六対百その1
「壮観だな」
俺は額に手を当てその光景を眺める。俺たち六人の前には、百騎を超える人竜が待ち構えているからだ。二年生にも平民出はいるのだろう、流石に百五十騎はいないが。そして二年生のほとんどが出る決闘と言う事もあり、かなりの数の学生、先生が見物に来ていた。
決闘は先生方の許可を得て、その日の内に執り行われる事になった。学院前の原っぱに特設フィールドが設置された。受験の時のあれだ。時間は一般コースが終わった後。日もかなり傾いてきているが、まだ夕方と呼ぶには早い時間帯だ。
「ブレイド! まさかここに来て怖じ気付いたなんて言わないわよね?」
空より濃い青色をした竜サファイアに跨がりながら、マイヤーが話し掛けてきた。
「まさか!? 俺は今、奴らをぶっ潰したくて腸煮え繰り返ってるんだよ!」
六対百だと言うのに、烏滸がましいが負ける気がしない。
「ふふ。その調子で本番も頼みますよ!」
そう言うエドワード会長が跨がるのは、双頭の金竜ランスロットだ。四年の竜舎には行った事がなかったので知らなかったが、会長の金竜は有名らしい。確かに我々六騎の中では最大で、厳つく強そうである。
「なんだか大事になってしまってすまない」
ショーンはそう謝るが、大事にしたのは俺だ。謝られる道理が無い。乗っているのは葡萄酒のように赤い竜ルブルムだ。
「そうだよ。竜を汚されたんだから、これくらいして当然だよ」
いつものように訥々と語るアインだが、俺に負けず劣らず、この決闘には相当気合いを入れている。騎乗する竜は緑の八角形の鱗を持つ竜オクタミルだ。
「俺だけ場違いじゃないか?」
そう尋ねてくるのはカルロスである。
「ぶふう。大丈夫可愛いから!」
「笑ってんじゃねえか!」
笑いたくなるのも仕方ない。カルロスが騎乗? しているのは、竜と言うより毛玉だからだ。色は明るい茶色でまん丸。翼がどこに付いているのか、火袋がどこにあるのか、顔さえどこにあるのか分からない。でも飛んでいる。竜と言うより不思議物体だ。
カルロスや平民出の学生には自前の竜のがいない者も少なくない。だが学院には騎竜の授業があり、そう言った学生の為、既に引退した竜騎士などが竜を貸してくれるのだが、その数にも限りがある。
今回二年生の平民出が良い所の竜を独占してしまったので、残っていたのがこの毛玉竜サンダーラッシュだったのだ。戦う前から「あれに乗るのかよ」と大人気だ。
「カルロスは一先ず手綱を離さず、竜から落とされないように気を付けてくれ!」
「分かった!」
そしてポーリン先生が出てきて、決闘が開始される。
「両者、己が潔白と誇りに懸けて戦う事を誓いますね?」
「誓います!」
その場の全員が宣誓し、それを聞いたポーリン先生が片手を上げる。
「ではこれより決闘を開始します!」
先生の宣言が終わるやいなや、いきなり飛び出した竜がいた。二年生の竜じゃない。なんと我が陣営のサンダーラッシュだ。
サンダーラッシュは全身にバチバチと電気を纏うと、あり得ないスピードで敵陣に突進していく。そのスピードに驚嘆した敵陣営はいきなり大混乱に陥り、サンダーラッシュの突進で、何騎かの人竜が落竜している。
「すげえな」
出遅れた俺たちは呆然とそれを見ていたが、サンダーラッシュは突進、突進、突進の繰り返しで、カルロスはサンダーラッシュを制御出来ず、落ちずにいるので精一杯のようだ。
「あれはあのままにしておこう」
俺の言葉に四人が首肯する。
カルロスとサンダーラッシュに先を越された俺たちだが、戦況が混乱している今は好機である。俺たちは一気に二年生たちまで距離を詰め、人竜を突き崩しに掛かった。
そこで威力を発揮したのはエドワード会長とランスロットだ。ランスロットは二つの頭で敵竜を二頭掴んでは投げ、更に上に跨がったエドワード会長の槍捌きが素晴らしく、端から敵陣営を崩壊させていく。
だが、それに待ったを掛ける人竜が現れた。ガイウスとその竜だ。灰色の巨大な竜は長い顎髭が特徴的で、体格はランスロットの二倍はある。
「流石はお強いですね会長! ですが決闘で騎竜戦を選んだのは失敗だった! 何故なら我が家に代々仕える、このデュークに勝る竜は存在しないからだ!」
ガイウスはそう言いながら、デュークと共に会長とランスロットにその巨体で持って突進していく。流石のランスロットも、この体格差てば受け止めきれない、とこれを回避するが、その進行方向に敵は人竜を配置し、会長とランスロットにアタックを仕掛けている。
代わって敵陣中央では、マイヤー、アイン、ショーンの三騎が、ショーンをいじめていた五人に突進を仕掛けていたが、敵もそれは予想済みだったのだろう。多くの人竜を割いて対処していた。分かっていた事だが多勢に無勢だ。三騎は囲まれないように立ち回るので精一杯と言う様子だった。
助けに行かなければ、と目の前の人竜を一騎倒して、そちらに向かおうとする俺とアルジェントの前に、リオナさんとシエロが立ちはだかった。
「軽蔑しますか? それとも笑いますか?」
それは俺に尋ねているのか、自問自答しているのか分からなかった。
「リオナさんにだって、理由があるのでしょう?」
「そうですね。理由があり、自分で決断し、今ブレイド殿の前に立ち塞がっています」
その目は、真っ直ぐ俺を見据えていた。
「ならば、俺はリオナさんとシエロを倒して友を救いに行くだけです!」
リオナさんの目に力が入る。リオナさんはあれで根っからの戦士だ。言い訳をしていたが、きっと俺と真剣勝負をする機会を窺っていたのだろう。ならばこの勝負、乗ろうじゃないか。
「リオナさん、勝負です!」
「はい!」
俺とリオナさんの気合いと気合いがぶつかる。




