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ミスクラ! ~旧校舎の六不思議~  作者: 直井 倖之進
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第一章 『ミステリークラブ発足』③

 供述調書に目をとおし終えると、優冴はおもむろに顔を上げた。

「どうだ? 何か分かったか?」

 待っていた権田巡査部長が我慢できずに尋ねる。

 にこりと笑って優冴は答えた。

「はい。分かりました」

「ほう。では、参考までに聞いておこうか。とはいえ、この私が解決できずに苦労していたくらいだから、いくら綾乃瀬でも犯人が分かるとは……」

「いいえ、事件は解決です」

「そうだろう、分かるはずが……、え? 事件解決? ということは……」

 優冴は自信たっぷりに(うなず)いた。

「はい。犯人が分かりました」

「ふん。適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

 ()()た様子で颯太が優冴を()めつける。

 だが、そこは権田巡査部長が、

(うるさ)いぞ、颯太。私は、お前が犯人である可能性をまだ捨てたわけではないんだ。黙って綾乃瀬の話を聞け」

 とたしなめた。

「まったく、こんな奴を頼るなんて、“鬼の権蔵”も落ちたもんだな」

 相変わらずの憎まれ口をたたきはするものの、それを最後に仕方なく颯太もその口を閉ざした。

 交番内に緊張の糸が張り詰める。

 入り口で待っていた朱音を招き入れると、優冴は三人を前にして告げた。

「先ず、初めにはっきりとしておきたいのですが、今回の『“ウンテンドー3DS”盗難事件』、颯太君は犯人ではありません」

「よかった」

 ほっと朱音が息をつく。

「当たり前だ」

 颯太はそっぽを向いた。

 そのような中で、優冴の答えを気に入らないのは権田巡査部長だ。

「おい、他の者が犯人だという証拠はあるのか? いい加減なことを言っても私は納得しないぞ」

 腕を組み、(とが)めるような口調でそう迫ってくる。

 しかし、優冴は余裕の笑みを崩すことなく返した。

「もちろん、証拠ならばありますよ。“ここ”に」

 “ここ”と、彼が示したのは、先ほどまで読んでいた供述調書だった。

「調書が証拠だって? 馬鹿らしい。話の中で容疑者の誰かが、自分が犯人です、と白状したとでも言うつもりか?」

「えぇ、そのとおりです。犯人は、自分が犯人であることを(みずか)ら教えてくれているんです」

「はあ? どこにそんなことが書いてある?」

 そう問う権田巡査部長に、優冴は、

「説明しましょう」

 と前置きし、解説を始めた。

「犯人を指摘するためには、先ず、犯行がなされた時間を明確にしておく必要があります。それは、太郎君が最後に“ウンテンドー3DS”を確認してから無くなったことを知るまでの間。しかも、この時間の大半、三年二組の児童は体育館にいましたので、正確な犯行時間は、“四時間目終了後から太郎君が無くなったことを知るまでの間”ということになります」

「まぁ、そうだな」

 権田巡査部長は納得した。

「そこで、次は、四時間目が終わって教室へと戻ってきた順番を考えることにします。ここで、颯太君が犯人でないことが確定するんです」

「どうしてだ?」

「体育係である颯太君が教室に戻ったのは、“ウンテンドー3DS”が無くなってから。つまり、犯行後、だからです」

「だが、こいつが嘘をついている可能性もあるんじゃないのか?」

 権田巡査部長は、颯太を(あご)でしゃくった。

「いいえ、それはありません。何故なら、颯太君にあと片づけを手伝わせたのは、先生だからです。もしも颯太君が嘘をついているとするならば、その証人となる先生にも嘘をつかせる必要があります。無関係である先生を利用するなんて到底できるとは思えません」

「ふむ、確かに。担任の先生が教え子の窃盗に協力するとも考えにくいな。では、颯太はシロということか……」

「はい。そして、颯太君の無実が決まったことにより、同じ体育係で行動をともにしていた四郎君も犯人ではなくなるのです」

「なるほど。では、残った次郎と三郎のどちらかが犯人だということか。綾乃瀬、どっちなんだ?」

 答えを()かす権田巡査部長に、間を置かずして優冴は告げた。

「犯人は、上原三郎君です」

「三郎が?」

「そうです。四時間目終了後、三郎君は最初に教室に戻ってきています。太郎君のランドセルから“ウンテンドー3DS”を取り出し、自分のランドセルや持ち物などに隠す。その程度の時間は、あったのではないでしょうか?」

