見えるか見えないか
次の流星墜落現場で暴れまわっていたのは、一つの身体に二つの頭を有する巨狼、ツインヘッドウルフだった。その体躯は竜たちより大きく、既に全身が黄金色に包まれ輝いている。
「ふう、また大物が出てきたな!」
俺は黄金の腕輪を槍に変えて右脇に抱える。
「全くだ! 何もこんな大物でなくても良いのにな!」
腕輪を五又の槍に変えながら、アインの口からも愚痴が出る。それはそうだろう。ツインヘッドウルフと言えば、その地の主級だ。本来であればそれ単体を倒す為に一日以上を費やすレベルなのだ。こんな、他の竜と対峙するかも知れない途中で出会う魔物じゃない。
「でもやらなければいけません!」
先程黄金の腕輪を手にしたリオナさんは、まだやる気充分のようだ。その腕輪が波打ち、右手中に移動したかと思ったら、刀身のない鍔に覆われた柄がその手に握られていた。あれがリオナさんバージョンの黄金の武器のようだ。形状からも魔力を刀身にする、魔力剣のようだ。
「マイヤーさんとショーンくんは、離れていて下さい!」
リオナさんの指示に、二人は俺たちより上空へと飛び上がり、待機する。それを見送ったリオナさんは、
「行きます!」
とシエロと共にツインヘッドウルフに突進していく。
迎え撃つツインヘッドウルフに接近したリオナさんは、刀身部分に何もない、ただの柄を振るった。だと言うのに、バサリと切られる黄金のツインヘッドウルフ。リオナさんはそのままどんどんツインヘッドウルフを切り刻んでいく。
「ブレイド! あれって!?」
「ああ! 不可視の刀身のようだ!」
アインの疑問に答える。リオナさんの黄金の柄の先からは、どうやら伸縮自在の目に見えない刀身が伸びているらしい。それがリオナさんによって振るわれ、黄金に包まれたツインヘッドウルフを切り刻んでいく。
ツインヘッドウルフとしても、不可視の剣では避けようがないだろう。これはリオナさんに任せていれば、ツインヘッドウルフを倒してくれるかも知れない。そんな楽観的思考が頭を過ったが、それは直ぐに訂正を余儀なくされた。ツインヘッドウルフが、リオナさんの不可視の剣を避け始めたからだ。
どうやらツインヘッドウルフは、相当頭の切れる奴らしい。リオナさんの動きを良く見て、腕の振りからリオナさんの刀身の軌道を読んで、不可視の剣を避けているらしい。そして徐々にリオナさんとシエロを追い詰めていくツインヘッドウルフ。
「アイン! 加勢するぞ!」
「あ、ああ!」
ぼうっと見ている場合じゃなかった。俺たちは苦戦を強いられているリオナさんとシエロの加勢に向かう。
アインが五又の槍をツインヘッドウルフに突き出すが、その光速の突きもツインヘッドウルフは易々躱してみせる。勘も良ければ読みも鋭く、そして素早い。
ツインヘッドウルフは、アインやリオナさんの攻撃を易々避けると、高速のフットワークでこちらに噛み付いてくる。それを間一髪で避けるアインとリオナさん。少し離れた所から観察していたが、このままではジリ貧だ。
ならば、全方位からの攻撃なら避けられないだろう。俺は槍の穂先を枝分かれさせると、ツインヘッドウルフを取り囲むように、全方位から突きを繰り出す。
が、これを上空に飛び上がって避けるツインヘッドウルフ。しかしそれは握手だろう。上空では方向転換出来ないんだから。とアインが光速の突きを繰り出すが、それをツインヘッドウルフは身体を捻って躱してみせた。どれだけ身体能力が高いんだ!
だが、アインの光速の突きを避けた所で、ツインヘッドウルフは何かに突き刺された。リオナさんか! ぐるりと辺りを見渡すと、リオナさんが木の影から、ツインヘッドウルフの死角を突いて、不可視の剣を突き出していた。やるなリオナさん。
リオナさんの攻撃で体勢を崩して空中でジタバタするツインヘッドウルフ。が、このまま易々と地上に着地出来ると思うなよ。俺はツインヘッドウルフの落下地点に百を超える黄金の槍を発生させて、落下してくるツインヘッドウルフを待ち構える。
ツインヘッドウルフとしても、この槍山は視認出来ているので、ジタバタ足掻くのだが、避けるには叶わず、槍山の上にドシャリと落下した。
痛みで呻き声を上げるツインヘッドウルフに、トドメを刺すためにリオナさんとアインが襲い掛かる。リオナさんの不可視の剣が、アインの五又の槍が、ツインヘッドウルフを切り裂き、貫き、ツインヘッドウルフを、死体と黄金の直方体に分ける。
「どうする?」
マイヤーは黄金の直方体を前にショーンに話を振った。まだ流星の欠片を取り込んでいないのは、二人だけだからだ。
流星の欠片は威力は凄いが負荷や反動も凄い。ツインヘッドウルフを倒した後、俺、アイン、リオナさんは、揃って血を吐いた程だ。それが二人に二の足を踏ませる。
「どっちでも良いから、早くしてくれ」
「そうは言っても、中々決断出来るものじゃないだろう」
そう言うショーンに、俺は遠くを指差した。何かあるのか? とそちらを見遣るショーンが固まる。黒と金の斑模様の巨竜が、こちらを見定めていたからだ。どうやら他の流星の欠片は、メラニゲルに取り尽くされてしまったようだ。
「メラニゲル……!」
後退るショーン。ここからメラニゲルのいる場所まで、結構な距離があると言うのに、その威圧感がこちらまでひしひしと伝わってくるのだ。恐るべきだろう。
と、ショーンが恐怖に囚われているうちに、マイヤーが黄金の直方体に触れていた。そして苦痛の呻き声を上げて、黄金に包まれたマイヤーは、気絶して黄金から吐き出された。その腕に俺たちと同じ黄金の腕輪を巻いて。
俺は気絶しているマイヤーを、相竜のサファイアに乗せると、
「ショーン、サファイア、マイヤーを頼むぞ」
とショーン、ルブルム、マイヤー、サファイアをこの場から退避させた。
「とうとう決戦ですね」
と俺の横に立つリオナさんが、こちらへとゆっくり空を飛んでやって来るメラニゲルを見据えて口にする。
「何だか巻き込んだみたいで、すみません」
「何言ってるだ? まさか一騎でメラニゲルに挑むつもりだったのか?」
とアインに馬鹿を見るような目を向けられた。うぐっ、そのつもりでした。
「勝てるとは思っていなかったよ。ただ王都の竜騎士団が来るまでの時間稼ぎでもできればな、って」
「無理だろ」
「無理ですね」
二人して言わなくても良いのに。
「でも三騎なら、時間稼ぎぐらい出来そうです」
リオナさんの言葉に俺とアインは頷く。俺は太陽位置を確認する。もうすぐ夕方と言った所だ。日が暮れるまで持ち堪える事が出来れば、もしかしたらほんの小さな勝機の欠片でも見い出せるかも知れないが、無理だろうな。
変な期待などせずに、今出来る事を最大限やろう。ともう一度改めてメラニゲルを睨み返した時だった。




