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ミスクラ! ~旧校舎の六不思議~  作者: 直井 倖之進
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第三章 『今語られる旧校舎の七不思議』③

『旧校舎の七不思議 その二』

 優冴や理沙の成績がいいのは皆が知ってることだけど、実は、俺だってそう悪くはないんだ。

 まぁ、自分で言うのもなんだが、意外と知られていない事実、ってやつだ。

 だけどな、俺、算数だけはどうしても苦手なんだ。

 特に、今の颯太と同じ四年生の時に習った“大きな数”はお手上げだった。万の位でも頭が痛くなるのに、それを超えた億や兆の位なんて何者だって感じだよな。

 当然、受けたテストは散々だったよ。もちろんお袋にも怒られて、俺は、当時六年生だった姉貴に算数を教わることになったんだ。

 これは、その時に聞いた話なんだが……。

 その日、姉貴が教えてくれたのは、五桁どうしの足し算だった。これが結構な難問で、俺は、繰り上がりを指で数えながら計算していたんだ。

 すると、姉貴がふとこんなことを聞いてきた。「充、『イヤナヤツとイヤナヤツ、二人合わせてミナゴロシ』って知ってる?」とな。

 「知らない。教えてくれよ」すぐに俺はそう答えたよ。姉貴の話ってオチがなくて全然面白くないんだけど、算数の問題をやってるよりかはましだと思ったからな。

 珍しく俺が乗り気になったからか、姉貴は得意がって(しゃべ)り始めた。

 何でも姉貴の話では、旧校舎で授業があっていたころに、学校でも有名になるくらいに仲がいい二人がいたんだそうだ。名前は確か、カナとナミ、だったと思う。漢字は聞かないでくれよ。そこまでは姉貴に聞いていないからな。

 それでな、二人は、その名前をつなげて“カナミ”と呼ばれるほど、いつも一緒だったんだと。

 登校や下校も一緒。教室移動も一緒。遠足で飯食うのも一緒。便所まで同じ個室に一緒に入っていたっていうんだから、呆れるしかないよな。だって、想像してみろよ。同じ小便器で俺と優冴が同時に用を足している様を。どう考えても、普通じゃないだろ? だが、二人にとっては、それが当たり前の日常だったってわけさ。

 「ずっと一緒にいようね。死ぬ時も一緒よ」それが二人の約束だったんだと。

 ところが、そんな二人も離ればなれになる日がやってきた。クラス替えだよ。

 五年生のクラス替えで、別々のクラスになってしまったんだ。

 まぁ、別々といっても二クラスしかないから隣どうしなんだが、それでも二人にとっては大問題だったみたいだな。仲よく手をつないで校長室に乗りこみ、「一緒のクラスになれないんだったら、私たち、死にます!」って大騒ぎしたんだそうだ。

 校長先生は悩んだみたいだが、そんなものを認めていたら他の児童も同じことを言いだすに決まっている。結局、二人の意見は通らなかったんだと。当然の結果だよな。

 こうして、カナとナミ、どちらも片方が教室にいない新学期が始まったわけだが、四月あたりは酷かったらしい。授業中なんか教科書を開きもせずに相手の教室があるほうをじっと見合っていた、なんていうんだから。

 それでも、五月の終わりごろになると、そんな二人にも変化が見られるようになった。別の友だちができたんだよ。

 そして、六月の中旬、悲劇は起きた。

 廊下で二人がばったり出会ってしまったんだ。お互いが、新しい友だちを連れている状態でな。

 「何なのよ、その子は!」そうカナが叫ぶと、「ずっと一緒って言っていたくせに、この裏切り者!」とナミも言い返す。

 そのうちに二人はエスカレートして、髪の毛引っ張り合いの(おお)(げん)()が始まった。

 お互いの友だちがお互いをとめようとしたんだが、それでも(けん)()は治まらなかった。

 「ナミなんか、死んじゃえ!」そんな言葉とともに、カナが蹴り飛ばす。ナミは大きくよろめいた。

 ナミの後ろにあったのは、廊下側の窓ガラスだ。――ガシャン――それが割れる音がすると、白いシャツを着ていた彼女の背中が赤く染まった。

 「もう、……許さない!」ナミが割れたガラスの一片を握り締めた。カナも落ちているガラス片を拾う。 二人は、同時にそれをふり上げた。

 “カナミ”は本当に仲がよかったんだ。だから、刺そうと考える場所も一緒だった。

 二人の持ったガラス片は、お互いの左首に突き刺さった。

 「……ナミ」、「……カナ」、お互いの名を呼び合いながら、二人は同時に廊下に倒れた。

 そう。「ずっと一緒にいようね。死ぬ時も一緒よ」という二人の約束は、果たされたんだ。

 それから十年以上がすぎた現在でも、二人が死んだ旧校舎三階の廊下には、不思議なことに真っ赤な血の跡が残っているんだってさ。

 これで、俺の話は終わりだ。


 充が蝋燭を吹き消す。残りは五本になった。

 「確かに怖い話だけど、『イヤナヤツとイヤナヤツ、二人合わせてミナゴロシ』っていうのは、あまり関係がなかったようだね?」

 少しは恐怖に慣れてきたのか、真中がそんなことを言う。

 充は、その問いには答えず、逆に聞き返した。

「真中さん、携帯電話は持ってるか?」

「あぁ、持ってるよ」

 真中は制服のポケットからそれを取り出した。

「じゃあ、“18782(イヤナヤツ)18782(イヤナヤツ)”を電卓機能で計算してみてくれ」

「え? ちょっと待って」

 言われるままに、真中はそれを入力した。そして最後に、“(イコール)”を押す。

 表示された数字は、“37564(ミナゴロシ)”だった。

「ひっ!」

 真中の手から、携帯電話が滑り落ちる。

 手探りで床を探す彼に、充は、

「カナとナミは、お互いをイヤナヤツだと思った。その気持ちが合わさって二人は死んだ。つまり、ミナゴロシってことだ。それを、姉貴は、五桁どうしの足し算をやっていた俺に聞かせたんだ。姉貴にしては、珍しくオチのある話だったってわけさ」

 と解説した。

「これで七不思議の二つ目も終わったね。次は、誰なん?」

 聞き役の理沙が先を促す。

「よし。じゃあ、そろそろ俺の出番だな」

 そう答えたのは颯太だった。

「凄く怖い話だからな。オシッコちびったって知らないぞ」

 そんな自信たっぷりの(おど)し文句を前置きにすると、彼は話し始めた。

 ご訪問いただき、ありがとうございました。

 次回更新は、9月5日(水)を予定しています。

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