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こじらせ騎士と王子と灰色の魔導士  作者: 有沢真尋
第三章 王子の本分

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He's sweet on her.(後)

 城下の人気のない路地裏に空から降り立ち、目抜き通りを目指して二人で並んで歩いた。

 賑やかな通りにでれば、どこに人の目があるかもわからない。『お兄ちゃんと妹の彼氏』の間柄であるので、もちろん手を繋いだりはしない。


「ルーナとだったら、甘々のデート気分を味わえたんだけどなぁ……」


 手繋いだり、腕組んだり……と未練がましく言うクライスに対し、『お兄ちゃん』は小さく笑った。


「お前のデートに対する憧れはすごいな。そんなにこじらせる前に、誰か誘えば良かっただろう」


 モテていなかったわけでもないのだし。むしろ相手ならたくさんいたのではないだろうか。しかし、クライスは明らかにむっとして言った。


「リュ……。ルーク・シルヴァ。冗談でもそういうのはやめて欲しいな。好きでもない相手をデートに誘う気はなかったんだよ。今はルーナがいるから、他の人とは行かないし」

「ああそうか。今は一応ルーク・シルヴァか。お前にそっちの名前で呼ばれると新鮮だな」


 話の内容よりも、名前に気を取られて感慨深げに()()()()()()()が言う。


「名前が、多すぎるんだよ。でも、それが本当の名前なら、僕も呼びたい……」


 物思いに沈むようにクライスは目を伏せた。

 少し元気がないなと思いつつも、すでに人の目がさりげなく向けられているのは感じている。ルーク・シルヴァは眼鏡で誤魔化しているとはいえ顔立ちが派手であり、クライスはそれなりの有名人だ。適切な距離を置きつつ、通りを進む。

 ほどなくして、目的のパティスリーに着いた。


 レンガ造りの建物に、ピンクや水色のパステルカラーを組み合わせたオーニングが愛らしく、街路に面した出窓には真っ赤な花の鉢植えが並んでいる。


「あ、ここ知ってる。最近できたお店だよね。クレープが美味しいって。来てみたかったんだけど。え、まさか目指していたのここ!?」


 顔を上げたと思ったら、目を丸くして言うクライスに、ルーク・シルヴァは口元をほころばせた。


「お前、甘いもの結構食べてるだろ。こういうの好きかと思って」

「す、好きだけど……。よくこんなお店知ってたね、ひきこもりなのに」


 店の外まで伸びた列の最後尾に並びながら、クライスが頬を染めて言う。そんなに嬉しいのか、とルーク・シルヴァは何気なく言った。


「昨日、アンジェラと来たんだ。話題のお店だからって」


 下調べしたことを隠すつもりもなかったし、アンジェラのことを気にしまくっていたクライスに、後ろめたいことは何もないというつもりで素直に打ち明けた。

 しかし。


「ルーク・シルヴァ……。僕はさ、こういうところには、ルーナ以外とは来ないって決めてるんだけど。ルーク・シルヴァは他の人と来れちゃうんだ。ふーん……」


 がくっと機嫌が傾いた。


「うん? お前も、同僚と城下で飲んだりするくらいはあるんじゃないか。いや、まだ飲まないか、年齢的に。だけど誰かと買い物に来たり食事をしたり」

「そりゃ、まったく絶対無いとは言わないけど。僕が出るときは、カインとか近衛の誰かとだよ。ルーク・シルヴァは女の人とだよね!? そういうのって、ちょっとあんまり良くないなって思わない!?」


 列の前後に並んだ客が、明らかに耳をそばだてて聞いている。


(「女の人と出かけた」というのを滅茶苦茶気にしてるみたいだけど、お前だって近衛の連中とってことは、男と出かけているだろうが。バレていないと思っているようだが、実はお前が女だって知ってるんだぞ……!)


 よほど言いたかったが、言えない。

 その場では「周りが聞いている」と釘を刺すにとどめたが、そのせいで今度はろくに会話もできず、互いに気まずい空気のままクレープを買って店を後にした。 


 * * *


「ごめんね。時間があんまりないのも知っているし、自分が悪いのはわかっているんだけど、顔が強張ってうまく笑えない。クレープはすっごく美味しかった」


 街路を流しながら食べ終えると、クライスは自分の頬を自分でつねながら言った。


「そこまでわかっているなら俺から言うことはない」


 ルーク・シルヴァも恨み言を口にせぬよう、細心の注意を払うがゆえに簡潔に受け答えする。

 会話が、まったく弾まない。

 王宮ならいざ知らず、街で人の目のあるところでいきなり飛び立っては驚かせるばかりなので、どこへ向かうでもないものの、二人とも角を曲がるたびに人気のなさそうな方へと進んだ。やがて、建物と建物の間の細い道に入ると、まったく人の気配はなくなった。


