独り善がり
俺は事態を甘く見ていたのかも知れない。上級生のいじめの標的が、本格的にショーンになってきた。俺たちも目が届く範囲で上級生がショーンに手を上げるのを止めたり、ショーンを一人にしないように気を付けていたが、ショーンの生傷は日に日に増えていくし、向こうは俺たちまで標的にしてきていた。
そして決定的な出来事が起こる。俺たちは昼に食堂に行く前に竜舎に寄るのが日課となっていたのだが、この日、一年の竜舎は人だかりが出来ていた。何事か? と俺たちも顔を覗かせると、竜舎内が滅茶苦茶に荒らされ、ペンキでもぶちまけたのだろう、竜たちに変な染みが出来ている。
「これはまたカラフルになったものだな」
「は!? ブレイドなに言ってるのよ!」
俺の発言に怒るマイヤーだったが、俺の顔を覗いて一歩後退った。それ程俺の顔は怒りに満ちていたのだろう。特に俺、マイヤー、アイン、ショーンの竜房は酷く荒らされ、竜房に繋がれた竜たちは、自由が封じられているが為に、ペンキで酷く汚されていた。
「あいつら絶対許さねえ!!」
俺は今までどこか他人事だと、斜に構えていた所があったかも知れない。だがアルジェントは家族だ。家族への攻撃は報復に値する。
俺が直ぐにでも飛び出して行こうとするのを、腕を掴まれ止められた。
「何だよ!」
振りほどこうにも振りほどけず、振り返って悪態を吐くと、それは学生会会長だった。会長はニッコリ笑っていた。が、目が笑っていない。
「これを誰がやったのか、心当たりがあるのかい?」
一見冷静な質問のように見えたが、俺の背筋を冷たい汗が流れる。
「完全にそいつらだと言い切れませんけど」
と断りを入れてから、俺たちは会長に事のあらましを説明した。
俺たちにちょっかいを出してきていたのは、二年生たちだった。なので俺たちは二年の教室に直行した。
「うおらぁっ!!」
二年の教室のドアを勢い良く開けると、驚いた二年生が一斉にこちらを向く。その中に俺たちにちょっかい出している奴らもいた。
最初奴らは俺たちを見て驚いていたが、俺たちだと気付くとニヤニヤとムカつく笑顔を浮かべている。
「どうしたんですブレイド殿?」
その教室にはリオナさんもいた。
「どうもこうもありません! 一年の竜舎が荒らされていたんです!」
マイヤーがリオナさんに訴える。
「それが二年の教室に突撃してくる理由になるんですか?」
知らない二年生が、マイヤーに説明を求めてくる。青髪を短く刈った、金眼の少年だ。その金眼は完全に俺たちを邪魔者扱いする目だった。
「なります! やったのがあいつらだからです!」
そんな視線に負けず、マイヤーは件のあいつらを指差して訴える。
「おいおい、俺たちがしたって証拠があるのかよ?」
あいつらは白を切るつもりようだ。
「竜は家族だ。それを汚されたら激怒して当然」
アインが訥々と語るが、声に怒気が籠っている。
「はは! 自分でペンキ被ったんじゃないのか? 元々薄汚れていたからな!」
ハッ、語るに落ちたな。俺たちの誰もペンキのペの字も出していない。それなのにペンキで汚れた事を知っていると言う事は、こいつら黒だ。だが、
「んな事、もうどうでも良いんだよ!」
俺の感情は爆発しようとしていた。
「はあ?」
「決闘だ!」
「けっとぅ?」
「決闘だ! 二年全員掛かってこい! 俺がぶっ潰してやる!!」
俺の発言が余りにぶっ飛んでいたからだろう。リオナさんを除く教室にいた全員が笑い声を上げる。
「バカじゃねえかお前! 一人で俺たち二年全員相手にしようってのか?」
「一人じゃないわよ!」
そう言って俺の肩を叩く四本の手。マイヤー、カルロス、アイン、ショーンだ。
「五人て。五人で百五十人相手に出来ると思ってるのか?」
「逃げるつもりか?」
俺は更に二年生を挑発する。
「そりゃあそうだよなあ。二年生にもなって、新入生たった五人に負けた無様を全学生に晒したくないもんなあ」
「お前ふざけんなよ!!」
「何様のつもりよ!」
教室にいた二年生たちが口々に俺を罵り始めた。がそれは一人の学生の手拍子によって終息する。先程マイヤーを諌めた学生だ。
「悪いけど、そんな挑発に乗って、時間を無駄にするつもりはない」
この学生の発言で二年生は冷静さ取り戻したようだ。
「時間の無駄にならなければ良いのかい?」
そう言ってもう一人、俺の肩を叩く人が現れた。振り返ると、会長である。
「会長……。エドワード会長もまさか一年生の世迷い言に乗るつもりなんですか?」
「ガイウスくん。世迷い言でも何でもない。僕の竜舎が傷付けられたのは、厳然なる事実だ」
会長の怒気が背中越しでも伝わってくる。実際に会長の顔を見ている二年生の中には、青ざめている者も出ていた。
「はあ……。会長が参加すると言うなら、決闘をするのもやぶさかではありません」
「ガイウス!?」
あいつらが驚いている。だがガイウスはそれを無視して話を進行した。
「でも、分かってますか? 彼らはたった五人、会長を足しても六人で、二年生全員を相手にすると申し出てきたんですよ?」
「ほう?」
俺は会長を振り返り、こくりと首肯する。
「それで僕は構わないよ」
ざわざわとどよめく教室。ガイウスがにやりと笑う。
「皆、聞いたな? これは好機だ! 当代最強と謳われるエドワード会長を、多勢とは言え倒す事が出来れば、俺たちの将来はより有利なものになるだろう! この決闘、圧倒して勝つぞ!」
ガイウスの気勢に圧されながらも、二年生の目が真剣なものに変わっていく。
「それで? 決闘方法は何にするんだ?」
俺に尋ねるガイウス。決闘方法は既に決めてある。
「騎竜だ」
竜の恨みは竜で返す。
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