対ビリー
俺が周りから遠巻きに変な視線で見られながら、シージは進行していき、三回戦となった。が、二回戦でサンドラさんと対戦したのは早すぎる邂逅であったらしい。
三回戦の相手は手応えがなさすぎた。学院では自玉をアース・ウォールやロック・ウォールでがっちり防衛しての、アロー系での遠距離面攻撃が定石として確立しているらしく、三回戦の相手もこれを行ってきた。
しかしこれより一段上の防御魔法であるフローズン・アース・プリズンを敷く俺の防御を突破して、玉にたどり着く事が出来ず、俺のファイア・スピアーでアース・ウォールを崩され詰んだ。
四回戦の相手は防御に徹していた。ロック・ウォールでガチガチに固めた防御で、攻撃さえしてこない。こちらがファイア・スピアーでそれを壊すと、直ぐ様ロック・ウォールを生成して修復する。
ならば二回戦同様水蒸気爆発を起こして倒そうかとファイア・スピアーとウォーター・スピアーを放つと、二回戦を見て対策を考えていたのだろう、二つの槍が交差するより先にファイア・スピアー、ウォーター・スピアー共にウインド・スピアーで迎撃されてしまった。
だがまあ所詮防御一辺倒である。攻撃魔法に脅威がなければやりようはある。俺は念の為、自玉にフローズン・アース・プリズンを二重に掛けると「ブースト」と唱えて走り出す。
ブーストは身体強化魔法だ。これによって肉体は頑強になり、五感は研ぎ澄まされる。そして勿論走力も上がる。
機動力の上がった俺は、敵玉に向かって走り出した。当然相手は俺の進行を阻止しようとウインド・アローによる面攻撃を仕掛けてくるが、機動力の上がった俺を捉えきれない。
俺は基本は攻撃をかわし、避け切れないものはウインド・シールドで防御して、試合場をジグザグに駆け抜けていき、相手選手を抜き去ると玉を挟んで裏に回る。
「ファイア・スピアー!」
そして相手の目が追い付かないうちに、ファイア・スピアーの二連発でロック・ウォールに守られた玉を破壊した。
「えー、では続いて、えー、準々決勝です。えー、ビリー選手、えー、ブレイド選手、えー、出てきてください」
結構早く呼ばれてドキッとした。そうか、サクサク進行するって事は、こういう事か。俺は多少の疲れを引き摺りながら、出来るだけゆっくりと試合場に足を運んだ。
「えー、では、えー、準々決勝二戦目を、えー、始めます」
本当にダン先生はサクサク進めてくれる。こっちの疲れも考慮して欲しいものだ。俺は直ぐ様フローズン・アース・プリズンで玉を囲う。が、相手のビリーさんは防御魔法を唱える訳でもなければ、攻撃を仕掛けてもこない。
制服に黄色の差し色が入っているので三年生らしいビリーさんは、薄青色の短髪に新緑のような瞳で、目が合うとにやりと笑った。
「お前、中々強いな。ガチでやり合おうぜ」
何が言いたいんだ? と警戒を強めると、ビリーさんはスッと右手に剣の柄のような魔導器を取り出した。今までのビリーさんの試合を見てきたが、彼はあんなもの使っていなかった。と、
「ファイア・ソード」
ビリーさんが呪文を唱えると、柄先から炎の刃が噴き出す。成程、ああやって使うものなのか。
「ブースト!」
そう唱えたかと思うとビリーさんは猛スピードでこちらに突っ込んでくる。それは愚策だろ!
「ロック・ウォール!」
俺は直ぐ様ロック・ウォールを前面に展開するが、ビリーさんは俺のロック・ウォールを一刀の下に両断し、その突進が止まる事はなかった。
「くっ、ファイア・アロー!」
直前まで迫ったビリーさんに、数十本の火の矢をお見舞いするが、
「ブースト!」
更にスピードを上げたビリーさんは俺のファイア・アローを全て炎の剣で叩き落としてみせる。
が、やはりこちらまで突っ込んできたのは愚策だ。俺はこの隙にファイア・アローを上空に放ち、放たれた火の矢は弧を描いてビリーさんの玉に向かっていく。
「ブースト!」
な!? まさかのブースト三つ掛け!? そんな事したら、身体がブーストに耐えきれないんじゃ!? そう思う俺の目の前でビリーさんは姿を消し、気付いた時には自玉の前まで戻って俺が放ったファイア・アローを全て叩き落としていた。速い!
「くっ、ブースト!」
速すぎるビリーさんに対抗する為に、俺もブーストを唱えるが、強化された視角でもビリーさんは目で追うのが難しい程速い。
「くっ、ファイア・ソード!」
ボンッ! 炎の剣と炎の剣がぶつかり合い、爆発と熱風が身体を軽く焼く。俺が右手に出した炎の剣を見て、またもにやりと笑うビリーさん。
「それだよ。出来るじゃねえか」
ビリーさんはそう言うと、蹴りを出してきた。マジか!? 〈魔法・実戦〉だぞ!? 俺はまさかの攻撃に対処しきれず、蹴りを食らって仰向けに倒れてしまう。
呻き腹を押さえながらビリーさんの方を見ると、炎の剣を逆手に持ち、俺に突き刺そうとしてくる。俺はとっさにそれを横に回転して避けると、素早く立ち上がり、ビリーさんと距離を取ろうとするが、向こうはブースト三つ掛けだ。素早さでは敵わない。
直ぐに距離を詰められ、俺は防戦一方にさせられる。斜め、逆斜め、突き、胴薙ぎ逆胴、切り上げとビリーさんの攻撃を、幼い頃から父に叩き込まれた剣術が、ほとんど無意識にそれらを受け止め、受け流し、かわし、いなす。剣術やってて良かった。
炎の剣が身体をかする度に熱いはずなのに冷や汗が止まらない。攻城戦であり、玉を攻めるのが定石だと言うのに、この人はそんな事お構い無しで俺を攻めてくる。つまりは将を倒した後で玉を獲るつもりなのだ。
作戦としてはありなのだろうが、付き合わされるこっちはたまったもんじゃない。なんだろう、段々ムカムカしてきた。
「ブースト!!」
俺も更にブーストを唱えて身体能力を強化すると、攻勢に出る。上段から振り下ろしてきたビリーさんの炎の剣を、こっちの炎の剣で受け流すと、相手が体勢を立て直す前に懐に入り込む。
そこに蹴りを合わせてくるビリーさんは流石だが、俺は更にしゃがみこんでその下に潜り込み、ビリーさんに足払いをお見舞いする。
俺の足払いで転んだビリーさんは、直ぐ様立ち上がる。が、俺の炎の剣がビリーさんの柄を断ち切り、返す刀でビリーさんの首を狙うが、流石にスピードはあちらが速い。これを避けるビリーさんだったが、もう遅い。
「えー、そこまで」
反撃に転じようとしたビリーさんは、ダン先生の制止を聴いて耳を疑うようにダン先生を見遣る。が、ダン先生は間違っていない。ダン先生がビリーさんに自玉を確認するように目で促し、ビリーさんは全てを理解した。玉が破壊されていたのだ。
俺はビリーさんを足払いで転ばせた瞬間にウインド・アローを放ち、玉破壊に意識を向けていた。その後のビリーさんへの攻撃は玉破壊を防がせない為の予防線だった。
「ふう、負けちまったか」
そう言いながら手を差し出すビリーさん。俺が握手に応えると、
「次は〈武術・実戦〉でだな」
との事。ああ、この人も〈武術・実戦〉に出るのか。厄介だな。
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