流星物体X
浮遊する直方体の大きさは、俺と同じくらいだ。黄金色の表面には、文字とも幾何学紋様とも分からないものが、びっしり刻まれている。
ザッと俺がその直方体に近付こうとすると、
「ちょ、止めなさいよ!」
とマイヤーが制止した。振り返って見れば、皆が首を左右に振っていた。
「そうは言ってもな。これが何か分からないが、これをこの場に放置は出来ないだろう? もしもメラニゲルがこいつまで取り入れちまったら、それこそ手が付けられなくなる」
俺の説得は奏功したのか、皆が黙ったのを良いことに、俺はその隙にこの直方体をマジックバッグに仕舞ってしまおうと、手を触れた。
その瞬間、黄金の直方体は輝き出し、ギュムンと触れた俺の右手を取り込んだのだ。
「ぐわあああああ……!?」
激痛が右手を通して全身を駆け巡る。と同時にアルジェントも苦痛に暴れまわっているのが目に入った。契約魔法を通して、俺の苦痛がアルジェントにまで伝わってしまっているのだ。
「ぐ、うううう……!!」
俺はそれが我慢ならなくて、でもどうすれば良いのか分からず、俺はその苦痛を自分だけに向けるように、黄金の直方体に向かって必死に念じていた。
それが通じたのだろうか? 念じた後から俺の受ける激痛は二倍になった。心のどこかでホッとしたが、それよりも激痛が酷過ぎて、俺はそれに堪えきれず、意識がとんだ。
微睡みの中、気絶したのだ。と言う事が急速に思い出されて、俺はガバッと上半身を持ち上げた。
「グルルル……」
と、心配そうにアルジェントが俺の顔を覗き込んできた。もう心配ない、と右手でその顔に触れようとした時、俺の右腕に、黄金の腕輪が嵌められているのが目に入った。
「これは……」
ゾッとした。これがあの黄金の直方体である事は一目で理解出来たからだ。
「くっ!」
慌てて外そうとするが、人の力で外せるものではない、と直ぐに理解させられた。これを外そうと思ったら、右腕ごと切り落とした方が良さそうだ。それで本当にこの黄金の腕輪が外れてくれるかは、微妙な所だが。
「目を覚ましたか」
アインの声がして、そちらを振り向くと、アインが魔物と戦っている。周りを見渡せば、皆が俺を取り囲み、魔物からの攻撃を防いでくれていた。
「どれくらい俺は気絶してたんだ?」
「そんなに長くはないわよ。ただし無理に動かせないから、その間に魔物たちに囲まれちゃってね。それより身体は大丈夫なの?」
とマイヤー。そう言われて、俺は身体の各部の動作を確認しながら、立ち上がる。少しくらくらするが、身体は問題なさそうだ。と言うより以前より身体が軽いくらいに感じる。
「ああ、問題ない」
そう返事をした俺は、直ぐ様戦線に加わるべく、黄金の腕輪を剣へと変えていた。
「は!? 何それ!?」
皆が驚く。が、俺だって驚いている。剣を頭の中でイメージしたら、腕輪が剣になったのだ。
皆が驚き過ぎて一瞬固まった間隙を縫って、アルミラージがこちらに飛び込んできた。が、それは音もなく俺の持つ黄金の剣によって両断された。何て切れ味だ。切るのに何の引っ掛かりも感じなかった。普通であれば肉や骨を絶ち切るのに、その肉や骨の抵抗を感じて、力を込めなければ両断出来ない。なのにこの剣は、その切れ味だけで両断せしめたのだ。
もっとこの切れ味を堪能したい。そんな仄暗い感情が沸き立っていた。
「全員伏せろ!」
俺の言葉に、訳が分からずも皆が伏せる。そこにぽっかり空いた空間から、魔物たちがこちらへ襲い掛かってきた。
俺は黄金の剣を、今度は黄金の槍に変えて魔物を突き刺す。やはり凄い威力で、穂先は何の抵抗も受けずに魔物を貫いていた。
これは面白い! その黄金の剣は俺の意思で如何様にもその姿を変えた。
魔物が三匹こちらへ襲い掛かってくれば、槍先を三つに分けて黄金の槍は自らそれを貫きに行き、後ろから魔物が襲ってくれば、黄金の剣はグルンと剣先を曲げてそれを防ぎ、更に反撃して魔物を真っ二つにする。
それは最終的にはどこまでも伸びる枝葉のように伸びていき、全ての魔物を貫き、切断して、魔物を一掃せしめたのだった。
「はあ……、はあ……、はあ……」
その場にいた全ての魔物を倒したからか、俺自身はさほど動かなかったと言うのに、とんでもなく体力を消費した感覚があった。
「大丈夫ですか? ブレイド殿?」
リオナさんや皆が、俺を心配して駆け付けてきてくれた。
「ええ! 大丈夫です! それより見ましたか? この黄金の剣の威力!」
と、俺が興奮して剣を突き出して見せた所で、俺はふらついて倒れそうになり、アルジェントが後ろから支えてくれた。
「全然、大丈夫に見えないんだが?」
とショーン。
「威力も凄いけど、反動も凄そうね」
とマイヤー。そうやって皆から白い目で見られては、俺としても二の句が継げない。
「と、とにかく、この調子で他の墜落場所の流星の欠片も、回収して行こう」
と俺が発言すると、
「まさか! またあの黄金に触れるつもりですか?」
「え? はい」
リオナさんに心配されてしまった。
「ブレイドは当事者だから分からなかったかも知れないけど、あれ、傍から見てたらすげえヤバかったからな」
とアインに軽く諌められてしまった。
「なに、大丈夫だよ」
俺は寄り掛っていたアルジェントから立ち上がって、元気アピールをしようとするが、
「ゴホゴホ!」
と咳き込んてしまう。そして抑えた手には血が付いていた。




