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こじらせ騎士と王子と灰色の魔導士  作者: 有沢真尋
第十二章 友達とか家族とか(後編)

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終わりの予感

 ベッドから起き上がって伸びをし、部屋を出たところでクロノスは実感した。

 気の所為ではなく、体が軽い。


(ここ数日、記憶にないくらい久しぶりに泣いて感情も爆発させたせいかな……。落ち込むところまで落ち込んだら、急に元気になってきた。そんなのありかよ)


 とどめとなったのは、故郷へ足を踏み入れたこと、そして姉との再会。

 ぐずぐず悩んだり、向き合わなければいけないものから逃げ回ったり、こんがらがって凝り固まっていた日々が、さらさらと砂となって崩れていった。

 無用なこだわりだったのだ、と。

 何もない闇まで怖がって前に進めないでいる子どもの自分に、大人の自分が追いついてきて、そっと背中を押した。

 大丈夫大丈夫、何も怖くない。

 この道の先はどこまでも続いている。

 進め。

 子どもの自分は明るい道へと走り出す。その背中をクロノスはじっと見ている。そのうち、子どもは一足進むごとにどんどん成長を遂げて青年の姿となる。そして、道の先で振り返る。

 髪の色、目の色。顔立ち。体格まで今とはすべて異なる自分が、こちらを見ている。



 ――久しぶり、クロノス。初めまして? 長いこと俺と君は話すことがなかったね。同じ体を共有しているのに、この心はもどかしいほど通じ合わなかった。君が俺を知ろうとしなかったし、何より俺がすべてを諦めていた。


 頭の中に響く、声――



「魔力枯渇するまで使い続けていたなら、お腹が空いているだろう」


 マルサの声に、引き戻された。

 クロノスはマルサの後に続いて廊下を歩いていていた。さきほどどこか遠い精神世界で相対した男によく似ているはずのマルサは、振り返るそぶりすらなかった。

 クロノスは、ふと(このひとは、本当に姉さんだよな? いま俺、ステファノに会ったよ)と落ち着かない気分のまま足を早めて横に並んでみた。隣から、顔をのぞきこむ。


「なんだい」


「ん。なんだろう、姉さんこんなに小さかったかなって思って。というか、俺はステファノとそんなに体格差ないと思っていたんだけど、やっぱり少し違うんだな。周りがみんな小さく見える。俺が一回り大きな男になっちゃった感じ」


「寝ぼけたこと言ってんじゃないよ。まあ、そうさね。あんたその見た目だけは確かにステファノとは別人なんだから、弟気分でまとわりつくのはよしてくれ。私とあんたは他人なんだ」


「良い男過ぎて苦手って意味? 姉さん、顔の良い男が好きなわりに、近づかれると緊張するから男はほどほどにブサイクの方が良いって言ってたよね。あれ絶対嘘だと思ってたんだけど。義兄さんなんかここらで一番の良い男だったし、結局見た目で……」


 くすっと笑ったところで、隣から強烈な魔法の波動を感じて、クロノスはとっさに顔をかばうように腕を交差させた。


「べらべらとうるさいね。そんなに姉弟喧嘩したいなら買うよ」

「ごめんなさいっ……! 模擬戦くらいやぶさかではないんですけど、建物の中ではやめおこうよ、姉さん。壊しちゃうから……っ」


 魔導士の喧嘩は、冗談では済まされない。特に、この姉弟であれば。

 クロノスが素直に謝りつつ、隙のない防御姿勢をとったせいか、マルサは魔力放出による脅しをやめた。バチバチッと弾けていた炸裂音がやんで、一瞬溢れた青白い光が収束する。

 双方無言のまま、顔を見合わせた。

 ほんの数秒後、どちらからともなく噴き出して、にらみ合いをやめた。


 ――ああ、本当に帰ってきたんだ俺は。故郷の街へ。家族の元へ。帰ってきて、会いたいひとに会えた。伝えたいことを伝えられた。だからこれで、俺はここで終われる。


 頭の中で誰かが話している。ステファノが話している。懐かしい建物、懐かしい空気、姉弟喧嘩。そのすべてを愛おしみ、別れを告げようとしている。

 心も体も軽くなる。

 ()がいなくなろうとしている。


 その強い予感に貫かれ、クロノスは自分の体を自分の両腕で抱きしめた。

 叫んだ。


「いくな、ステファノ。まだだ。まだ終わってないだろう。お前はまだやることがあるはずだ……! なんのために今の今まで()()にいたと思っているんだ。いくなら全部終わらせて行け! どこまでも付き合うから、俺が」


 ルミナスを守らなければ。ルミナスに会いたい。ルミナスを思っている。

 そのすべてをまだ、きちんと伝えていないというのに、どうして。どうして勝手に消えようとしている。


(姉さんに会っただけじゃ終われないだろう、ステファノ。まだ一緒だ。行くべきところまで一緒に行くんだ)



★2023年もよろしくおねがいします(๑•̀ㅂ•́)و✧

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