広がる景色
俺たちは、幼竜を捕獲したアームデン領の竜騎士たちを追って、西の山の山岳地帯を越え、アームデン伯爵領に入った。夜が明けようと言う白む空の下、俺の目に映った風景は、荒涼としたものだった。
盛夏を過ぎ、風や空気には秋が含まれ始めたとは言え、草木が枯れるには早すぎる。荒涼とした土地は水分がないため、あちこちがひび割れていた。
「これは……、雨不足か」
「そうだ」
俺の疑問に黒青が答えてくれた。
「ここだけではなく、西側はどこも雨不足で、今年は大不作らしい」
知らなかった。今年は戦争もあったし、黄金迷宮なんてものも出現して、話題がそちらに行きがちだったとは言え、この荒れ果てた具合を見るに、人死が出るレベルだ。直ぐに王様に報告して、何か対策を高じて貰わないと、相当の人間が飢えて死ぬぞ。
はっ! もしかして食べる物がなくなったから幼竜を捕獲して食べようって魂胆か!? ……いや、それは突飛過ぎるな。だったら殺してしまった方が良いだろうし、竜をいくら捕獲した所で、人間の腹を満たしきれる訳がない。
などと俺が変な思考に陥っているうちに、竜騎士たちはとある広大な停留地に降り立った。そこには数百を超える竜騎士が勢揃いしていた。これは、他の領の竜騎士たちも集まっているな。
そこに捕らえられた五十頭を超える幼竜が、魔法で地面に縛り付けられていた。そして次々と契約魔法を結ばれていく幼竜たち。
「あいつら……!」
黒青と白竜が今にも突進していきそうなのを、俺とアルジェントは前に立ちはだかって抑え込む。
「何をする! 居場所は割れたんだ! 直ぐにでも子供らを取り戻す!」
「馬鹿! 今行ってもどうしようもない! 契約魔法を使われているんだ! あの幼竜たちは契約者と一心同体! 契約者を殺せば、幼竜たちも死ぬんだぞ!」
「だったらどうする!? 助ける方法が貴様にはあるのか!?」
「ある! 俺を信じろ!」
俺の真剣な言葉が届いたのか、ジッと二頭の目を見詰めていたのが良かったのか、二頭はその場を引き下がってくれた。
黒青の認識阻害ブレスをもう一度吹き掛けて貰い、俺は単独で停留地の近くに降り立った。流石に竜に隠密行動は向いていない。三頭には上空で待機して貰う。
停留地に潜入すると、竜騎士たちは何とも悲壮な顔立ちで真剣に話し合っていた。何を話し合っているのか、近付こうとした所で、拡声魔法で停留地全体に呼び掛ける声が響く。
「皆の者! 此度は私の呼び掛けに応え、よくぞ集まってくれた!」
拡声魔法を使っている人物を見遣ると、グレーの髪に髭をした、中年の男である。近くの竜騎士がアームデン伯爵とぼそりとこぼしていたので、あの男がアームデン伯爵なのだろう。
「知っての通り、我々の我慢も限界だ! 去年に続き、今年も雨不足により不作となった。王に奏上し、何度となく苦境を訴えたが、それが戦争だ何だと金や食料を出し渋り、挙げ句にダンジョンが出現したからこちらは後回しだと申す始末! 我々は体の良い駒ではない! 生きた人間なのだ! 同士諸君! 立ち上がる時がきた! 今こそ打倒ガラクを掲げ、王家を打倒するのだ!」
「おおおおおおおおおおッ!!!!」
アームデン伯爵の演説に、数百人の竜騎士たちが声を上げる。その音圧で地響きが起こる程だ。しかし、まさか国家反乱の現場に居合わせる事になろうとはな。それだけ西側は食料不足で逼迫していたと言う事か。
でもここから王都に攻め上がるには、西の山を越えなければならない。そこにはヴァイスリッターがいるのだ。どうするつもりなんだ? 迂回でもするつもりか? しかしこう言った事は時間との勝負だ。時間が掛かれば王都側だって、この反乱に気付き、周辺領から騎士や兵士をかき集めてくる時間が生まれ、この反乱は失敗に終わるだろう。まあ、成功させるつもりはないけど。
それはさておき、今は情報収集に専念しなければならない。どのような計画で王都に攻め入るのか、それにヴァイスリッターの子の事もある。俺は認識阻害で周りから認識されていないのを良い事に、アームデン伯爵の近くまで歩を進めていった。




