武術の授業にて
「納得いかないわ」
あんな事があった翌日の教室。俺とカルロスの後ろの席で不満を露にするマイヤー。
「何が不満なんだよ。生き残れて良かったじゃないか?」
振り返って尋ねるカルロス。
「カルロスは悔しくなかったの?」
「悔しい?」
「ブレイドとの実力差よ」
とマイヤーは俺を睨んでくる。
「実力差? 俺は余り感じなかったけど? アルミラージだって、ミラージュ・カメレオンだって、マイヤーの方が倒してたろ?」
と俺はマイヤーを宥める。
「その余裕、ムカつくんだけど」
窘められてしまった。
「私が言っているのはウォーウルフの事よ。あれをブレイドは一撃で倒してたじゃない。私やアインは何度が突き刺さないと出来なかった相手だわ。それをブレイドは一撃で倒していた。剣も魔法も、私たちより上の証左だわ」
あの大混乱の中、良く見ているな。マイヤーの話に、最近マイヤーの横の席に場所を移したアインも頷いている。
「確かに凄かったよな。あの木網がなければマジでやばかったし」
「それには同意するけど、悔しいでしょ? カルロスは悔しくないの?」
「まあ俺は元々ブレイドは俺より強いと思ってたしな。ウォーウルフとの戦いでもビビって何も出来なかったし」
「カッコ悪」
「うるせえな。強いといえばアーネストさんは良いのか。あの人もバンバンウォーウルフを倒していたろ?」
アーネストさんか。あの人は俺より強かった。守らなければいけない下級生がいなければ、もっと実力を発揮出来ていただろうな。ウォーウルフの群れも、一人で倒せていたかも知れない。
「アーネストさんは良いのよ! 上級生だし、格好いいし、華麗だし!」
上級生だと言うのは分かるが、何故頬に手を当てクネクネする。アインもカルロスと引いているぞ。
「それで、ブレイドはどうやってそんな強さを身に付けたの?」
と真顔に戻ったマイヤーが身を乗り出して尋ねてくる。
「ウチの親が超厳しいだよ。あれは地獄の苦行だ」
「ふ~ん。ちなみにどんな事してるの?」
俺が修行の内容を皆に話すと、
「え? ブレイドは親御さんに嫌われてるの?」
と突っ込まれる。俺もそう感じた事がありました。ここで商学の先生が教室に入ってきたので、俺たちの話はそれまでとなった。
「とは言っても、負けっぱなしは趣味じゃないのよ!」
次の武術の授業の時間。練武場で俺とマイヤーは向かい合う。武術の授業では、最初個人で柔軟や素振りなどウォーミングアップをこなし、一対一や一対多、多対多などを行う。まずは一対一だ。
「ぶっ潰す」
物騒な言葉を吐きながらハルバードを上段に構えるマイヤー。俺は木剣を中段に構えて迎え撃つ。
「始め!」
ラウド先生の大声で試合開始。
「ハッ!」
リーチの差を利用して、マイヤーがハルバードの斧部を振り下ろして来る。俺はそれをギリギリで避けるが、マイヤーのハルバードは下まで振り下ろされる事なく途中で止まり、軌道を横に変えて俺を追ってくる。
「ぐっ!」
木剣でそれを受けるが、相変わらずのマイヤーの膂力に、俺は数歩分弾かれる。マイヤーはその勢いを殺さないように槍部で連続突きを繰り出してくる。それを俺は木剣で受け流していく。が、斧部や鉤部を持つ複雑なハルバードは、受けるだけでも難しい。
マイヤーは更に攻勢を強め、槍部だけでなく斧部、鉤部まで使って多角的な攻撃を仕掛けてくる。ああ、面倒臭い!
俺は木剣の先端を八股に分けると、ぐるりとハルバードの先端を巻き込み、ハルバードの刃が使えなくすると、木剣を柄元から外し、更なる木剣を生成。刃が使えなくなって戸惑っているマイヤーに接近すると、木剣の切っ先をマイヤーの眉間にコツンと当てる。
「そこまで!」
ラウド先生の大声で試合終了である。
「ずるいわよ!」
試合の結果に納得いかないマイヤーが文句を付けてくる。この試合を見ていた他のクラスメートも、あれはどうなんだ? とぼそぼそ横と話し合っている。
「木剣の特性だよ」
と俺は逃げるが、あんな事をしなくても勝てたのだ。ただしその場合、木剣でハルバードの刃部を切り落とす事になっていたが。それは流石に出来ないだろう。だからあれで勘弁して欲しい。
「次は僕とやろう」
俺が木剣がぐるぐる巻きになっているマイヤーのハルバードの先端を外していると、立ち上がったのは、アインと、緑髪の少年だった。
緑髪を短く刈り込んだ赤紫の瞳の少年は、我がクラスのクラス委員長ショーン・ボタニック。ハキハキとして実直。曲がった事が大嫌いで、例え上級生であろうとも、誰彼構わず注意しているのを学院のそこかしこで見掛ける。
互いに立ち上がったアインとショーンは、スッと目で会話をし、アインが一歩下がる。今回はショーンに機会を譲ったようだ。
白線のマスの中に入ってきたショーンは、既に俺を睨み付けている。う~ん、俺、彼に目を付けられる事したっけ?
「ブレイドくん。君は何を考えているんだ?」
いきなり尋ねられたが、何の事が分からない。
「これは武術の授業だよ? それをそのような魔法で誤魔化して、恥ずかしくないのかい?」
どうやら先程の試合がお気に召さなかったようだ。
「初日に決闘騒ぎを起こしているし、座学の態度も悪い。君は平民だろう? そのような生活態度では、無理を押してこの学院に入学させて下さった、ご両親も嘆く事だろう」
違った。日頃から俺の事が気に食わなかったようだ。しかし、両親が無理を押してか。この学院での入学金やら学費やらの諸経費の事を言っているなら、払っているのは俺だ。グリフォンやワイバーン退治で倒した金で学院での諸経費を全て賄っている。
「悪いが、これは自業自得だ」
言いながら腰から真剣を抜くショーン。柄や鍔に意匠が施され、魔核などが埋まった高価そうな剣だ。しかしまるで俺が悪者のような決め付けだが、余り言われると、温厚な俺でも腹が立つ。俺とショーンは互いに剣を中段に構える。
「始め!」
ラウド先生の合図で試合が始まる。先に仕掛けてきたのはショーンだ。剣を上段に振り上げ接近すると、それを振り下ろしてくる。
キィンッ! と言う金属音が練武場に響く。ショーンの剣は俺の木剣で中程で真っ二つに叩き切られ、その切っ先が練武場の地面に突き刺さった。余りにショックなのか、俺に剣を振り下ろした姿のまま、ショーンは目をかっ開いて呆然としている。
「それまで!」
ラウド先生が終了の合図を上げても、ショーンは動かず、ラウド先生に邪魔そうに白線のマスからどけられていた。




