火急
「なんだろう。順調に金は稼げているが、とても虚しい」
昼食時、俺たち四人は交換所に併設されている食堂で食事を摂っていた。食べているのはアルミラージの串焼きに、アルミラージのシチューだ。結構山盛りで千五百キルクルスは安いのかも知れないが、肉は筋ばって硬く、午前中にアルミラージとしか遭遇しなかった俺たちには、なんだか印象深い昼食だ。それもあってかカルロスが愚痴をこぼしている。
「私ら、アルミラージの運搬係じゃないしね」
マイヤーもその意見には同意だ。アインも頷いている。アルミラージ一匹一匹は俺たちにとって強くはないが、直ぐに挟撃なり包囲なりと賢く立ち回ってくるので、面倒臭いのだ。
「入る入り口を変えたらどうだ? 森の入り口はあそこだけじゃないんだろ?」
俺が尋ねると、三人が首を横に振る。
「ブレイド、先生の話聞いてなかったのか?」
え?
「一年生が入って良い入り口は、あそこだけなのよ」
との二人の意見。ううむ、何やら聞き漏らしがあったようだ。
「それにしては他の学生の姿を見ないな?」
俺の話に四人で顔を付き合わせる。交換所ではそれなりに一年生の姿も見掛けるのだが、森の中では全く遭遇しない。アルミラージよりネビュラ学院の一年生の方が希少と言う事もないだろう。
「何か、トリックがありそうだな」
俺たちは他の一年生たちがどうしているのか、観察する所から始めた。
すると他の一年生たちは食堂を出て直ぐに森に行くのではなく、皆、これまた交換所に併設されている道具屋に足を運んでから森に行っているのが分かった。あの道具屋に何かありそうだ。
道具屋は、入り口で門番が二人睨みを利かせており、中では様々なアイテムだけでなく、武器や防具も売り出されている、かなり雑多な道具屋だった。
ほうほう、とアイテムを見ている振りをしながら観察を続けていると、一年生たちだけでなく、上級生や本職の魔物狩りも一度立ち寄るコーナーがあった。
何のコーナーなんだろうと不思議に思い、そこにいってみると、
『魔物避けの匂袋 五千キルクルス』
とあり、大量に匂袋が陳列されていた。しかもその下には、『アルミラージなどが嫌いな匂いを発します』とアルミラージが名指しで表記されている。
「俺たちの今までの苦労はいったい……」
三人がワナワナしている。それを横目に、俺は匂袋を手に取り嗅いでみる。記憶にある匂いだった。
「これはニガヨモギとペパーミントだな」
「匂いで分かるのか?」
三人が驚くが、
「俺は薬草採りの息子だぞ? これだったら俺ん家にストックがあるから……」
とそこまで言って道具屋の主人がこっちを凄い睨んでいる事に気付いた。
「取り敢えず、今日は持ち合わせがないし、これ買って午後も頑張ろう!」
俺は率先して匂袋を手にすると、カウンターに持っていった。
「あ」
「どうかしたの?」
俺の後に続いたアインが声を上げるので、何事かな? とそちらを見ると、カウンターの向こうにはマジックバッグが陳列されていた。高級品だから盗難に遭わないようにしての配慮だろう。値段を見ると、一番安い物でも百五十万からとなっている。いつかは手に入れたいものである。
手に入れた匂袋の効果は絶大で、今まで入り口の目と鼻の先までしか行けなかったのが、俺たちはその奥へと足を踏み入れる事に成功した。
「よし。ここからが今日の本番だ!」
と意気込むカルロス。これまでのようにマイヤーを先頭に菱形の陣形を作って先に進む。
といきなり背後から気配がしたので振り返ると、何もいない所からいきなりファイア・アローの攻撃を受けた。俺はそれを木剣で防ぐ。
「何?」
「分からん。何もいない所からいきなりファイア・アローが飛んできた」
そしてこれを皮切りにそこら中からのファイア・アローの攻撃。それぞれ自分の武器で防ぐが、出所の分からない攻撃に、攻勢に出る事が出来ない。
「あれ!」
そんな中でも冷静なアインが指差す方向を良く見ると、木が蜃気楼のように揺らいでいる。
「ミラージュ・カメレオンか!」
俺は揺らめく陽炎に向かってアイス・アローを放つ。
「ギュッ!」
と言う断末魔と共にミラージュ・カメレオンの擬態は解け、木の根元にゴロリと転がった。
「擬態するだけあってか、防御力は低いみたいだな。アイン、どんどん見付けてくれ!」
首肯するアイン。残る三人はアインの指示した所へ向かって、どんどん魔法を放っていった。
倒したミラージュ・カメレオンの数は計八匹。もっといたように感じたが、こんなものだったのか。
「ふふ。遂にアルミラージ以外の魔物を倒したな」
カルロスはうきうきでミラージュ・カメレオンの魔核を取り除いていく。しかし俺は舐めていたかも知れない。アルミラージと言い、ミラージュ・カメレオンと言い、どちらも一筋縄ではいかない魔物だった。
「これ以上奥に行くのは止めた方が良さそうだな」
俺の意見にマイヤーとアインは首肯してくれるが、カルロスは、
「当然だろ? 死体を換金しなくちゃいけないからな!」
と一人だけ理由を勘違いしていた。そうじゃないんだけどなあ。とカルロスに一歩近付いた瞬間、足下がぞわりとして飛んで遠退くと、いつの間に仕掛けられたのか、網の罠が作動しそこら辺の土を巻き上げ上へと飛び上がる。
「なんだこれ!?」
「トラップ・スパイダーだ!」
アインが珍しく声を荒げる。
「嘘でしょ!? トラップ・スパイダーはもっとずっと奥にいるはずじゃない!」
つまり手強い相手と言う訳か。
「カルロスも気を付けろよ!」
と声を掛けるが返事がない。その場にいたはずの姿が消えている。どこだ? と姿を探すと、上からカルロスの声が聴こえてきた。見上げると、トラップ・スパイダーの網に捕まったカルロスの姿があった。
「何引っ掛かってるのよ!」
そう言いながら、マイヤーは飛び跳ねハルバードで網を切ろうとするが、トラップ・スパイダーの網は頑丈な蜘蛛の糸で出来ているようで切れなかった。
そこに網を吊るす糸を這ってトラップ・スパイダーがカルロスに歩み寄る。
「俺が切る!」
と俺は側の木を駆け登り、勢いをつけて木剣でトラップ・スパイダーの網を切ろうとするが、切れない。
「トラップ・スパイダーの糸は鉄より頑丈なんだ!」
叫ぶアイン。マジか! 俺が着地すると、それを見計らったようにトラップ・スパイダーが網状の糸を吐いてきて、俺たち三人は地に張り付けにされてしまった。
段々とカルロスに近付くトラップスパイダー。だが俺たちにはそれを助ける手段がなかった。
「ファイア・スピアー」
呪文が森に谺し、炎の槍がトラップ・スパイダーを貫く。同時に燃えるトラップ・スパイダーと蜘蛛の糸。
「痛って!」
地に落とされたカルロスが痛がっている。
「ファイア・アロー」
数本の火の矢が、俺たちを地に張り付けていた蜘蛛の糸を焼き切る。どうやらトラップ・スパイダーの糸は火に弱かったようだ。
「危ない所だったね」
俺たちを助けてくれたのは、初日に魔法実験室で重い箱を風魔法で吹き上げていた上級生だった。




