前編
カーテンの隙間から差し込む朝日で、目が覚めて。
布団をはねのけた俺は、ベッドからも部屋からも出て、短い廊下を歩いて、トイレへ向かう。
ここまでは、いつもの朝なのだが……。
トイレの扉を開けると、そこにあるはずの便器がなかった。
腰掛便器というのが、正式名称だっただろうか。ごくごく一般的な、洋式の水洗便所。
普通ならば視界に入るはずのそれが、すっかり消えていたのだ。
いつも俺が尻を座らせていた便座部分も。
トイレの床とガッシリ繋がっていたはずの便器本体も。
水洗便所の命ともいえる水を大量に蓄えていた水洗タンクも。
何から何まで、きれいサッパリなくなっているのだった。
奥の壁からは、水洗タンクと繋がっていた金属菅が、取り残されたように虚しく突き出している。
また、トイレの床には、ポッカリと穴が空いていた。今まで水洗便器で流された汚物は、ここを通って下水道へ向かっていたのだろう。しかも、蓋になっていた便器が消えたせいか、プーンと悪臭が立ち上っている。
「おい、おい。これ、どうしたらいいんだ……」
朝の尿意も忘れて、そんな言葉が口から飛び出した。
臭いならトイレから出ればいい、とか。
うちのトイレが使えないなら他を当たるしかない、とか。
一番近くの公衆便所はどこだっけ、とか。
そうした冷静な判断力も、いざとなったら失われてしまう。ただただ唖然として、しばらくの間、何もないトイレで何もせず、ボーッと突っ立っていたら……。
突然。
どこからか、ザーッという音が聞こえてきた。
続いて、視界が一瞬、歪んだかと思ったら、消えた便器が戻ってきた。
「あれ? 見つかっちゃったかな?」
便器の横に立つ、一人の不審者と一緒に。




