対ブッシュマン
翌日、俺たちはウーヌム村の竜狩り組合所までやって来た。
「おーい、カルロス! 早く降りてこーい! でないと置いてくぞー!」
「無茶言うなよー!」
竜狩り組合所の停留地で、空を縦横無尽に飛び回っているのは、カルロスが乗るサンダーラッシュだ。まあ、サンダーラッシュはそうなるよなあ。と言うか、良くここまで飛んでこれたな。
「ほっといて先いくか」
「待てー!」
サンダーラッシュとしても、無視されるのは嫌なのだろうか? 俺たちが組合所に入ろうとしたら降りてきた。
「はあ~、疲れた」
仕事を受注する前から疲れてどうするんだ。フラフラのカルロスは軽く無視して、俺たちは竜狩りの組合所の扉を開けた。
「いらっしゃい! 良く来てくれたわ! ブレイドくん、流石、分かってる!」
組合所のお姉さんが、カウンターから身を踊り出して俺の手を握ってきては、中へと引き入れる。
「東西南北どこに行く!?」
どこも困っていそうである。そう、今ウーヌム村の竜狩り組合は困っているのだ。原因はつい最近まで行われていた暮春戦争だ。これは竜狩りや魔物狩りなどの、その日暮らしをしている戦士たちにとって、大金を手にする千載一遇の好機だからだ。
国の要請により傭兵として戦地に赴き、大将首の一つでも獲れば、当分遊んで暮らせるだけ金が手に入るとあって、国中の竜狩り魔物狩りが、こぞって南のバイラッハ領マスカル港に集結した。
結果どうなったかと言えば、春から夏と言う魔物狩りの季節に、国中からそれを駆除する人間がいなくなったので、各地で魔物たちが大量発生しているのだ。昨日のそれも、これが原因である。
ウーヌム村から傭兵としてマスカルに向かった竜狩りたちも、ぽつぽつと帰ってきてはいるが、未だ大多数はマスカルで報償金を使い潰す生活を続けていると聞く。
そんな訳で俺は合宿と言う名目で、地元の魔物狩りをしてくれる助っ人を連れてきたのだ。
「緊急性が高いのはどこですか?」
俺の質問に組合所のお姉さんは、地図を広げて、人差し指を口に当てながらしばらく考えを巡らせると、トンとその人差し指を地図の一点に当てた。
「東ね。南は他の竜狩りたちが魔物たちを狩ってくれているんだけど、東の山森にブッシュマンが大量発生して、このままじゃ南からの物流が滞ってしまうわ」
ブッシュマンとは樹人と呼ばれる木の形をした魔物の一種である。根を足に動き回り、枝を腕に攻撃してくる。ブッシュマンとはその名の通り低木、灌木の如く、人間の腰ぐらいの樹人なのだが、
「面倒臭いわね」
とはマイヤー。
「だから討伐依頼が出てるんだろ」
と俺。そう、ブッシュマンは面倒臭いのだ。
俺たち六人は現在東の山森にいる。そして俺たちの前にはブッシュマン。が、はしゃぎ回っている。そう、ブッシュマンはとにかく目まぐるしく動き回るのだ。
地を走り回り、木を登り、木から木へと飛び移る。お前ら猿かよ! そんな奴らなので、とにかく体力がいるのだ。
「ウォーター・アロー!」
数十本の水の矢がブッシュマンたちを目掛けて飛んでいくが、それを避けるブッシュマンたち。避ける避ける。
「キキキキキキッ」
笑っていやがる。どこが口だか分からない姿のくせに。くそ、これはブースト掛けて一匹一匹処理しないといけないか? いや、改良型のアロー系ならいけるか? とにかくブーストしてからだな。
「火系魔法で燃やしちゃ駄目かな?」
とマイヤー。
「山火事になるわ!」
全員で止めた。ブッシュマンは火気厳禁である。効かないからではない。効き過ぎるからだ。良く燃える。燃えて動き回るのだ。山森中が火に包まれるのが、目に浮かぶようだ。
「ブースト!」
全員ブーストを掛けて、走り回るブッシュマンに突撃していく。
「キキキキキキッ」
それを察知して逃げ回るブッシュマンたち。動き難い山森の中を、良くあれだけ自在に動けるものだ。が、ブーストの掛かった俺も負けてはいない。
ブッシュマンの行動を先読みして先回りすると、上段から木剣を振り下ろす。ザッと枝腕が切れるが、痛覚がないのだろう、ブッシュマンはそんな事はお構いなしに俺の前から逃げていった。ああ、本当に面倒臭い。
どれだけの時間が経過しただろうか? 逃げるブッシュマンを追い掛けては切り、回り込んでは切り、追い詰めては切り、切り切り切り、六人で一人五十匹以上狩ったと言うのに、山森にはまだ「キキキキキキッ」と言うブッシュマンの声が谺していた。
「ここまでにしようぜ」
俺の言葉を待ってました、とばかりに皆がその足を止めた。もう日暮れである。これ以上は翌日以降に持ち越しだ。クソう、あの笑い声が今夜の夢に出てきそうだ。
六人で竜に乗って俺の家に帰り、翌日も、その翌日もブッシュマン狩り。結果ブッシュマンを狩り切るのに、四日掛かってしまった。ブッシュマンの笑い声は、その後三日間続いた。




