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Blade & Dragon Dance 〜月天を焦がす銀剣竜舞〜  作者: 西順


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雨の日

 その日は朝から雨だった。小雨や霧雨なら、外に出て薬草採りやら組合所の仕事やら色々やっていただろうが、結構な大雨で、外に出るのは憚られた。


 なので今日は一日、母に魔法を習う事になった。俺や庶務の四人、リオナさんだけでなく、ノエルやミリアムも、母の錬金術用の部屋に入ってきたので、それほど大きくないこの部屋は満員だ。夏の暑さの上に、雨の湿気も重なって、部屋はかなり蒸し蒸ししていた。


「さて、今日は何をしようかしら?」


 頬に手を当て俺たちをザッと見た母は、しばらく黙って考えた後、油皿を人数分テーブルに出すと、皿に油を注いで芯となる紐を浸し、紐に火を灯す。


「この火を、水に変えて貰おうかしら」


 どうやら今日は形質変化を教えてくれるようだ。


「この小さな火に、あなたたちの魔力を少しずつ注いで、火と魔力を融合させていくの」


 母はそう言いながら、自身の目の前にある油皿の火に、人差し指を近付けていく。


「そして融合した火と魔力を捏ね回し……」


 母の言葉に従うように、油皿の火は誰が触れている訳でもないのに、粘土の如く捏ね回されていく。


「そして十分に混ざりきった所で、この火が水へと変わる事を想像する」


 と母の前にある油皿の火は、一瞬で水へと変わり、テーブルに落ちた。「おお……!」とそれを見ていた皆の口から感嘆の声が漏れる。


「ねえ、簡単でしょ?」


 簡単ではない。形質変化はまだ学院の授業でも習っていない上級魔法だ。これを極めれば錬金術に至る。


「コツとかないの?」


 皆が目の前の油皿の火に取り掛かる中、俺は母にコツを尋ねた。いきなり出来る気がしなかったからだ。


「コツはまずゆっくり魔力を流し込む事ね。でないと……」


 ボンッ! とそこかしこから破裂音が響いた。


「こうなるから気を付けて」


 そう言えば魔力には爆ぜる性質があったんだ。火と魔力なんて、混ぜるな危険じゃないか。


 爆発によって散らばった油皿を片しながら、それでも皆は火の形質変化に挑戦していく。その真剣な目に、これは俺も負けていられないな。と俺の前に置かれている油皿に向き合った。



 細く細く、人差し指の先から、糸のように細く魔力を油皿の火に注ぎ込んでいく。息を止め、集中し、ゆっくりゆっくり注いでいく。が、次の瞬間、火がふわっと揺らめいたと思ったら、ボンッ! と油皿の火は爆発してしまった。


「はあ〜」


 難しい。もう十回以上失敗している。何が悪かったのだろうか? もっとゆっくり注いだ方が良いのか? それとももっと注ぎ口を細くした方が良いのか? 悩む。が感覚的な事なので、母に尋ねても答えは返ってこないだろう。


「あの」


 と、自身何度目かの失敗をしたショーンが母に問うた。


「これって、水を土に変えたりとか、土を水に変えたりするのでは駄目なのですか?」


 確かに。火よりも水や土の方が安全な気がする。


「駄目って訳じゃないわね。難しさ的にはそっちの方が簡単だしね」


「だったら……」


「でも使われる魔力量が違うのよ」


「魔力量ですか?」


「学院の授業でも習ったでしょ? 固体より液体、液体より気体の方が顕現させる時の魔力消費量が少なくなるって」


 そう言えばそんなの習った気がする。


「それは形質変化も同様でね。気体より、液体、液体より固体の方が、注ぐ魔力が多くなるのよ。すると、どうなると思う?」


「試行回数が少なくなる」


 と、これはアイン。確かに。まだ形質変化が上手く出来ない俺たちにとっては、試行回数が少なくなるのは勿体ないな。


「それもあるわね」


 それも? 他にも理由があるのか? 皆が頭を悩ませる中、


「あの、もしかして……」


 と口を開いたのはミリアムだ。


「注ぐ魔力が多くなる分、魔力が爆ぜた時の被害も大きくなるのでは?」


 おお! 確かに! それは盲点だった。母はミリアムの答えに満足げに頷いている。こんな狭い錬金術用の部屋で大量の魔力を使用したら、部屋中が大惨事になりかねないな。


「ミリアム頭良いな」


 俺が素直に褒めると、ミリアムは、「それほどでも……」と顔を真っ赤にして自身の前の油皿に向き合い、盛大に火を爆発させていた。



 結局夕飯時まで誰一人成功させられた者はおらず、皆は夕飯を食べ終えた後も、母の錬金術用の部屋に戻っていって、形質変化の練習に打ち込んでいた。俺はと言えば、


「晴れたな」


 日中あんなに降っていた雨も上がり、綺麗な月夜の中を、竜舎で待つアルジェントの為に、蒸かした芋を運んでいた。と、


 ゴオオオオオ……!


 何やら上空で轟音が鳴り響いている。空を見上げると、巨大な流星が北の山に向かって落ちて行っている。そんな奇想天外な場面に出会(でくわ)していた。


 流星は北の山の上空でいくつかに崩壊したが、一番大きな流星が、北の山の山頂に墜落したのを、俺は目撃してしまった。これは凶兆か吉兆か、俺の心臓は早鐘のようにドクドクしていた。


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