萎縮
俺たちは峻厳で尖塔のような山々が並ぶ西の山を、竜に乗って静かに移動する。まあ、そうは言っても竜だ。音を立てないのも限界があるが。
ゆっくりゆっくり飛行し、俺たちは以前マウンテン・シープのいた付近を通り抜け、更に峻厳な山々が入り乱れる西の山を進む。
気付けばかなり奥までやって来ていたが、竜一頭の姿も見掛けない。不気味だし、日は傾いてきているしで、俺たちは一度ウーヌム村へと引き返そうと考えた、その時であった。
上空からブレス攻撃の雨あられが降り注ぐ。何事か!? と魔法で防御しつつ見上げると、俺たちはいつの間にか、ぐるりと周囲を百を超えるであろう竜たちに、取り囲まれていた。
「なっ!? 誘い込まれたのか!?」
多くの竜に取り囲まれ、俺たちはそれぞれ武器に手を掛ける。
「止めよ!!」
芯から人を威圧するような大声が、西の山全体に響き渡り、その直後にブレス攻撃の雨あられはピタリと止んだ。
何なんだ一体? 俺たちは助かったのか? 生かされたのか? しかしギョロリと眼光鋭く俺たちを睨み付ける竜たちに取り囲まれては、あまり生きた心地はしない。
と、俺たちを睨み付けていた竜たちが、一方を見遣り平伏を始めた。百頭を超える竜たちが、自身より強い存在がそちらにいるのを、態度で物語っていた。
俺たちも連れてそちらを見遣ると、真っ白で巨大で、両腕が突撃槍の形をした、威風堂々とした竜が、ゆっくりとこちらにやってきていた。間違いない。あれがヴァイスリッターだ。その威厳に、俺たちでさえ思わず平伏してしまった。
「皆の者、面を上げよ」
そんな声が場に響く。恐る恐る顔を上げると、西の山の主、白竜ヴァイスリッターが、俺たちや他の竜たちより一段高い宙空から、こちらを見下していた。
「これは、何事です?」
声は、ヴァイスリッターから発せられていた。人語をしゃべる竜。ボーンハイム以外にも存在したのか。
俺たちが事態が飲み込めず、互いに顔を見合わせているうちに、ヴァイスリッターに負けない真っ白な竜と、夜空のような黒青の竜、二頭の竜がヴァイスリッターの前に進み出て、何やら竜語で事態を説明している。それを聞いてヴァイスリッターは目を見張り、俺たちを睨み付ける目が、一層険しいものに変わった。
「このふたりが申すには、お前たちが我が子のひとりを攫った犯人であると言う。間違いないか?」
は!? 何!? どう言う事!? 俺たちは確かに何がしか竜を捕獲に来たのは確かだが、まだ捕獲に至っていない。つまり俺たちが山に入るより先に、誰かが竜を攫った。それがたまたまヴァイスリッターの子であった、と言う事か?
「そこで黙ると言う事は、間違いないと言う事で相違ないな」
うお!? このままでは俺たちが犯人に仕立て上げられてしまう。
「申し上げます! 白竜よ! 貴方の子を攫ったのは我々ではございません! 別の何者かです!」
「……それは証明出来るですか?」
「……いえ。ですが! この命に懸けて貴方の子を攫ったのは我々ではございません!」
俺はアルジェントから降りて、地面に頭を擦り付けて言葉を紡ぐ。ヴァイスリッターに睨まれ、俺はすっかり萎縮してしまっていた。
「安い代償ですね」
ぐっ、これでは駄目か。
「じ、時間を下さい! 一日! 明日の日没までに貴方の子を見付け出して、ここに連れてきます! ですからどうかご慈悲を……!」
しかしそれを是としない周囲の竜たちが騒ぎ出す。
「静まれ!」
それをヴァイスリッターの一喝が大人しくさせた。
「人間、その言葉に嘘はありませんね?」
すみません、口からデマカセです。生き残りたくて適当な事を口にしました。とはいえ今更出た言葉を翻せはしない。
「……はい」
俺はさも嘘など吐いていないとヴァイスリッターを見上げ、その目をジッと見詰める。ヴァイスリッターは俺を見て、それから俺の横のアルジェントを見て、何かに気付いたように目を見張ると、
「分かりました」
と、納得してくれた。おお! これで一日の猶予が出来たぞ! と思った次の瞬間、白光の檻が天から降ってきて、俺を除く五組の人竜を、その檻に閉じ込めてしまった。
「しかし全て信用した訳ではありません。お前のお仲間を人質としてここに置いていって貰います。お前が明日の日没までに我が子を連れて戻ってこなければ、この者たちの命はないと知りなさい」
マジかよ。既に今日の日は没み、世界は夜に変わっていた。ルナ・バーストで光の檻を破るか? いや、それは悪手だな。ここはヴァイスリッターに従うしか選択肢がなさそうだ。




