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ミスクラ! ~旧校舎の六不思議~  作者: 直井 倖之進
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最終章 『今明かされる旧校舎の六不思議、七番目の真実』⑥

 廊下を真っ直ぐに走り、突き当たりの階段を転がるように駆け下りる。後ろからついてくる五人の足音が聞こえたが、颯太にそれを待っている余裕などなかった。

 一階に着くと彼は、勢いそのままに小部屋のドアを開いた。

 そこには、確かに美奈がいた。

「見つかっちゃった。私の負けね」

 颯太の姿を認めると彼女は、そっと小さく舌を出した。

 四人の子供たちと真中も、遅れてその場に到着する。

「美奈先生、何でだよ?」

 そう颯太が問うと、美奈は、おもむろにその口を開いた。

「颯太君と同じ四年生の時にね、私には仲のいいお友だちがいたの。伊勢崎香名と海原波って子。カナとナミとミナ、三人合わせて“カナミナ”。そう呼ばれるくらいに私たちは仲よしだった。でも、五年生のクラス替えで、私だけが一組になっちゃったの。その時から、歯車が狂い始めた。香名と波がね、私のことを除け者にするようになったの。私が仲よくしようとすればするほど、二人は私を嫌った。そう、『イヤナヤツとイヤナヤツ、二人合わせてミナゴロシ』みたいにね」

 美奈はちらりと充に視線をやり、それを颯太に戻すと続けた。

「二人の嫌がらせは、私が大切に育てていた花壇の苺にも及んだ。それは、朱音ちゃん、貴女がしてくれた六不思議、『イチゴとドクはよく似てる』と同じよ。私の妹はね、お姉ちゃんの苺が食べたかったな、って言いながら死んでいったの。それから私は、一年かけてもう一度苺を育てた。香名か波、どちらか片方を殺すために……。結果、死んだのは香名だった。そしたら波ってば、急に私と仲よくしようとし始めたの。香名がいなくて、独りになっちゃったからね。もちろん私は、波も許すつもりはなかったわ。でも、あえて仲よくふる舞った。次の作戦を実行するために」

「それが、俺がした『お仕置き部屋』の話。旧校舎の七不思議、……最後の鍵」

 呟く颯太に美奈は頷いて見せた。

「そうよ。六年生一学期の終業式が終わってから、私は波に、学校で遊ぼう、と持ちかけた。彼女は喜んで学校にきたわ。そして、私は、この小部屋で波を殺したの。夏休みに土を掘る音が聞こえた、というのも本当よ。だって、その時、私は、この板張りの下に波を埋めていたんだから。これが、十一年前に私が犯した罪の全て」

 語り終えると、美奈は大きく息をはいた。

 そこに颯太が尋ねた。

「なぁ、美奈先生が先生になったのって、波さんの遺体を移動させるためだったのか?」

 小さく笑って美奈は答えた。

「最初はそのつもりだったのよ。去年、旧校舎を取り壊すって話が噂されていて、もしそうなったら、波の遺体も出てくると思ってたし、急がなきゃって。だから、偶然にもこの西桜小に赴任することが決まった時には、飛び跳ねるほど喜んだわ。だって、知ってる? 先生って、採用された都道府県や政令指定都市ならば、どこへだって配属される可能性があるのよ。私の場合は、それが五百校もあった。つまり、五百分の一の確率で、この西桜小にきたってわけなの。私は、波の遺体を移動させるチャンスを与えられた。神様はいるって本気で信じたわ。でも、それは、本当は悪魔の囁きだったの。自分の犯した罪を隠すなんて、してはいけないことだったのよ。それを颯太君、私は貴方に教えてもらったの」

「俺に?」

「そうよ。……いいえ。正確には、四年二組の子供たちに、かも知れない。純粋で素直に生きている貴方たちを見ていたら、私、何をやってるんだろうって……。だから、颯太君、私を逮捕してくれて、ありがとう」

 深く颯太に頭を下げると、美奈はその場に泣き崩れた。

 その姿を見下ろしながら、颯太は言った

「先生は馬鹿だよ。大馬鹿だ。どうして殺す前に、それに気づかなかったんだよ。どうして……」

「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」

 繰り返される美奈の言葉は、それがパトカーのサイレンによって掻き消されるまで、いつまでも続いていた。


 十分後。真中の報告により、所轄の刑事課が駆けつけた。美奈の証言どおり、小部屋の板張りの下から白骨化した少女の遺体が発見されると、彼女は殺人容疑で緊急逮捕された。

 暗い旧校舎を赤く照らすパトランプ。それを、ミスクラの五人と真中、権田巡査部長が、少し離れた場所でただじっと見つめていた。

 やがて美奈がパトカーに乗りこもうとする。それに向かって、颯太が駆け出した。

 美奈の前に立つと、颯太は告げた。

「先生。俺、待ってるから。先生が罪を償って帰ってくるのを、ずっと待ってるから。だから、その時は、もう一度会いにきてくれよな」

「うん。……約束する」

 美奈は、颯太を強く抱きしめた。

 嬉しかったはずの美奈のハグ。柔らかくて甘い香りのする美奈のハグ。だが、今の颯太には、それが胸をえぐられるかのように痛かった。

 それでも颯太は、美奈を固く抱きしめ返した。

「……くっ」

 じっと二人の様子を見ていた真中が、堪えられない思いで目をそらす。

 その顔を掴み、無理やりに真っ直ぐに向けさせると、権田巡査部長は言った。

「よく見ておけ、真中。誰かが罪を犯せば、必ず泣く者が出てくる。私たち警察官の使命は、そんな人間を一人でも減らすべく、努力することだ。そして、それが、警察官となったお前が選んだ道なんだ」

「はい」

 真中は力強く頷いた。

 ご訪問いただき、ありがとうございました。

 今話で本編終了、次話のエピローグで物語の全てが完結します。

 次回、最終話の更新は、10月5日(金)を予定しています。

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