第三章 『今語られる旧校舎の七不思議』⑤
『旧校舎の七不思議 その四』
新校舎の校長室前の廊下に、“西桜小の歴史”というのが掲示してあるのを知ってるか?
俺、この間それを読んでいて気づいたんだけど、新校舎が建てられたのって、今から十一年前のことなんだよ。
かなりの突貫工事だったらしくてさ、着工から僅か半年で完成したんだって。
そんなこと知らなければ、六年間をすごしてそれで終わりだけど、いざ知ってしまうと、耐震性だとか何だとか、ちょっと心配だよな。
それでさ、学校には、教室だけじゃなくて特別教室もあるだろ? 理科室や家庭科室、今いる視聴覚室もそうだよな。その中で、一番重い教室ってどこだと思う? 重いってのは、その部屋に置いてある物の重さだ。
ピアノがある音楽室か、はたまたパソコンが並ぶパソコン室か。そのどちらも違って、実は、図書室なんだよ。意外だろ?
図書室で一番重いのは、本だ。一冊一冊は大したことないんだけど、それが数千冊ともなると、とんでもない重量になるんだよ。学者や作家の家が本の重さで倒壊した、なんて話もたまに聞くくらいだからな。
でも、どこの学校でも図書室はだいたい上のほうの階にある。三階だとか四階が一般的だよな。
たくさん集まると、家を潰すほどの重さになる本。それなのに、学校では図書室を上の階にしている理由って何だか分かるか?
それはな、図書室を、火事になる可能性のある給食室や家庭科室から遠ざけるためなんだ。
当たり前だけど、本は紙でできている。火事になった場所の近くに燃えやすいそれがあると、被害が大きくなってしまうんだよ。だから、給食室や家庭科室は下の階、図書室は上の階、と離れていることが多いんだ。
というわけで、今回は図書室の話なんだけど、新校舎が建ってすぐのころ、「旧校舎にある本はどうするのか?」という問題が出てきたんだ。
「新しい図書室には、新書をたくさん入れたい」って希望はあったんだけど、予算の都合がつかなくて、結局は、旧校舎にある古い本をそのまま移動させることになった。
だけど、これがなかなか大変な作業で、先生たちは、旧校舎の図書室から新校舎の図書室まで、持てるだけの本を抱えて何十往復もしたんだってさ。
まぁ、その甲斐あって新しい図書室はたくさんの本で埋まり、旧校舎のほうはがらがらになった。
思ったよりも早く終わりそうなことを喜んだ先生たちは、旧校舎の図書室で休憩することにしたんだ。
皆で集まりお茶を飲んでいると、ふと思い出したようにひとりの先生が、「ひょっとして、向こうのも運ぶんですか?」と、図書室からつながる隣の部屋を指さした。
それは、図書準備室だった。図書準備室は、普段あまり使われない部屋なんだけど、貸し出しできない本や寄贈された数十冊の百科事典が並べて置かれていたんだ。
「運ばなくていい」そこにいる先生の全員がそう思ったよ。だって、重くて分厚い百科事典だぞ。しかも、ずっと誰にも読まれずに埃を被っているような本だ。本当は、捨ててしまいたいくらいだったんだよ。
だけど、それが寄贈された物である以上は、大切にしないといけないのもまた事実だ。
皆が困っていると、一番年上の片岸って男の先生が言ってくれたんだ。「分かりました。私が何とかしますから、そのまま置いていて結構です」ってね。
他の先生たちは、ほっとしたよ。そして、残りを運び終えると、「それでは片岸先生、図書準備室の本はお願いします」そう頼んで旧校舎を出て行ったんだ。
誰もいない図書室にひとり残った先生は、そっと内側から鍵をかけた。そのまま図書準備室に入り、こちらにも鍵をかける。ここで漸く、「ふう、……危なかった」と大きく息をついたんだ。
「これが見つかると、大変なことになるからな」そう呟きながら先生は、目の前の棚にある百科事典の中から一冊を取り出し、床に置いた。それから、ゆっくりと表紙をめくったんだ。
そこには、人の右手が入っていた。
そう。片岸先生は、百科事典をくり抜いて、その中に切断した遺体を隠していたんだよ。
次の日、本のことを気にしていた校長先生が旧校舎の図書準備室を見に行ったんだけど、貸し出しできない本や百科事典は、きれいさっぱりなくなっていたんだって。
本が消えたのと同時に、もうひとつ消えたものがあった。それは、片岸先生。十一年がすぎた今でも、先生は行方不明なんだってさ。
こうして、全ては謎で終わったんだけど、この話を聞いた奴が旧校舎の図書準備室に行ってみたらしいんだ。そしたら、百冊を超える百科事典が、棚に並んで置いてあったんだって。
怖くてすぐに逃げたって話だけど、もし、その中の一冊でも開いていたら、そいつ、“どちらの遺体”を見ることになっていたんだろうな?
だって、その百科事典、昔と比べて倍の数に増えていたんだから……。
二回目の俺の話は、これで終わりだ。
颯太が四本目の蝋燭を消す。
「残りのほうが少なくなったね」
朱音が少し残念そうに言うも、そんなこと彼はお構いなしだ。
「さぁ、次に行こう」
と、先を急かした。
ところが、そこに充が待ったをかけた。
「話を進めたいのはやまやまなんだが、もう語り手がいないぞ」
そうなのだ。理沙を除くミスクラのメンバーは、既に自分が知っている旧校舎の七不思議を披露し終えている。あとは、美奈しかいないのである。
「美奈先生か……」
朱音が、期待感ゼロの表情で彼女に目をやる。
「あー、朱音ちゃん、今、先生には怖い話なんてできない、って思ったでしょう?」
意外と勘が鋭いのか、美奈は頬を膨らませた。
「い、いいえ。別に、そ、そんなことは……」
「ある」そう続けたかったのだが、朱音はそれを口にすることができなかった。
顔を伏せる彼女に、美奈は、
「私だって西桜小の卒業生よ。旧校舎の七不思議ぐらい知ってるんだから!」
と息巻くと、誰に促されるでもなく勝手に語り始めた。
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次回更新は、9月11日(火)を予定しています。




