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ミスクラ! ~旧校舎の六不思議~  作者: 直井 倖之進
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第三章 『今語られる旧校舎の七不思議』⑥

『旧校舎の七不思議 その五』

 さっき颯太君が旧校舎の図書室の話をしてくれたでしょう? だから、私は、その図書室に向かう階段にある鏡の話をするね。

 図書室は、正面玄関から入って右手、『お仕置き部屋』とは逆の階段を上った三階にあるんだけど、その二階から三階に向かう踊り場の壁に、全身を映せるくらいの大きな鏡があったの。

 その大鏡は、「夢の世界につながっている」って言われていて、行きたい世界を強くイメージして飛びこむと、そこに入ることができるらしいの。

 甘いお菓子がいっぱいのスイーツ世界、恰好いい男の人がたくさんのドキドキ世界、お寝坊しても怒られないスヤスヤ世界。どんな世界も思いのままってわけなの。

 やり方が簡単だということもあって、休み時間になると踊り場の大鏡の前には、何人もの子供たちが群がっていたわ。「夢の世界に行きたい」って、皆、真剣な顔で鏡にぶつかっているんだから、ちょっと笑っちゃうよね。

 もちろん、夢の世界になんて誰も行けなくて、“大鏡に突進”ブームは次第に収束していったの。

 さらに、ちょうどそのころに、鏡にぶつかった男の子が額を切る怪我をしたこともあって、“大鏡に突進”は完全に禁止になったの。まぁ、鏡にもヒビが入っちゃったし、仕方ないよね。

 それでね、壊れた鏡があるのは危ないってことで、大鏡は(てっ)(きょ)されることになったんだけど、業者さんが次の日にしかこられなくて、その日は踊り場を立ち入り禁止にしてすごすことになったの。

 放課後。ひとりの女の子が踊り場にやってきたわ。名前は、海原(うみはら)さん。彼女は、誰よりも強く夢の世界を信じていたの。

 大鏡の前に立った海原さんは、そっと階段の上下を確認した。そして、誰もいないことが分かると、鏡に語りかけたの。「明日には貴方はいなくなるから、これがきっと最後のチャンス。私を、夢の世界に連れて行って!」って。

 ぎゅっと瞳を閉じて、鏡へと駆け出す海原さん。彼女の体が大鏡にぶつかる。鏡はそれを受け入れた。

 そう。海原さんは、夢の世界に入ることができたのよ。

 ……でもね、向こうの世界からこちらへとふり向いて、彼女は(がく)(ぜん)としたわ。だって、帰り道となる大鏡が無くなっていたんだもの。

 大鏡にはヒビが入っていたでしょう。だからね、彼女が飛びこんだその力で、粉々に砕けてしまっていたの。

 海原さんがどんな夢の世界を思い描いたのかは分からないけど、確かに彼女はそこに行けた。でも、二度と帰ってこられなくなってしまったの。

 次の日、約束どおり大鏡を引き取りに業者さんがきたんだけど、踊り場の壁にそれは無かった。砕けた破片さえ、ひとつもよ。

 その代わりに、壁には、女の子をかたどったような黒い影が、はっきりと残されていたんだって。

 おしまい。


 終始にこやかに語り終えると、美奈は蝋燭を一本吹き消した。

 それから、

「真中さん、どうでした? 怖かったですか?」

 と、期待をこめた目で彼に尋ねた。

「え、ええ。まぁ」

 真中が曖昧に答える。

 美奈がにこにこ顔で話していたせいなのかもしれないが、正直言って、これまでの話と比べると怖くはなかった。子供たちのほうが、話し方もその表情も上手だったのである。

「真中さん、怖くなかったんですね?」

 美奈は泣きそうな顔になった。

「いや、あの、これは僕の恐がりを克服する会なので、僕が怖がっていないのは、むしろ喜ぶべきかと……」

 必死で取り(つくろ)う真中の言葉を、美奈はきっぱりとした口調で(さえぎ)った。

「駄目です! 私も颯太君たちみたいに真中さんを怖がらせたいんです! もう一話、聞いてください。お願いします!」

「は、はぁ」

 勢いに押されて頷く真中を前に、美奈はリベンジを果たすべく真剣な目をして語り始めた。

 ご訪問いただき、ありがとうございました。

 次回更新は、9月14日(金)を予定しています。

 なお、次話で第三章終了となります。

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