「クライス」


 ルーク・シルヴァが手を伸ばすと、クライスは素早く身をかわした。


「そういうの、やだからね。キスして抱きしめて黙らせようとか。僕を甘く見て」

「じゃあどうする? ふてくされたまま帰る? 次にいつ会えるかは俺にもわからないぞ」

「そうだね……っ」


 苛立ったように返事をすると、クライスはルーク・シルヴァを見上げた。黙したまま見返すと、ややして、クライスは俯いて下を向き、長く息を吐き出した。

 そして、思い直したように顔を上げた。


「すれ違いたくないから、言うね。僕はルーク・シルヴァのことすごく知りたい。話せないことはそのままでいいけど、聞いてもいいことは教えて欲しい。だけど、その前に。僕も……。僕も、ルーク・シルヴァに言っていない秘密がある」


(性別のことかな)


 ルーク・シルヴァとしてはすぐに思い当たったが、クライスを尊重して聞き入れ、先を促した。


「まだ、言えないんだ。いずれ必ず言うけど。少しだけ待って欲しい。べつに、ルーク・シルヴァのことを信用していないからとか、そういうんじゃないんだ。ただ、自分の中ではまだ整理がついていなくて、うまく伝えられない。このことに関しては、もう少し時間が必要だ」

「わかったよ。俺も概ね、同じだ。今言えないことも、時間がたてば言えるかもしれない。不安にさせたことは謝ろうと思っていた。悪かったよ」


 言いながら、ほとんど無意識に抱き寄せていて、(あ、怒るかな)と思ったが、クライスが暴れ出すことはなかった。


「今はそばにいて、不安なときはこうして寄り添えるけど。今後もし離れ離れになることや、何か思いがけないことがあっても、僕はずっとルーク・シルヴァのことが好きだよ。ルーク・シルヴァが思っているより、ずっと好きだ。好きなんだ……」


 泣いているのかと思った。涙声だった。

 何がそんなに、と思うのと同時に、クライスの抱えている言いようのない不安はルーク・シルヴァもまた否定できずに感じていた。

 たとえば不可思議な動きを見せる魔族、そして見え隠れする聖剣の勇者の影──

 ひたひたと、確実に忍び寄ってくる何か。


 抱きしめる腕に力を込めて、ルーク・シルヴァはふっと薄暗い路地の奥に目を向けた。建物と建物の間に一筋、明るい光が差している。


「お前、はじめて俺に好きって言ったな」

「そうだっけ!?」


 驚いたようにクライスが顔を上げる。


「そうだよ。王子に求婚されてどうしようとか、中途半端な偽装は駄目だとか、なんとか外堀を埋めようとしていたみたいだけど。好きって言わないんだよな、全然」

「そうかも? そういえば」

「そういえばじゃねーよ。態度でわかれって勢いで何でも押し切ろうとして。いつになったら認めるつもりかと思えば、今かよ。遅っ」


 いいだけ責められて、「うう」とクライスは小さく呻いた。言い返すに言い返せないらしい。

 それを見下ろして、ルーク・シルヴァは目元に笑みをにじませた。


「おかげで俺も言いそびれてやんの」


 目が合ったクライスは、挙動がおかしくなり、顔を背けて、胸に腕をつっぱってきた。


(今さら照れるところなのか?)


 あまりの慌てふためきぶりにルーク・シルヴァはこみ上げる笑いをおさえきれず、逃げようとしているクライスを力づくで抱きしめる。


「はいはい、逃げない逃げない。覚悟を決めてよく聞いていろよ」


 もはやぴくりとも動けないほどにしっかりと押さえつけると、顔を耳元に近づけて、唇を寄せた。


 * * *


 その日。

 王宮に戻ったクライスは、アレクス王子に予期していなかったことを告げられる。


「剣聖シドは、諸国を旅していてなかなか捕まえられないんだ。この近くに来ているという情報は掴んでいたんだが、見失った。すぐに荷物をまとめて追いかけて欲しい。こちらのことは気にしなくていい。時間はいくらかけてもいいから、納得いくまで修行を積んでから帰ってこい」


※第三章は当初の「ノスタルジア」から「王子の本分」にタイトルを変更しています。

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