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こじらせ騎士と王子と灰色の魔導士  作者: 有沢真尋
第十章 食事は大切に

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物理で女子会(中編)

 クライスには女子会経験がない。

 王都に出てからは常に男性の間にあって、自身も男性として過ごしてきたので当然のこと。

 友達がいないわけではない。断じて。


 見た目は妙齢の美女であるところのロイドも、クライスが初めて会ったときは男性であった。


(アゼルは女性だけど、ロイドさんやルーク・シルヴァと同族ということはたぶん男性にもなれる。この場で所謂「女のひと」ってジュリアだけか)


 女子会、と意気込んでは見たものの、女子感は限りなく薄い。

 どちらかと言えば、全員の得意を考えれば「会合」より「戦闘」の方がまだ妥当のような気がする。何がどう妥当なのかは、クライス自身よくわからないが。


 さすがに、部屋主が不在の部屋で盛り上がるのはどうかという話になり、それならアゼルに用意された部屋があるからと全員で連れ立って移動した。

 距離はごく短く、向かった先は。


「ここはアレクス様の部屋では」


 アゼルに「ここだよー」といわれて、クライスは首を傾げつつ中途半端な笑みで固まってしまう。


「そうだよ。使っていいって言われたから、使ってる」

「アレクス様は?」

「そのうち帰ってくるんじゃない?」


(なにそれ。夫婦なの? しかも新婚でもないよね。もう連れ添って結構経ってて「旦那? 放っておいていいわよ、自分で適当になんかするでしょ」みたいな感じ。女性陣で盛り上がっているところにアレクス様が帰ってきて「どうも」なんて言いながら着替えたり寛いだりお茶飲んだり本読んだりするわけ!? へええええええ!?)



「魔族ってなんなんだろう。なんでこの国の第一王子も第二王子も魔族に引っかかってんの?」

「引っかかるって何よ」


 アゼルが憤然と胸を張り、腰に拳をあてて言い張る。その仕草に、豊かな胸と華奢な腰が強調され、長い髪がさらりと肩を滑った。


 なお、第三王子(及び第二王子)はもう一人の魔族であるところのルーク・シルヴァにもれなく攫われているが、クライスがその事実を知るのは先のことである。

 要するに、王子三人とも魔族と関わりを持っている現状であった。

 しかも、上二人に関しては女性型の魔族を自室に連れ込んでいる。


(アゼルとアレクス様はどうなってるの? どうにかなってない方がおかしいよね? 少なくとも周りはそう思っているよね? それでなんで? アレクス様は僕に求婚を……!?)


 陰謀の気配を感じる。

 アゼルとの出会いが、アレクスを刺激したのは間違いない。


「入って入って。自由にしていいって言っていたから」


 部屋主のように、アゼルが全員を招き入れる。頭の中が疑問でいっぱいになりながらも、クライスも足を踏み入れた。


 * * *


 アゼルが女官に頼み込むと、すぐに焼菓子や葡萄酒が運ばれてきた。料理は簡単でいいとか、すぐにできるもので良いと言っていたようだが、明らかに「手が込んでいないふりをしている」ものが軽食を装って運ばれてきている。

 食べやすい大きさにあらかじめ切られた肉や、手で摘まんで食べられるパイ包み、肉や野菜を挟み込んだパンなど。

 給仕もいらなければ、ナイフやフォークも使わず、話しながら各自適当に好きなものを選べるようになっていた。

 がつがつとした性急さはないものの、ジュリアはどんどん皿を空けていく。

 しかも、追加が運ばれると廊下の気配を察してさっと立ち上がり、ドアを開けにいく。


「ありがとうございます。すごく美味しいです。ここで大丈夫、私が持ちます。重くなかったですか?」


 皿を受け取りながら優しく声をかけては、面白いほどに来る侍女来る侍女、次々に落としている。


(ジュリア、あれ素だよな。女の人の要人警護につけても大丈夫なのかな)


 上官として若干気になってしまうモテぶりであった。

 なお、全員空腹だったのと、料理が良いペースで運ばれてくるので、会話量はそれまでさほど多くなかった。意識して「美味しいね」「これも美味しいです」「もう少し飲む?」といった世間話に徹していたせいもある。

