2 待ったは難しい問題なんだよね
「ま、待ったっ!」
おじいちゃんが『待った』をしてきたんだよね
「うんいいんだよね」
そう言って王手をしようとしていた金を下げたんだよね
・・・子供っぽい返事だったんだよね?
中身がジジイだってばれてないんだよね?
大丈夫なんだよね?
おじいちゃんは先ほど動かした駒を元に戻し考え始めたんだよね
今日も長い日になりそうなんだよね
あ、ちょっと言っておくけど、本来は『待った』はナシなんだよね
それだけで一発退場なんだよね
正式な『待った』は駒から指を離した後、その駒を再度動かすことなんだよね
よく友達と対局していての『待った』と声をかけるのは本当の『待った』ではないんだよね
駒を再度動かすことが『待った』なんだよね
よく勘違いしている人がいるんだよね
気を付けるとちょっと自慢できると思うんだよね
あ、でもローカルルールでは『待った』ありと言う場合もあるらしいんだよね
いわゆるお遊びの場合なんだよね
そこのところは大人の対応して欲しいんだよね
大昔はプロでも二歩を打った時に対局相手が「おいおい二歩だせ」とか言って『待った』を許していたことがあったらしいんだよね
人と人とがお互いに尊敬をしあって生きていたという、本当に古き良き時代なんだよね
汚染された上に上から下までクズばっかりのギスギスした未来はどうにかして欲しいと思うんだよね
ここまできても、おじいちゃんはまだ次の手に悩んでいるんだよね
どうやら長考になりそうだからここでちょっとだけボクのことを語ってみるんだよね
現在ボクは小学1年生なんだよね
黒いランドセルを背負って毎日小学校に通っているんだよね
・・・本当はなんで小学1年生なんだうと思うんだよね
ボクはたしか寿命をまっとうしたはずなんだよね
しっかり生きたはずなんだよね
静かに息を引き取ったはずだったんだよね
ところが気が付くと小学1年生に逆戻りしていたんだよね
どこで間違ったんだか?と言いたいんだよね
・・・もう一度長い人生を歩くかと思うとウンザリするんだよね
いや本当の話なんだよね
ためしにおじいちゃんやおばあちゃんに一度聞いてみるといいんだよね
「もう一度最初っから人生やってみたい?」
絶対に拒否すると思うんだよね
若い頃は良かったんだよね
日々が輝いていたんだよね
でもね40歳を過ぎると体力がガタっと落ちるんだよね
50歳をすぎると腰にくるんだよね
いわゆる、ぎっくり腰ってやつなんだよね
本当に不意にギクっときて腰が痛くて動けなくなるんだよね
あ、あと50肩もあったんだよね
腕が上がらなくなるんだよね
おかげで会社に行くためのYシャツや背広を着るのも一苦労だったんだよね
あと歯もあったんだよね
歯をきちんと磨いていても歯周病で歯が次々にボロボロ抜けるんだよね
本当にホラー映画よりも酷かったんだよね
60歳過ぎると頭が寒いんだよね
髪の毛が薄くなってくるんだよね
決してハゲではないんだよね
70歳過ぎると食べるのに苦労するんだよね
硬いモノが食べれなくなるんだよね
もはやイジメなんだよね
食べれないと生きる気力が減っていくんだよね
いや本当の話なんだよね
他には老眼があるんだよね
小さな文字が見えなくなるんだよね
あと新聞や本は離したりしないと見えないんだよね
そんな困難を乗り越えながらようやく人生を全うしたと思ったらまさかのリプレイなんだよね
神様はボクのことが凄く嫌いらしいんだよね
でも二度目の人生が始まったのは仕方がないんだよね
リセットボタンが無いんだよね
だから好きな将棋を好きなだけするんだよね
だから毎日、おじいちゃんと将棋三昧なんだよね
もっともおじいちゃんは「待った」が多すぎて待ち時間が長いんだよね
でも大丈夫なんだよね
ボクの中身はジジイなんだよね
熱くて濃いお茶をチビチビ飲みながら待っているんだよね
前世では将棋は成人してから好きになったんだよね
だからおじいちゃんと将棋をすることはなかったんだよね
これはコレでいいんだよね
だって見る専だったんだよね
折りたたみの将棋盤に普通の木の駒だけど、見ているだけで内心ニヤニヤなんだよね
だって脳内には50年近くの棋譜が保存されているんだよね
目の前に駒があると連想ゲームのように頭に浮かぶんだよね
それを見るだけで楽しいんだよね
この対局ではこの棋士がこんなポカをしたとか、おやつにチョコを8枚も食べたとかも浮かんでくるんだよね
将棋の駒を見ているだけで楽しいんだよね
ストーカー、もとい将棋フアンを舐めるな、なんだよね
あ、おじいちゃんが指したんだよね
さあ、これで
将棋をしよう!
なんだよね




