評価と対照
リビングには三年生四人に四年生三人、そして俺たち五人。当然椅子が足りるはずもなく、各々の組が代表者のみを椅子に座らせ、その他はその後ろに立つ。俺たちが座らせたのは勿論カルロスだ。
三年生組が座らせたのは、金髪に紫のメッシュが入った男で、椅子に深く腰掛け、足を組み腕を組み、背もたれに身体を預けてふんぞり返っている。後ろの三人の態度もメッシュ男を持ち上げるような感じなので、この男が三年生組のリーダー格なのだろう。
四年生組が座らせたのは、緩やかにウェーブの掛かった栗毛に銀眼の女性で、俺たちからたった三つ上とは思えない大人の色気を醸し出していた。後ろの二人の存在を打ち消す程に存在感がスゴい。胸の。
「あらあら、茶器足りるかしら?」
と婦人は台所へ向かい、俺たちの為にと茶を用意してくれた。茶器のデザインがバラバラなのはご愛嬌だろう。
「今、ガボットを呼んできますから、お菓子でも食べててね?」
俺たちに茶を出してくれた婦人は、テーブルに乾菓子を置いていくと、家の奥にガボットさんを呼びに向かった。
「ウッド・ブレイドか」
俺が早速乾菓子に手を伸ばすと、三年生のメッシュ男がぼそりと呟いた。「ウッド・ブレイド」は、二年生との決闘の後に周りから呼ばれるようになった渾名だ。木剣を使い名前がブレイドだからって、「木剣」はいささか安直だと思う。
「君は既に自分の竜を持っているんじゃなかったか?」
メッシュ男は初対面だと言うのに不躾にそう尋ねてきた。
「今回サンダーラッシュを譲り受けたいのは、俺じゃありませんよ」
と俺は前に座るカルロスの肩を叩くが、メッシュ男は「誰だそいつ?」と言いたげな顔をしている。
「確かこの間の決闘で、サンダーラッシュに乗っていた子よね?」
柔和な笑顔で話に参加してきた四年生の女性だったが、
「あれで私はサンダーラッシュに惚れたのよ」
と、暗に「今回の交渉は私に譲りなさい」と言った雰囲気を出してきていた。三年生にしろ四年生にしろ、態度から交渉で折れる気がないのが窺い知れる。
「ほら、アナタ、いつまで引きこもっているつもりですか?」
奥から婦人のそんな声が聴こえてきたかと思ったら、婦人に腕を引っ張られながら、ガボットさんが現れた。
白いシャツに茶色のジャケットにズボン、白髪は前部が禿げ上がり、目は黒。流石は元竜騎士と言った体躯は日に焼けて黒く、なんとも気難しそうな顔をしている。
「嫌だ! 私はサンダーラッシュを譲る気はないぞ!」
いきなりゴネている。しかし婦人は強引にガボットさんを俺たちの向かいの席に座らせた。ガボットさんの顔は不機嫌極まりない。ああ、良くノエルがあんな顔してるなあ、と思い返され、俺はくすりと笑ってしまい、目敏くそれを目にしたガボットさんに睨まれてしまった。
「とにかく、貴様らにサンダーラッシュはやれん! 帰れ!」
「そう言わずに、ね? 折角来てくれたんですから」
説得する婦人に対しても聞く耳を持たず、ガボットさんは俺たちへ帰れの一点張りである。
「でもどうするの? アナタも老い先短い身なのよ? 道連れにされるサンダーラッシュが可哀想だわ」
竜は人間より長寿だ。しかし婦人が指摘するように、契約の鎖で繋がれている為に、契約者がどんな理由で死のうと、竜は道連れで死ななくてはならない。いくら竜の暴走を阻止する為の契約とは言え、人の都合に合わせた、理不尽な契約である。
ガボットさんもそれを指摘されれば反論出来ないらしく、俺たちの前で腕を組んで長考し続けた結果、ぼそっと一言呟いた。
「……どいつだ? ウチのサンダーラッシュが欲しいと言ってる奴は」
まず声を上げたのは四年生だ。
「私はネビュラ学院四年のサンドラと申します。こう見えましても学園で五指に入る魔法使いと自負しております。サンダーラッシュの今後を考えるのであれば、何卒私にサンダーラッシュを譲っては頂けないでしょうか?」
へえ、サンドラさんって凄い魔法使いだったのか。自信に溢れるその態度は、それがはったりでないと語っている。
「僕はディーン・ネイザー。貴方と同じく騎士爵のネイザー家の生まれです。僕はサンダーラッシュを高く評価しています。サンダーラッシュは僕にこそ相応しい。八百万キルクルス用意しました。それだけの価値がサンダーラッシュにはある」
八百万キルクルスか。相当積んだな。それだけあれば普通に竜狩りに依頼して竜と契約出来る。それだけサンダーラッシュを高く評価している訳だな。
さてカルロスは? とカルロスがどう出るのか待っていたが、後ろから見る限りぷるぷる震えているだけで、自己紹介もしない。顔を覗くと青ざめている。
「どうした? 腹の調子でも悪いのか?」
俺が心配して耳元で尋ねると、
「……ない」
「は?」
「俺にはサンドラさんのような実力も、ディーンさんのような金もない。こんな俺がサンダーラッシュと契約しようなんて、烏滸がましいんじゃ……」
ここに来て怖じ気付くなよ。
「なら他の二人にサンダーラッシュを譲るか?」
そう尋ねたら強く首を横に振った。
「だろ? どうなるかは分からない。でもこの機会は逃したら駄目だ。カルロスの本音を、気持ちだけでも伝えるんだ」
首肯したカルロスは、深呼吸して気持ちを落ち着けると、ガボットさんを正面から見据える。対するガボットさんも、それを真摯に受け止め、見返してきていた。
「俺はカルロスと言います。サンダーラッシュとの出会いはちょっと前の決闘です。サンダーラッシュは見た目毛むくじゃらで、ネビュラ学院でも一番の不人気竜で、決闘の時も他の竜は既に二年生たちに取られていたから、俺は仕方なくサンダーラッシュに騎乗しました」
おいおい、思いを伝えろとは言ったが、そんなマイナス評価まで口にするなよ。
「でもそれは、最高に痺れる体験でした。確かにサンダーラッシュの電撃で痺れた部分もあったけど、それ以上に爽快で、あんな、世界の全てを置き去りにしていくような体験、サンダーラッシュとじゃなければ出来ないって思いました。だから、俺はサンダーラッシュとこれからもあの痺れる体験を重ねていきたいんです」
中々良い告白だったんじゃないか? 実力、金、想い、と三者三様のアピールを黙って聞いていたガボットさん。さて、どう判断し、誰にサンダーラッシュを譲るのか。
ここまでお読み頂きありがとうございます。作者は感想に飢えております。何卒作者に感想を頂きたい。ペコリ。




