対マウンテン・シープ
「西へ」
朝の内からの薬草採りを終え、早目の昼食を食べて組合所にやって来た俺たちに、組合所のお姉さんは開口一番そう告げた。
「西、ですか?」
俺は首を傾げる。西の山は峻厳で、魔物にとっても生活がし辛い場所だからだ。北の山の方が先に討伐依頼が出されると思っていた。まあ、頂上付近に黒竜メラニゲルがいる可能性は捨て切れないが。
「西の山でマウンテン・シープが、大繁殖しているようなんです」
とお姉さん。成程。
「分かりました」
俺の一存にはなるが、俺たちは西の山のマウンテン・シープの討伐依頼を受領した。
「ねえブレイド! マウンテン・シープってどんな魔物!?」
空より青いサファイアに跨がりながら、西の山へ向かう空の下、マイヤーが尋ねてくる。リオナさん以外の三人も同様に俺の次の言葉を窺っていた。リオナさんは去年の夏にマウンテン・シープの討伐経験があるからな。
「羊の王様と呼ばれるのがマウンテン・シープだよ! その体毛は絹のように滑らかで、この体毛から織られた毛織物は王室にも献上されているし、ウーヌム村の特産品として、各領や外国にも輸出されている!」
ほう。と感心する四人だったが、カルロスが更に尋ねてくる。
「確かにウーヌム村のマウンテン・シープの毛織物は有名だけど、その有名なマウンテン・シープが、峻厳な山岳地帯である西の山にいるのか!? あそこほとんどが尖塔のような崖ばかりの場所なんだろ!?」
カルロスの疑問は尤もだが、
「それは見れば分かる!」
そんな会話を続けている内に、俺たちは西の山にやって来た。峻厳で尖塔のように垂直の山々が連なる西の山。その西の山の崖肌に、くっついている白く丸い物体が所々に目に入った。
「何あれ!?」
声を上げて驚く四人。
「なんか、大きくて白い毛玉が、崖に張り付いてるんだけど!?」
「あれがマウンテン・シープだよ!」
俺はマイヤーの、四人の疑問に答える。
「あれ!? どうやって崖に張り付いてるの!?」
とマイヤー。
「別に張り付いてる訳じゃない! 崖にあるちょっとした出っ張りに、足を置いて立ってるんだよ!」
「嘘でしょ!?」
信じられない! と言った顔の四人は、リオナさんの方を見遣るが、俺の意見が正しいと、リオナさんは首肯する。
「何であんな直ぐに落ちそうな場所を、陣取っている訳!?」
「西の山は岩塩が採掘できるくらい塩分が多くてな! どうやら平地では摂りにくい、塩分を摂る為に崖を登るようだ!」
俺の説明でようやく理解が追い付いてきたらしい四人。と不用意にカルロスがサンダーラッシュと共にマウンテン・シープに近付く。
「あ……!」
俺が注意する暇もなく、カルロスは、バチチンッ! とマウンテン・シープが放つ電撃を、受けてしまった。
「大丈夫か!? カルロス!?」
「お、おお……! 電撃には慣れてるからな」
と言ってはいるが、ちょっとふらついている。
「マウンテン・シープはあれでも魔物だ! 自衛の為に電撃の魔法を使ってくるから気を付けろ!」
「……それは先に言って欲しかった!」
ごめん。
「じゃあ、どうやって倒すの!? この巨大毛玉!」
「こうするんだよ!」
疑問を呈するマイヤーに答えるように、俺はアルジェントと協力して、崖の壁面スレスレを飛んでいく。そしてマウンテン・シープが放ってくる電撃を躱しながら、マウンテン・シープに接近すると、アルジェントはマウンテン・シープの体毛に覆われていない頭の部分をバクリ! と一口に噛み砕いた。
「こんな感じだ! こうすればマウンテン・シープの体毛を傷付けずにマウンテン・シープを回収出来るからな!」
「おお……、成程」
マウンテン・シープの頭を咥え、そこから伸びる身体をぶらんぶらんさせているアルジェントに、若干引き気味になっている四人だったが、直ぐに慣れるだろう。
「俺は下に降りて魔核を取り出してるから、何か分からない事があったら、リオナさんに聞いてくれ! まあ、難しい事はないから大丈夫だと思うけど!」
言いながら俺とアルジェントは崖下へ降りていった。
その後、俺は西の山とウーヌム村の往復に時間を割く事になった。と言うのも、カルロスたち四人はマウンテン・シープの狩りを直ぐに体得し、どんどんと狩り始めた為だ。そしてマウンテン・シープの死体を、崖下に放置しておく訳にもいかない。どんな魔物が、もしかしたら野生の竜が、匂いに引き寄せられてやって来るかも知れないからだ。
そんな訳で俺とリオナさんは運搬係として、その日は日が暮れるまで、マウンテン・シープをウーヌム村へ運搬し続けたのだった。




