混迷
アームデン伯爵は、恐らく周辺領の領主貴族であろう者たちに囲まれながら話をしていた。
「しかし本当ですか? ヴァイスリッターの子を捕獲したと言うのは?」
貴族の一人がアームデン伯爵に尋ねる。
「ええ。つい昨日の事です。流石はあのヴァイスリッターの子、その強さには苦労させられましたがね。お見せしましょう」
アームデン伯爵が横に控えていた男に指示を出す。現れたのは、大きな台車に巨大な杭で打ち付けられた白竜の姿であった。惨いな。他に拘束の仕方がなかったのか? だが白竜の登場に、停留地の竜騎士たちからは歓声が沸いた。どうやらこのヴァイスリッターの子が、今回の反乱のキーになるようだ。
「ふふふ。これでヴァイスリッターもこちらに手を出せませんね」
貴族の一人がそう口にする。
「ああ、奴が子の悲惨な姿を見て動けぬうちに、我々の誰かがヴァイスリッターと契約魔法を交わしてしまえば、王家との戦いも、我々の勝利で九割方決まったようなものですな」
「九割? いやいや、十割ですよ。はっはっはっはっ」
それに連れて貴族や竜騎士たちが笑っている。なんだろう、俺がガキだからだろうか、胸糞悪い。
食料不足もあって、ちょっとでも可哀想だと同情したのは間違いだった。見ればそこかしこで出立前の立食パーティーが始まっていて、捕縛され、契約魔法を施された幼竜たちを肴に、貴重であろう野菜や肉を貪り食っている。
さてこいつらどうしてやろうか。と画策していると、アームデン伯爵に声を掛けてくる男がいた。青髪に黒目の、商人としては上等な服装をした男だ。
「おお! ミラジオではないか! 良く顔を出してくれた! お前から買った薬は良く効いたぞ!」
薬? もしかしてそれを使って幼竜たちを捕獲したのか? それにしても何故幼竜ばかり? 戦力にしたいなら、成竜の方がよかったはずだ。……いや、幼竜にしか効かない薬だったのかも知れない。母から、竜は何でも食べられるが、幼竜のうちは与えてはいけないものもあると教わった。その中には、幼竜を弱体化させるものもあった。それを薬として、アームデン伯爵に売り付けたのか。このミラジオとか言う商人も、結構な食わせ者だな。
「アームデン伯爵。実は気になる情報を耳にしまして……」
そう言ってミラジオはアームデン伯爵に耳打ちする。何だろう? と二人に更に近付いた時だった。二人と目があった。アームデン伯爵は驚き、ミラジオがにやりと笑う。
「く、曲者だ! 取り押さえろ!」
驚く貴族たちの悲鳴に似た声に、竜騎士たちが慌てて俺に覆い被さってきた。俺は突然の事でとっさに逃げる事が出来ず、あっさり捕まってしまった。
「何者だ、貴様は?」
縄でぐるぐる巻きにされ、地面に投げ出された俺に、アームデン伯爵が誰何する。勿論俺は何も答えないが、
「こいつ、ネビュラ学院の学生ですよ! 決闘祭に出ていました!」
と、運悪く、決闘祭で俺を見掛けた竜騎士がいた。
「はっ、学生をスパイとして送り込んでくるとは、王家の人手不足も相当なようだな」
そう言ってアームデン伯爵が笑い出すと、貴族や竜騎士たちも笑い声を上げた。はあ、何とも能天気な奴らだ。
「馬鹿が。スパイが俺だけだと思ったのか?」
俺の言葉に、笑い声がピタリと止む。
「どう言う意味だ?」
俺を睨み付けるアームデン伯爵。
「どうもこうも、そのままですよ。ねえミラジオさん?」
俺の言葉に、その場の全員の視線が青髪の商人に向けられる。
「な!? 皆さん、騙されてはなりません! こやつは自分が助かりたいばかりに、嘘を言っているのです!」
「嘘吐きはそっちだろ? あんたが伯爵に売った薬、幼竜を弱体化させる種類のそれは、竜の寿命も縮める。下手に使えば、竜の寿命は持って後五年だ。そうなれば騎士共々死んで厄介払いって訳だ」
「何だと!? どう言う事だミラジオ!」
俺の言葉に奇声を上げるアームデン伯爵。全員が青髪の商人をを疑いの目で見始めた。
「嘘です! このガキは嘘を吐いているのです! 私はアームデン伯爵の味方です! 決して王家のスパイなどではありません!」
「確かに王家のスパイではありませんね」
俺の言葉に、その場の全員が「何言っているんだ?」と言う顔を俺に向けた。
「王家のスパイでないと言うなら、ミラジオは誰の指示で動いていたと言うのだ?」
アームデン伯爵の当然の疑問だ。俺を睨み付けるミラジオに、俺は口角を上げてみせると、口を開いた。
「スターゲイザー」
ビクッとするミラジオ。
「当たりだったようだな。黒青」




