撃つ為に槍を構え、こちらに突っ込んでくる。
試合は呆気なく終わった。交差の瞬間、こちらはぐるんと上下を反転させ、相手の上を取り、敵騎手を木槍でもって突き落としたからだ。一撃だった。くっ、もっと血湧き肉躍る戦いをして鬱憤を発散するつもりだったのに。ああ、心の内の蟠りがあ!




