更に西へ
俺とアルジェントは一路西へと向かっていた。西の山より更に西。アームデン伯爵領へ。
「おい人間!」
人語に驚いて振り返ると、そこにヴァイスリッターの子であろう白竜と、黒青の竜が俺たちの後ろを飛んでいた。
「え!? 今しゃべった!?」
「それがどうした?」
しゃべったのは黒青の方だ。マジかよ!? しゃべった黒青はさも当然の顔をしている。その後ろから、白竜が竜語で黒青に話し掛けている。どうやら人語の話せるのは、黒青の方だけのようだ。
「何故西に向かう?」
黒青が俺に疑問をぶつけてきた。
「ヴァイスリッター……白竜の子を攫った奴らは、西にいると考えられるからだ!」
俺の言葉を通訳するように竜語で白竜に話し掛ける黒青。そして白竜は黒青に話し掛けて人語に通訳して貰っているようだ。何これ、面倒臭い。
そもそもに何故黒青と白竜が俺たちに随行しているのか。仲間五組がヴァイスリッターの白光の檻に捕まった後、俺はヴァイスリッターに訴えた。せめてもう一組俺たちに同伴させて貰えないかと。
ヴァイスリッターの答えはノーだった。代わりに同伴者として付いてきたのが、この黒青と白竜の二頭だ。詰まる所、俺が仲間を置き去りにして逃げ出さないかの監視役である。
「お前たちは東から来たのだろう? 何故西だと分かる?」
「東には竜狩りの組合所と言う所があるのだが、もし白竜の子が東に持ち込まれていたなら、組合所がその情報を組合員である俺たちに流さなかった理由がない!」
「組合所以外のルートで東に行ったかも知れないだろ? もし西に行って何もなければ、明日の日没までに白竜様の子を取り戻し、仲間を解放するのは無理だぞ?」
俺たちの事を気に掛けてくれているのか、それとも兄弟の身を案じての言葉か。
「例え組合所以外のルートで東に来ていたとしても、今の東の状況では、白竜の子を組合所に隠し通すのは無理だろうな!」
「何故だ?」
「北の山のメラニゲルが黄金迷宮になったのを知っているか!?」
顔を合わせて首肯する二頭。
「噂だけだが。北の山に人間共が押し寄せてきたので、こちらへ身を寄せざるえなかった竜も何頭かいるし、話も聞いている。本当かどうかは疑わしいがな」
「本当さ。俺たちの目の前でメラニゲルは黄金迷宮に変わったからな!」
「……だからどうした? 黄金迷宮がメラニゲルだと何かあるのか?」
「いや、話がちょっとそれたな! メラニゲルが黄金迷宮かどうかはこの際関係ない! 要は黄金迷宮目当てで東は人で溢れ返っているって事だ! そうすれば噂なり何なりが、隠そうとしても出てくるものなんだよ!」
二頭は俺の説明に納得したようなしてないような、疑わしい目をこちらに向ける。まあ、野生の竜に人間の言葉を信用しろ、ってのが無理な話か。
が、状況は刻一刻と動いていた。
俺たちはヴァイスリッターの子を攫った連中と鉢合わせしないように、かなりの上空から地上を監視しながら、西へと向かっていたのだが、その途中で、竜を捕縛した一行を目撃したのだ。
四組の人竜がそれぞれ一頭、計四頭の竜を縄で吊るしながら運んでいた。運んでいる竜の色から、ヴァイスリッターの子ではない事か窺い知れたが、一度に四頭とは驚きだ。
「おのれ、人間め!」
二頭が見付けた竜たちを救出しようとするのを、俺とアルジェントは間に割って入って止める。
「何故立ち塞がる!」
「冷静になれ! 俺たちの目的はヴァイスリッターの子だろう!? それにあいつらに手を出すのは不味い! あいつらアームデン領の竜騎士だ!」
何でアームデンの竜騎士が竜狩りの真似事をしているのか知らないが、ここで奴らを急襲し、全滅させられたのならまだ良い方で、一人でも取り逃がしたら、人間の俺がいる事で、逆に騒ぎが大きくなる。
「そんなものは知った事か! 黄金迷宮が出来てから今日まで、いったい何頭の幼竜たちが親から引き離されたと思っている!」
「は!? どう言う事だよ!? 攫われたのはヴァイスリッターの子だけじゃないのか!?」
「貴様らを取り囲んでいた同胞たちは、皆、子や兄弟を人間に攫われた者たちだ!」
あの百頭を超える竜たちが!? そうなると、捕獲され連れ去られた竜は、少なくとも五十頭はいることになる。何だその異常事態。しかも短期間で五十もの竜を捕獲するなんて、アームデン伯爵は何を考えているんだ?
本来ならこれは王様に一報入れるべき事なのかも知れないが、今の俺にそんな余裕はない。ならばここは夜闇に紛れて追跡し、奴らの狙いを探るべきか。
「はっ! 人間の言う事なんて聞いてられるか!」
そう言って突っ込んでいこうとする二頭の前に、もう一度立ちはだかる。
「まあ待てよ! 奴らはこのまま泳がせて、俺たちは追跡に専念すべきだ! そうすれば奴らが勝手に、お前らの同胞が捕まっているアジトまで連れてってくれるだろう!」
俺の言葉に、大人しくなる二頭の竜。捕獲された竜を見続けるのは辛いだろうが、ここは堪えて貰うのが最善だろう。ただ、
「竜三頭と言うのは、夜であっても目立つのが困りものだが」
そのうちの二頭が銀に白だ。今は向こうの竜騎士たちに気付かれいないようだが、追跡を続けていれば、いずれバレる可能性は高い。
「そんな事か」
そう黒青か口にしたかと思ったら、黒青は霧のようなブレスを吐き出した。訳が分からないうちにそのブレスに包まれていく俺たち。ブレスの霧か晴れると、俺たちは互いの姿が認識出来なくなっていた。認識阻害のブレスとは珍しい。しかしこれで俺たちがいつの間に西の山で竜たちに取り囲まれたのか理解出来た。このブレスのせいだったのか。
まあ何にせよ、これで追跡を続行出来そうだ。




