正義と暴力
「てめぇ、一年の癖に生意気なんだよ!」
昼食も終わり、食堂から教室に戻る為に廊下を通っていると、窓の外から人を野次る声が聴こえ、俺たち四人は窓を覗く。
そこではショーンが上級生五人に絡まれていた。壁際まで追い詰められ、五人に囲まれている。
「一年生かどうかなんて関係ありません! いけない事をいけないと言って何が悪いんですか!?」
バキッと顔を殴られるショーン。俺たちは慌てて止めに入った。
「何やってんだあんたら!?」
「あん?」
「関係ない奴は黙ってろよ!」
五人の矛先が俺に向き、その間にカルロス、マイヤー、アインがショーンと上級生の間に入る。
「ほう? そっちの味方をするって事か?」
「何があったか知らないけど、殴るのはやり過ぎじゃない?」
キッと上級生を睨み付けるマイヤー。
「先にいちゃもん付けてきたのはそっちだ!」
「いちゃもんだと? そっちが廊下でわざと下級生にぶつかっといて絡んでたんじゃないか!」
と上級生に対するショーンの言い分。成程、ショーンも面倒臭いし上級生も面倒臭い。
「ショーンは何も悪くないじゃない!」
だがマイヤーはお怒りだ。マイヤーも気が強い所あるからな。
「うるせえ! 学院ではぶつかったら下級生が謝るもんなんだよ!」
そう言って上級生の一人がマイヤーに殴り掛かるが、それはマイヤーに避けられ、後ろのショーンに当たってしまう。
「あ、ごめんショーン」
「き、気にしないで……」
と言う言葉を最後に、ショーンは気絶してしまった。
「ううん」
「あ、目ぇ覚めた?」
目を覚ましたショーンは、自分がベッドに寝かされている事に驚いたのか、それとも顔を覗き込んできたマイヤーに驚いたのか、上半身を跳ね起こす。
「ここは? あの上級生たちは?」
「救務室よ。ショーン殴られて気絶しちゃったから、私たちでここに運び込んだのよ」
「上級生たちはショーンが気絶したら気が晴れたのか、笑ってどっか行っちまったよ」
とマイヤーとカルロス。それにアインと俺で、ショーンが目覚めるのを待っていた。
「そうだったのか。迷惑かけてごめん」
「全くだ。勝手な正義を振りかざして気絶とか、周りの迷惑を考えろよ」
カルロスの言葉に閉口するショーン。
「言い過ぎよカルロス。ショーンだって悪気があってやってるんじゃないんだから」
カルロスを窘めるマイヤー。マイヤーの考え方はショーンに近いようだ。
「それより、もう昼休みが終わる。教室に戻ろう」
俺の提言にカルロス、マイヤー、アインは救務室を出ていこうとするが、ショーンはベッドの上から動かない。
「どうかしたのか? 怪我なら救務室の先生が治してくれたから、大丈夫だと思うけど?」
俺がショーンに尋ねると、彼は首を横に振った。
「僕は悔しい! この学院には悪が蔓延っていると言うのに、僕にはそれを止める力が無い!」
そんな事か。まあこの学院は実力主義だしな。強ければ多少のわがままもまかり通る。そんなものなのだ。ショーンが自分語りしてるけど、興味ない。カルロスは横向いてるし、アインなんか爪いじり始めてる。うんうんと聞いているのはマイヤーだけだ。
「なんとかあいつらを反省させる方法はないかしら?」
と俺たちを見遣るマイヤーとショーン。
「え? 俺たちに聞いてるの?」
「ここにいるのは、私たち五人だけでしょ?」
まあ、そうだね。救務室の先生も、練武場で学生が大怪我したとかでそっちに行っちゃったしな。
「強くなるしかないんじゃないか?」
「それじゃ弱者は強者の奴隷じゃないか!」
「ショーン」
俺の窘めるような物言いに、ハッとするショーン。
この国には奴隷がいない。奴隷制は魔法文明を否定する考え方だからだ。奴隷の代わりに魔法が火をおこし、水を生み出し、風で扇ぎ、土を固める。この国では魔法こそが奴隷なのだ。だから魔導器を使わずに魔法が使える竜との契約者は、国で優遇されている。そして奴隷と言う文言もこのガラク王国では忌避されている。
「思い詰めるなよショーン」
「でも!」
「この問題に関しては、俺はショーンが悪いと思っている」
俺の言葉に絶句するショーン。ショーンだけでなくマイヤーまで絶句している。
「本気で言っているのブレイド?」
尋ねるマイヤーに俺は首肯する。侮蔑するような目を俺に向けるマイヤー。
「そもそもこのネビュラ学院に入学した時点で、例え学院の最底辺であろうと弱者じゃない。強者だ。ショーン、お前の弱者だから助けてやろうと言う思い上がった考え方は、ここの学生全てに対する侮辱だ」
「……侮辱」
ショックで固まるショーン。
「それともう一つ」
まだあるのか? とショーンは辟易しながらこちらを見遣る。
「お前が弱いのが悪い」
「な!?」
今さっきこの学院に弱者はいないと言ったが、それは世間一般と比較してだ。学院内ではやはり序列が出来てしまっている。
「ショーン、もしお前がこの学院で一番強かったら、この問題は解決していたんだ。お前が上級生より強ければ、上級生も素直に聞いていたかも知れない」
「聞かなかったかも知れないじゃない?」
マイヤーはなじるように言い放つ。
「ああ、かも知れない。だからこの学院には決闘がある。決闘で自分の正義を証明する事が出来るんだ。上級生もそれは分かっているだろう。ショーンが、学院で一番強い奴が、正義感に溢れる人物なら、決闘を恐れて、その目が行き届く学院内で悪事は働かないはずだ」
「暴力に訴えろって言うのか?」
ショーンも俺をなじる。まるで俺が悪者みたいな言い方だ。
「はあ。これは俺の父が言っていた言葉だが、正義無き力はただの暴力だが、力無き正義もまた無力である」
俺の言葉にショーンもマイヤーも俯き閉口する。
「ショーン、お前には正義の心があるんだ。あとは力を手に入れるだけだ。その為に、正義を実行する力を手にする為に、この学院に入ったんだろう?」
ショーンは何かが決壊するように、その場で泣き始めたのだった。
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