不穏な様子
「はあ〜」
ネビュラ魔剣学院に戻って来た俺は、いつもの席で壮大に溜息を吐いていた。
「どうした? そんな大きな溜息吐くなんて、らしくない。はっ! もしかしてボロスでボロボロに負けて帰ってきたんじゃないだろうな?」
横の席のカルロスが、心配しているやら、からかっているやら、俺に話し掛けてきた。マイヤー、アイン、ショーンも同様の目をしている。四人とも外国の話が聞きたくてしょうがないようだ。
「いや、勝ったけど」
「おお! ようしようし、偉いぞ〜。やはりボロスには負けていられないからな!」
いや、何その対抗心。いや、それが普通なのか、マイヤー、アイン、ショーンも拳を握り締めて喜んでいる。
「でもだったら、何で溜息なんて吐いてるのよ? もっと堂々としてなさいよ」
とマイヤー。まあ、普通であればそうなのだろうけど。こいつらには事情を話していた方が良いか。いずれバレるだろうし。
俺はミリアムの事を四人に話した。
「聖女ミリアムか。噂では聞いた事あったけど、まさか創り物だったなんてな」
とはアイン。アインの家はボロスとの国境にあるからな、そう言う情報も入ってきてたか。
「しっかしボロス王国って、思った以上にヤバそうね」
「どうだろうな。貴族と平民の間には結構壁があるようには見受けたけど」
「ああ、ボロスは貴族が偉そうにふんぞり返ってるって聞くからな」
「へえ〜、じゃあブレイドに負けたなんて、相当堪えたんじゃない?」
「はは、そうかもな」
俺はその話題を笑って受け流した。
「…………なあ、シド・パーシヴァルの事どう思う?」
「は? 何よいきなり?」
「シド・パーシヴァルって、あの剣聖パーシヴァルか?」
「悪竜退治の寝物語の印象しかないかな」
とマイヤー、カルロス、ショーンは訝しがる。
「俺がパーシヴァルの子孫だって言ったら、信じるか?」
「何言ってるの?」
「寝惚けてるのか?」
「ブレイドってそう言う冗談言うやつだったっけ?」
全く信じてもらえなかった。
その後一般コースの授業が終わり、学生会の役員室に向かう途中、アインが話し掛けてきた。
「ブレイド、パーシヴァルの件……」
「いや、忘れてくれて結構だよ」
「いや、僕がまだ幼い頃、父がパーシヴァルの子孫がこの国のどこかにいる。と確信して話していたのを思い出したよ。もしかして本当に君はあの……」
とそこまで口にしたアインの肩を掴んで、
「忘れてくれ」
俺はアインを黙らせた。まあ、俺がパーシヴァルだったからって、俺の人生何が変わる訳じゃないしな。
「ブレイドくん」
そこにいきなり話し掛けられた。声の方を振り返れば、そこにはヴォルフリッヒさんがいた。しかし目の下の隈が尋常じゃない。だと言うのに目が爛々としている。何かの病気だろうか?
「助けてくれないか?」
俺に弱々しく縋り付いてくるヴォルフリッヒさん。それなのに、力が尋常じゃなく強い。そして口から何か嗅いだ事のある匂いが漂っていた。
「ヴォルフリッヒ!!」
更にそこにヴォルフリッヒさんを呼び止める怒鳴り声が聞こえる。見ればあれは、対外試合でボロス王国に出発する前に、ヴォーパル一刀流からファンタズマ流に鞍替えした三人。だけでなくファンタズマ流の他の学生たちもいる。しかも手に剣を持って。穏やかじゃないな。
「剣を納めろ! 学院内での私闘は禁止されているだろう!」
とカルロスがファンタズマ流の学生たちの説得に掛かるが、
「うるせえ! 手前には関係ないだろう!」
学生たちは聞く耳を持たない。その目は爛々としていて、ヴォルフリッヒさんのように隈が凄い。全員から何か切迫したものを感じた。
「ヴォルフリッヒ、あのポーションを出せよ。持ってるんだろ?」
ポーション?
「……もう無い」
「嘘だ!!」
そう言ってファンタズマ流の学生の一人が剣を横に振るうと、柱が破砕された。なんて膂力だ。ブースト掛けているのだろうか?
「本当だ。直ぐに調達するから、もうしばらく待ってくれ」
「そんなの信じられるか!」
聞く耳を持たないファンタズマ流の学生たちが、一斉に襲い掛かってきた。
「マジか!?」
「逃げるぞ!」
俺たちはこの異様な集団相手に、六人で立ち向かうのは得策ではないと瞬時に考え、直ぐ様その場から逃げ出した。




