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こじらせ騎士と王子と灰色の魔導士  作者: 有沢真尋
第四章 腹黒王子と付き合いの良い魔族たち

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微睡

 覚醒に至る寸前の微睡の中で、目を閉ざしたままクロノスは思考を巡らす。


 いくつもの案が泡のように浮かんで漂っている。手を伸ばして、結局掴み取ることはなく、ただじっと見つめて考え込む。

 第二王子クロノス。前世は聖剣の勇者と共に魔王を討った魔導士。その直後に、殉死した勇者ルミナスを追って命を落としている。

 ルーナに話した事情はそこまでだ。嘘偽りはない。

 ただし、言っていないこともある。


 勇者ルミナスの生まれ変わりであるクライスを、今生でいかにして見つけたのか。

 すべての人間ではないが、相性次第で魂の形が見える。

 実体を伴った何かではなく、色や光のようなものだが、姿が変わり、性別や年齢が違っていても「同一人物」の判定ができる。

 自覚的に知りたいと意識し、使う気で使わねば効力を発揮しない、ごく弱い力ではあるが。


 この能力は、おそらく第一王子のアレクスも、持っている。

 クロノスの能力と完全一致とは限らないものの、最近のアレクスは明らかにルミナスとクライスが同一人物と気付いている節があり、しかもそれを隠していない。引退を決め込もうとした剣聖に、クライスを修行に出すなど完全に狙ってやっているとしか思えない。 

 自分は前世がわかるのだ──そうプレッシャーをかけてきている気がする。

 つまり、アレクスはクロノスの素性も、前世に紐づけが出来ているのではないだろうか。


(……だとすると少しまずい気がするんだよな)


 アレクスは、自分に能力を行使されたとき、封殺する方法も持っているのかもしれない。

 クロノスからしてアレクスは、魂の形が見えないごく少数の例外にあたる。

 よって、誰かの生まれ変わりなのかどうかはわからない。

 万が一のときは敵か味方もよくわからない。

 今は互いに腹を探り合いつつ「兄弟」をしている。

 もし何も含むところなくただの兄弟なら違った関係もあったのかもしれないが、前世の記憶を引きずるクロノスは、実質生まれたときから別の人生、人格を有していたので子どもらしく兄と接することが不可能だった。すべては演技しかなかった。

 最近、それは自分だけではなく、兄もだったのではないかと、ふと思い至るようになったのだが──


 それはともかく、今現在まったく「魂の形」を隠していない人間が、近くにいる。

 自分が気付いているのだから、アレクスも気付いていると思って間違いない。

 なお、隠していない当人は、そもそも見られていることに気付いていないのだろう。

 あれほどの魔力の持ち主なのに、未知の能力に対して隙があるのは仕方ないことなのか。


(同じなんだよな。ルーナとルーク・シルヴァ……。たぶん同一人物だ)


 彼は、彼女は。

 どういう絡繰りなのか知らないが、男性の身体と女性の身体を持っていて、一つの魂で共有しているらしい。

 どこかに肉体を保管して使い分けているという線も考えたが、それよりも変化の魔法を常時行使していると考えた方が素直だろう。使えると、本人も言っていた。

 二十代に見える男性体と、それよりはいくつか若い少女の身体。

 どちらが本体で、クライスが交際しているのはどちらだ……?


(見た感じ、マナーをきっちり身に着けていた、貫禄のある男性体が本体っぽいんだよな。ルーナは踵のある靴は慣れていないとか、女性の振舞いに疎い感じがある)


 気づいたのが自分だけなら、いくらでも胸に秘めておけたと思う。

 だがおそらく、アレクスも気付いている。敵か味方かよくわからないのに、だ。


(どうする。言うか……? だけど、正体に気付いてるなんて言ったら、国を出て行きかねないし。それはクライスにも合わせる顔がない……。言うにしてもいつどんな形で……? オレには敵対の意志はないと言っても、信じるか……?)


 ひとりで悶々と考えながら寝返りを打ったとき、何かが肩に触れた。


「おい、そろそろ日が暮れるぞ」


 ほっそりした指が肩に食い込んで、控えめながらゆさゆさと揺すぶられている。

 クロノスは野放図に広がりかけていた、彼女に関する様々な想定問答を胸に収めて、目を開けた。


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