 だが、いつまでも避けてはいられないと、クライスは並んでソファにかけていたアゼルの方へ、身体ごと向き直った。


「単刀直入に聞きたいんだけど。アゼル、アレクス様と付き合ってるの?」

「え?」


 にこっとアゼルが微笑んだ。

 聞こえていないから聞き返したわけではない、返答であった。

 むしろ「何言ってんの? もう一回言ったら殺すけど?」という圧が込められていた。 

 向かいあう位置のソファでクッションにもたれかかっていたロイドは、気にした様子もなく言った。


「そうだ、アゼル。なんで? アレクス殿下とどうしてこうなっているの?」

「どうもこうも。何もなってないわよ」


 馬鹿馬鹿しい、と肩をそびやかしてグラスを手にしたアゼルを見つめ、クライスもひいている場合ではないと口を挟む。


「何もなっていない女性は、世継ぎの王子の部屋に滞在しないと思うんだけど」

「何よそれ。わたしがアレクスとどうかなったと思っているわけ?」


 アゼルとしては、否定を見越した啖呵だったのであるが。


 ロイド→思っている。

 クライス→思っている。

 ジュリア→食べている。


 誰も否定しないという結果に終わった。

 二人の反応を見て形勢の不利を悟ったアゼルが、正面に座ってロースト肉のサンドウィッチを頬張っているジュリアをきっと睨みつけた。


「なんとか言ってよね」

「状況がわかっていませんが、王子の部屋に滞在しているなら当然お手付きだと思われているでしょうね」

「そんな事実はないの!!」


 ムキになって否定したアゼルに対し、ジュリアはすっと目を細めた。


「事実かどうかは問題にしていません。世の中には、好きな女性と同じ寝台で寝ても一切手を出すことを許されない男だっているんです。確実に両想いだと確信していて、一晩中抱き合っていても交合一切ない抱き枕ですからね。だから、たとえあなたが裸で殿下の横に寝ていても、殿下が手を出さない可能性は否定しません。あるでしょう。だけど、それとこれとは別です。一般的に見ればあなたは差し当たり、愛人枠です」


 声が、一段低くなっていた。


(なんかこれ絶対ジュリアの変な黒歴史つっついたよね。絶対開けちゃいけない蓋開けたよね)


 ジュリアは好きな男性にそんな惨い仕打ちをしたことがあるのだろうか。した側にしてはやけに怨念がこもっているが、本人的にもよほど心残りな出来事なのかもしれない。

 アゼルはと言えば、確実に気圧されてはいたが、納得はしていない様子がありありと見て取れた。


「愛人枠って何よ」

「そのままの意味ですが。お手付きでも殿下が正妃に迎える気がなければ『遊ばれた女』です。事実があろうがなかろうが、今後のあなたはそういう目で見られます」


 がたっとアゼルが立ちあがった。


「ひどい!! そんなのひどすぎる!! それならそうと言ってくれればいいのに!!」


 ソファの背もたれに背を預けたジュリアは、アゼルの顔を恐ろしく鋭い目で見上げつつ、言った。


「言うって何を? 俺の部屋に来れば俺の女だとみなされるぞ、って注意事項を言ってほしかったの? 相手、王子ですよ? むしろそれ織り込み済みで、どうにか懐に潜り込みたい女も今までたくさんいたんじゃないですか? 今さらわざわざ子ども相手にするみたいに、そんなこといちいち言いますかね。というか、『言ってくれない相手が悪い』みたいなのはどうなんです? あなたはそもそもなんでここにいるんですか?」

「ジュリア」


 クライスは葡萄酒の瓶を持ち上げて、ジュリアのグラスに向けて傾けた。

 さっと姿勢を正して、手をグラスの上にかざしながら、ジュリアはにこりと拒否した。


「皆さんがばがば飲んでますけど、私は未成年なので、遠慮しておきます」


 ことさらに強調する気はなさそうであったが、最年少です、と言外に告げられたクライスは、瓶を持ったままうなだれた。

 それまで、成り行きをみていたロイドが、ぼそりと呟く。


「アゼルはステファノが好きなんだよな。どうするんだよこの状況。絶対誤解されるぞ?」


 淡々とした声であったが、クライスにはこれもまた聞き捨てならない発言である。


(ステファノ……クロノス王子を!? アゼルまで!? ……えっ!?)



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