第一章 『ミステリークラブ発足』②
事務机と椅子だけが置かれた簡素な交番が姿を現す。奥にいるのが権田巡査部長で、机を挟んで手前の椅子に座るのが颯太だ。双方は睨みあい、対峙していた。
その中を、優冴はまるで自分の家であるかのように闊歩すると、颯太の横に立った。
「どうした? 綾乃瀬。今は忙しいんだ。たいした用でないのなら、あとにしろ」
気づいた権田巡査部長が、当然のことながら注意する。
隣では颯太が、
「ちっ、またお前か……」
と、優冴を見上げて小さく舌打ちした。
権田巡査部長だけでなく颯太からまでも歓迎されていない様子の優冴。だが、それでも彼は、平然と口を開いた。
「権田さん。聞いた話なのですが、校内で窃盗事件があったそうですね」
「だ、誰がそんなことを……」
権田巡査部長は言葉を濁す。だが、その発信源である朱音を交番の入り口に確認すると、仕方なさそうに答えた。
「あぁ、あった。何でも“ウンテンドー3DS”なる物が盗まれたのだそうだ」
「“ウンテンドー3DS”? それって、携帯ゲーム機の?」
「あぁ、そうだ。だが、私もそんなに詳しくはないからな、ちょっと待ってくれ」
そう言うと権田巡査部長は、事件の経緯を記している調書を開いた。
「貸してください」
すかさずそれを優冴が奪う。
「お、おい、勝手なことをするな!」
警察官としての体裁もあり、権田巡査部長は一応怒る素振りを見せた。しかし、調書を取り返そうとまではしない。何故なら、交番が西桜小学校へと居を移してからこれまでに、優冴の助言によって解決につながった事件は、少なくなかったからである。
「綾乃瀬、お前なら何か分かるんじゃないか?」そんな期待を込めた眼差しで見つめる権田巡査部長の前で、優冴は開いた調書に目を落とした。
どうやら『“ウンテンドー3DS”盗難事件』は、今日(三月四日、月曜日)、四時間目が終わった直後の三年二組の教室で起きたらしい。以下は、関係児童の供述内容である。
『相田太郎(被害者)の話』
昨日は日曜日で、外で遊んでいたということもあり、僕は上着のポケットに“ウンテンドー3DS”を入れたまま忘れていました。その上着を今日も学校に着てきてしまって……。だから、今朝、ポケットにそれが入っているのだと分かった時には慌てました。
すると、颯太君が僕の異変に気づき、声をかけてくれたんです。「間違えて持ってきてしまったのか? 黙っていてやるから、先生に見つかる前にランドセルの中に隠してしまえよ」って。
彼のアドバイスに従い、僕はランドセルに“ウンテンドー3DS”を隠しました。
え? その事を知っている人、ですか? 僕と颯太君。他には、近くで話を聞いていた次郎君と三郎君と四郎君です。
僕が最後に“ウンテンドー3DS”を見たのは、四時間目が始まる直前です。四時間目が体育館での体育だったからその前に確認しておこうと思ったんです。はい、その時までは確かにありました。
僕のあとに教室を出た人、ですか? いいえ、僕が最後です。これは間違いありません。その証拠に、体育館に集合したのも僕が最後でした。
体育が終わって教室に戻ると、僕はすぐにランドセルの中を見ました。でも、そこに“ウンテンドー3DS”はありませんでした。無くなっていたんです。
友だちを疑いたくはないのですが、ランドセルに隠したことを知っている四人の中の誰かが犯人だと僕は思っています。
他に無くなった物、ですか? ……あ、そういえば、本体に入れていたゲームソフトも無くなりました。“ウンテンドー3DS”は、本体にカード式のソフトを差しこんで遊ぶこともできるんです。
無くなったゲームソフトのタイトル、ですか? えーと、ごめんなさい。昨日はいくつかのソフトを入れ換えながら遊んでいたので、その中のどれだったかまでははっきりと覚えていません。でも、多分“スーパーマリコシスターズ”だったと思います。えぇ、そうです。マリコとルイミの姉妹が、魔王の城に閉じこめられている王子を助けるアクションゲームです。
『井上次郎の話』
うん。僕、太郎君がゲームを持ってきてたの、知ってるよ。
颯太君が「先生に見つかる前に早くランドセルに隠してしまえ」って、言ってた。ああいう時には頼りになるよね、颯太君って。
