裏付け
「ありがとうございます。とお礼を述べといた方が良いのかな?」
ここはサロン館。俺たちの目の前にはハミルトン・グラッツとその下に付く三人がいる。学院中をファンタズマ流の学生たちに追い掛け回され逃げ回った結果、ハミルトンの指示で動いた三人によって、俺たち六人はサロン館に逃げ込む事に成功した。
「君には借りを作っておく方が良いと思ってね。彼らもまさかサロン館にまで襲い掛かってはこないだろう」
「だと良いんですけどね」
「襲ってくる可能性があると? まさか? このサロン館にどれだけの歴史的価値があると思っているんだ?」
「でもあいつら普通じゃありませんでしたから」
そもそも普通なら、剣を持って襲い掛かってなんてこない。ハミルトンは三人中二人に、サロン館の入り口を見張らせ、俺たちを奥へと案内した。
連れてこられたのは会議室のような一室だ。そこで椅子に座って人心地つく。カフェからコップに入れられた冷たい水が運ばれてきたが、俺たちは一気に飲み干してしまった。
「しかし何事なんだい? 最近のファンタズマ流は目に余る。肩をいからせ、まるで自分たちが一番偉いかのように振る舞っていた」
そうなのか? 俺はボロス王国に行っていたから知らなかったが、カルロスたちを見るに、首肯している。
「そして今日の蛮行。異常だよ」
ハミルトン・グラッツが異常と言うとは。この人常識あったんだな。
「それについては、ヴォルフリッヒさんの持っているポーションが関係しているかと」
「ポーション?」
俺たちから注目を浴びて、ビクリとするヴォルフリッヒさん。
「持ってない。俺はもう持ってないぞ!」
そう言うヴォルフリッヒさんを、アインとショーンが後ろから拘束する。その内にマイヤーがヴォルフリッヒさんの腰バックを調べると、
「あったわ!」
やはりポーションが一瓶出てきた。
「返せ! それは俺のだ! 誰にもやらないぞ!」
ポーションを取り上げられて、怒り出したヴォルフリッヒさんは、強引に拘束を外すと、マイヤーに襲い掛かろうとする。それを俺は木剣を木網に変えて、椅子に拘束する。
「何をする! 離せ!」
拘束されても喚き散らすヴォルフリッヒさんの口に、木網を噛ませて黙らせる。
「異常な執着だな。何なんだそのポーション?」
全員の視線がマイヤーの持つポーションに注がれる。俺はマイヤーからポーションを受け取ると、瓶の蓋を開けて匂いを嗅いだ。
「やっぱりな。思った通り、これは魔剤だ」
俺の言葉に、全員、ヴォルフリッヒさんまでが驚く。
「本当かい?」
疑問を呈するハミルトン。
「なら飲んでみます? ヴォルフリッヒさんやファンタズマ流の皆みたいに、帰ってこれなくなるでしょうけど」
俺の言葉に、全員全力で首を左右に振るった。
「しかし、また魔剤か」
「また?」
カルロスの言葉に、首を傾げるハミルトン。
「俺が行ったボロス王国でも、魔剤の関わった事件があったんですよ」
「ボロスでも?」
「…………ハミルトン、さんのグラッツ領は、海に面していましたよね?」
「ああ。……まさか我が領がどこかから魔剤を輸入している、とでも言いたいのか!? 悪いがグラッツ領の海は製塩や漁業が主な産業で、港はそんなに大きくない。それを言うならヴォルフリッヒのバイラッハ領だろう!」
と全力で否定するハミルトン。そうなのか。聞けばヴォルフリッヒさんのバイラッハ領は、ハミルトンのグラッツ領の東、リオナさんのバンシャン領の南に位置し、主な産業は海運貿易であるようだ。
「ヴォルフリッヒさん、これをどこから輸入したんですか?」
口に噛ませた木網を外すと、ヴォルフリッヒさんは観念したように口を開いた。
「……メサイア教国だ」
またメサイア教国か。どうやらメサイア教国には、魔剤の素材である芥子の大規模な農場でもありそうだ。
「とにかく、こうなると俺たち学生間どころか、学院内で処理しきれる話じゃないな。教師陣に相談して、王国の上層部に話を持って行って貰わないと」
「そんな! それじゃ俺はどうなるんだ!?」
とヴォルフリッヒさんは縋るような目で俺を見てくる。だが頼られても俺にはどうしようもない。
「魔剤の使用どころか、それを学院内に広めたんだ。退学は免れないでしょう。それどころか牢獄行きも十分ありえますね」
「そんな……」
がっくりと項垂れるヴォルフリッヒさん。ヴォルフリッヒさんがこの魔剤に出会ったのは、冬休みにバイラッハ領に戻った時の事だった。
前期の決闘祭で俺が活躍した事により、ファンタズマ流からヴォーパル一刀流に乗り換える学生が少なくなく、ヴォルフリッヒさんはそれに頭を悩ませていたそうだ。
そんな時にメサイア教国からやって来た商人にこの魔剤を勧められ、飲んでみたら気分がスッキリ、これは良い物だ! とネビュラ学院の学生たちにも配っていたら、いつの間にやらこんな事になっていたらしい。
本人も知らない内に身体だけでなく、周囲の人々まで蝕まれていたなんて、身の毛のよだつ話である。ボロス王国で俺もヴォルフリッヒさんと同じ立場になっていたかも知れないと考えると、他人事とは思えなかった。