「まぁ、な。だが、それは次郎にもできたことじゃないのか? 体育のあとはすぐに教室に戻った、と言っていたからな」

「えぇ、不可能ではないでしょう。ですが、それとは別に、三郎君には犯人である決定的な証拠があるんです」

「決定的な証拠だって? まさか、それが調書に……」

「はい、しっかりと記されていました。こちらです」

 調書を開くと、優冴はその一部分を指さした。それは、三郎の供述の最後、「今日の放課後は、久しぶりに太郎君と“スーパーマリコシスターズ”で遊ぶつもりでいたのに、それも本体と一緒に無くなってしまったみたいですし……」だった。

「ん? 別におかしなところはないぞ。三郎と太郎は仲がいい。そう思うだけだ」

 権田巡査部長が首を(かし)げる。

 すると優冴は、

「では、こちらも読んでみてください」

 と、調書の(ページ)をパラパラと戻し、今度は別の()(しょ)を示した。こちらは、太郎の供述で、「無くなったゲームソフトのタイトル、ですか? えーと、ごめんなさい。昨日はいくつかのソフトを入れ換えながら遊んでいたので、その中のどれだったかまでははっきりと覚えていません。でも、多分“スーパーマリコシスターズ”だったと思います」であった。

「はあ? 何が言いたいんだ? 分からん。さっぱり分からん」

 警察官であるにもかかわらず、「降参だ」との様子の権田巡査部長。

 優冴は補足した。

「二人の供述を比較するんです。太郎君は、“ウンテンドー3DS”に入っていたゲームソフトをはっきりと覚えてはいませんでした。多分“スーパーマリコシスターズ”だったと思う、と、そんな(あい)(まい)な表現だったのです。ところが、三郎君は違いました。そのタイトルを迷いなく答えています。しかも、それが本体と一緒に無くなったことまで知っていたのです。本人でさえ不確かな情報を誤りなく述べることができたのは、つまり……」

「太郎のランドセルに隠された“ウンテンドー3DS”を盗み出し、中に入っているソフトを確認したから」

 (ようや)く理解した権田巡査部長が途中で割りこむ。その姿は、まるで自分の手柄であるかのように誇らしげだった。

「えっと、……まぁ、そのとおりです」

 一番の見せ場を取られた優冴は、苦笑いして頷いた。

「そうか。やはり、な。では、三郎には、これから詳しく話を聞いてみることにしよう」

「はい、お願いします。全員の持ち物を調べることはしていない、と四郎君が言っていましたので、恐らく、盗品は三郎君のランドセルの中だと思います」

「承知した。任せておけ」

 自信たっぷりに、権田巡査部長は自分の胸をたたいた。

 これにて、事件解決。そう確信し、優冴は言った。

「では、僕たちはこれで失礼します」

「あぁ、ご苦労だったな、綾乃瀬。……それから、颯太、お前ももう行っていいぞ」

「……」

 颯太は無言で席を立った。

「失礼しました」

 一礼して優冴と朱音が交番を出る。

 それに続こうとする颯太を、権田巡査部長が呼び止めた。

「おい、颯太」

「何だよ?」

 面倒そうにふり返る彼の前で、権田巡査部長は深く頭を下げた。

「疑って、すまなかった」

「ん? あぁ、そんなことか。確かに少しは頭にきたけどさ、警察は人を疑うのが仕事だからな。俺は全然気にしてないよ。だから、権田さんもあまり気にするな」

 意外なことに颯太は、あっさりと権田巡査部長の謝罪を受け入れた。それは、彼の執念深くてねちっこい性格から考えると、いささか気味が悪いものであった。

 (いぶか)しがりながら権田巡査部長は聞いた。

「どうしたんだ? お前らしくないじゃないか。普段のお前ならば、容疑者にされたことに怒り狂うはずだろう?」

「まぁ、いつもならそうだな。でも、今日だけは特別だ。面白いものを見せてもらったからな」

「面白いもの?」

「推理だよ、推理」

「推理って、綾乃瀬の推理か?」

「他に誰がいるんだよ? ……実は、俺も犯人を見つけようとしていたんだ。こっそりと、自分なりに。でも、分からなかった。実際の犯行現場にいたにもかかわらず、だ。それなのに、あいつは、調書を(いち)(どく)しただけでいとも簡単に事件を解決して見せた。完全に俺の負けだよ。完敗ってやつだ」

「なるほど。自分を負かした相手を称賛する。まさしく、“完敗に乾杯”だな」

「……」

 洒落(しゃれ)たつもりでしたり顔になる権田巡査部長の言葉を無視し、颯太は廊下で待つ優冴に視線を向けた。隣では姉の朱音が、彼に寄り添うように立っている。

 二人の姿を見つめながら颯太は、「優冴(にい)になら、朱音(ねえ)を任せてもいいか……」と、僅かな悔しさを感じつつも、そう思うのだった。

 ご訪問いただき、ありがとうございました。

 『“ウンテンドー3DS”盗難事件』、無事解決です。

 次回更新は、7月28日(土)を予定しています。

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