両親からの依頼
「しっかし、そんな凄い回復魔法、どうやって覚えたんだい?」
俺の素朴な疑問だった。回復魔法は、相当身体の仕組みに精通していなければ使えない魔法だ。ノエルと同い年のミリアムがそれを使いこなせるのは、相当頭が良い事になるが、言っては悪いが、ミリアムはそんなに頭が良い方ではない。なのに回復魔法が使えるのだ。不思議だ。
「聖域での修行の賜物だと思います」
「聖域?」
ああ、旧パーシヴァル領にあるって言う聖域の事か。俺たちにはそこがどんな所か分からなかったが、父と母はそれを聞いただけで納得の表情をした。
「聖域ってそう言う場所なの?」
俺の疑問に父が答えてくれた。
「ふん、あそこは聖域なんて呼ばれてはいるが、ぶっちゃけダンジョンだからな」
「ダンジョン!?」
聖域ってダンジョンだったのか!
「って、ダンジョンって危ないんじゃないの!?」
メラニゲルが変容して形作ったあの迷宮は、既に何人もの死者を出している、とゴードンさんやエドワードさんが愚痴っていた。そんな危険な場所に、今より幼いミリアムが入って修行していたなんて、信じられない。
「ふん、聖域のダンジョンは、入り口からしばらく安全地帯が続くからな。北の山の迷宮とはかなり違う作りなんだ」
安全地帯ねえ。まあ、昔からある場所みたいだし、内部はもう攻略済みで、地図とか出来上がってるんだろうなあ。
「良いなあミリアムちゃんは、凄い魔法が使えて」
と、羨ましがるのはノエルだ。確かにミリアムは同年代と比べて、どころか俺たちやその上の世代と比べても凄い。ボロシアでの一件がなければ、今でもボロス王国で聖女として崇められていた事だろう。それが今やこんなド田舎で薬草採りの仕事を手伝って日々を凌いでいるのだ。幼くして波乱万丈な人生だ。
「はあ……。私にも竜がいればなあ。お兄ちゃんたちみたいに凄い魔法が使えたり出来るようになるのに」
中々大胆な発想だな妹よ。俺だってアルジェントと契約したからって、いきなり魔法がバンバン使えるようになった訳じゃないんだぞ? 母の厳しい特訓があっての事なのだ。そう俺がノエルに苦言を申そうとしていた所に、
「ふん、そうだな。そろそろノエルも竜と契約しても良いかも知れないな」
などと父が口走った。ノエルはそれを聞き逃さず大喜びだ。嘘だろ!? 俺が竜が欲しいとねだった時は、あんなに渋っていたのに?
「冗談でしょ?」
「冗談なものか。こう言うのは早目に契約を済ましておくべき事案だろう」
父の言葉に、母も首肯している。マジかー。なんだろう、今更ながら落ち込む。
「何がっくりしてるんだ?」
俺の異常に気付いたカルロスが声を掛けてくれたが、俺は返事をする気になれず、手を振って大丈夫とアピールするしか出来なかった。
「でも、竜なんてそうそう手に入るものじゃないよ?」
俺の言葉に父は、
「ふん、何言ってるんだブレイド? 自分の職業を忘れたのか?」
と、返されてしまった。自分の職業って、竜狩りだけど? まさか!
「俺が竜を捕まえるって事!?」
「ああ、二頭な」
「二頭!? 何で!?」
「何でも何も、ミリアムの分が必要だろう?」
当然のようにそんな答えを返されてしまった。いや、待って待って待って。おかしくない? え? 俺の方がおかしいの? と皆の方を見遣ると、流石にミリアムの分も、とは驚きだったらしく、皆一様に驚いていた。当の本人であるミリアムさえも驚いていたので、普通じゃないのはうちの両親の方なのだろう。
「待ってよ父さん。竜狩りをするには人手が足りな過ぎる。普通竜狩りは十人以上でやるものだよ? ここにいるのは六人なんだけど?」
「ふん、何の為にウーヌム村には竜狩りの組合所があると思っているんだ。そこでパーティーメンバーを募集すれば良い。最悪お前たちの黄金の武器を使ってでも捕獲しろ」
何この俺とノエルとの扱いの落差。
「男親なんて娘を可愛がるものよ」
と、母は語るが、だからってこの差は酷くないか? と今更文句を言った所で、家長の決定が覆るはずもなく、俺たちは急遽ノエルとミリアムの竜を捕獲する為の情報収集とパーティーメンバー募集の為に、ウーヌム村へと飛んでいく事になったとさ。