でもね、そんな颯太君だけど、悪戯することも多いんだよ。しかもね、それを皆に自慢するから、すぐにばれて先生に怒られちゃうんだ。馬鹿だよね、颯太君って。
僕? 僕は悪いことをしても絶対に人に話さないよ。賢いよね、僕って。
体育が終わったあと? うん、すぐに教室に戻ったよ。結構急いで帰ったんだけど、五人ぐらいは先に着いていたと思う。
他に気づいたこと? えーとねぇ、そういえば、着替えている時にやけに教室がざわざわしてたなぁ。給食の準備で忙しかったからかな。
『上原三郎の話』
太郎君の“ウンテンドー3DS”が無くなったことですか? はい。知っていますよ。
四時間目が終わって、給食当番だった僕は、一番に教室に戻りました。それでエプロンを着ていたら、ランドセルを覗きこんでいた太郎君が、「僕の“ウンテンドー3DS”が無くなった!」と騒ぎ始めたんです。
太郎君とは友だちなので探すのを手伝いたかったのですが、給食の準備があってそれはできませんでした。だから僕は颯太君に、「僕の代わりに太郎君を助けてあげて」とお願いしてから給食室に向かうことにしたのです。
そのあとですか? すみません。配膳をしていてよく分かりません。でも、颯太君と四郎君が、太郎君と一緒に教室内のあちこちを探している姿は見ました。
友だちのゲーム機が無くなったことについて、ですか? 確かに、学校にゲームを持ちこんだ太郎君は悪いですが、それ以上に、僕たち三の二の教室から物が無くなったことが残念です。
今日の放課後は、久しぶりに太郎君と“スーパーマリコシスターズ”で遊ぶつもりでいたのに、それも本体と一緒に無くなってしまったみたいですし……。
『江藤四郎の話』
太郎が“ウンテンドー3DS”を持ってきた話か? あぁ、無くなった、とか言っていたな。
だけど、あれは太郎が悪いぞ。本来学校に持ってくるべきではない物を、あいつは持ってきてしまったのだからな。無くなったとしても文句は言えない。
そもそも学校には、将来ノーベル賞を受賞する可能性がある奴がいれば、殺人犯になる可能性のある奴もいる。そんな色んな人間が一緒に生活している場所なんだ。そうだろう? だから、泥棒になる可能性がある奴がいたとしても何ら不思議はない。つまりは、いつも危機感を持て、ということだ。
ん? では太郎はどうすればよかったのか、って? そんなこと決まっているだろう。怒られるのを覚悟で先生に預ければよかったんだ。無くなって仲間を疑うくらいならば、俺は先生に怒られる道を選ぶね。子供は上手に大人を頼ればいいんだ。それが、小学校で苦労せずに生きていく秘訣というものさ。
え? お前は子供っぽくない、って? よけいなお世話だよ。それについては颯太も同じだろ? 放っておいてくれ。……で、もういいのか? 他に話がないのなら、俺は行くぞ。
最後に質問? 何だ? ……あぁ、そのことか。本当だ。給食の準備中に、俺と颯太と太郎で教室の中をくまなく探したよ。さすがに、全員の持ち物を調べる、なんてことはしなかったけどな。
『橘颯太の話』
だから、俺は盗ってないんだって。まったく、何度言わせるんだよ。
他にも関係がある奴がいるんだから、そいつらから話を聞けばいいだろ? ……え? ひとりずつ呼び出して聞いた? それで、犯人は? ……はあ? 分からないのかよ。使えないな、警察も。
え? そんなことより今朝の話をしろ、って? 分かったよ。
今朝、教室の隅でごそごそやっている太郎の手に“ウンテンドー3DS”があるのを見つけて、俺が勧めたんだよ。「早くランドセルに隠せ」って。まさか無くなるなんて思わなかったからな。
四時間目が終わってからのことか? 体育係だからあと片づけを手伝ってたよ。先生が証人だ。因みに四郎も体育係。だから、俺たちが教室に戻った時には、太郎が「“ウンテンドー3DS”が無くなった」って騒いでる最中だったんだ。それで、三郎に頼まれて、四郎と一緒に探す手伝いをしたってわけさ。
確かに、「ランドセルに隠せ」って言ったのは俺だから、その点については反省してるよ。
でもな、繰り返すけど、俺は絶対に犯人じゃないぞ!
ご訪問いただき、ありがとうございました。
今話は、『“ウンテンドー3DS”盗難事件』の出題編。次話、解答編となります。
次回更新は、7月25日(水)を予定しています。




