第三章 『今語られる旧校舎の七不思議』①
第三章 『今語られる旧校舎の七不思議』
初顔合わせで、いきなりの事件解決。まさに、順風満帆な船出となったミスクラ。
だが、その後は特異な出来事も起きずに二か月あまりが経過し、彼らはいささか退屈な日々をすごしていた。
「平和なのはいいことだけど、これだとミスクラの存在意義がないじゃないか」そう考え、一計を案じたのは、颯太であった。
夏休みを一週間後に控えた七月十二日。彼は、その計画を実行に移した。
「ここだな。それにしても、何で僕がこんな目に……」
視聴覚室。そう書かれたプレートを見上げて、真中は小さく溜め息をついた。
「クラブ活動のお手伝いをお願いできませんか?」美奈にそう拝まれたあの日、真中は二つ返事でそれを快諾した。女性の頼みを断ることなどできないと思ったからだ。彼の正義感を買ってくれている権田巡査部長も、「これも地域貢献の一環だ。頑張って手伝ってこい」と背中を押してくれた。
それなのに……。
「どうして、こんなことになってしまったのかなぁ」
落胆の色を露わに呟くと、真中は手に持つ手紙に目を落とした。
そこには、
『真中さんの弱点は分かっています。もし、貴方がそれを克服したいと考えるのならば、七月十二日のクラブ活動の時間、新校舎三階にある視聴覚室にきてください。……っていうか、克服したくなくても必ずきてください。 ミスクラ一同より』
そう記されていた。
「やっぱり、行かないといけないんだろうなぁ」
嫌々ながらも、真中は視聴覚室の引き戸をそっと開いた。
両眼に、真っ暗な部屋が映し出された。
恐るおそる首だけを差し入れ、中を見回す。すると、部屋の中央に置かれた長机で、小さな灯りが、心もとなく揺れているのが分かった。
あれは、蝋燭だ。灯りに導かれるように、真中は部屋へと足を踏み入れた。
そのとたん、
「真中さん。悪いけど、ドアを閉めて」
突如、闇の中から何者かの声が飛んできた。
「ひっ!」思わず叫び出しそうになるのを真中は必死で飲みこんだ。恐怖のあまり気づかなかったが、よく見ると、蝋燭の灯りで幾つかの人影が揺れている。そう、人がいたのだ。
「さっきの声は、充君だな」そう判断した真中は、
「あ、あぁ、分かったよ」
と平静を装って答え、後ろ手で引き戸を閉めた。
これにより、部屋は一段と暗くなった。真中は、蝋燭の明かりをめあてにゆっくりと中央へと進んで行った。
少し近づくと、次第に人影の顔形がはっきりとし始めた。ミスクラ五人の子供たち、それと、担当教諭である美奈もいる。どうやら既に全員が揃っているようだ。
だが、見慣れているいつもの彼らとは異なり、下から灯りに照らされているその顔は、少し気味悪く真中の目には映った。
「ようこそいらっしゃいました。こちらにどうぞ」
長机を囲むようにパイプ椅子に腰かけている面々。その中で、美奈が自分の隣の席に真中を促した。
「は、はい」
緊張を隠しながら、彼は指示された椅子に座った。
生来の怖がりである真中は、「一体、何が始まるというんだ?」と、落ち着きなく周囲の者たちを見回した。
しかし、皆、何を話すでもなく、じっと目の前の蝋燭を見つめているだけだ。
釣られて真中も机上の蝋燭を見た。数は七本。今も灯りはゆらゆらと揺れている。
やがてクラブ活動開始を知らせるチャイムが鳴ると、おもむろにミスクラの部長、優冴が立ち上がった。
皆の注目を受ける中、彼は口を開いた。
「それでは、これより、『第一回、真中巡査の弱点を克服させよう会』を開催します」
――パチ、パチ、パチ、パチ――室内に拍手が起きる。
流れについて行けないのは、今回の主人公、真中だけだ。彼は、戸惑いながら優冴に聞いた。
「あの、貰った手紙には確かに、弱点を克服したかったら視聴覚室にこい、と言うようなことが書いてあったけど、具体的にどんなことをするんだい?」
優冴は、答えた。
「それについては、今回の企画の発案者である颯太君から説明があります。では、颯太君、お願いします」
「はい」
返事とともに颯太が立ち上がる。彼は、普段は決して使うことのない敬語で話し始めた。
「警察官という職業であるにもかかわらず、真中巡査には決定的な弱点があります。それは、“夜勤のパトロールも満足にできないほどの恐がり”だということです。いくら真中巡査が正義感に溢れた立派な警察官であったとしても、これでは凶悪犯に立ち向かうことができません。そこで、俺は考えました。弱点を克服して、真中巡査には完璧な警察官になってもらおうじゃないか、と」
ここで再び拍手が起こった。
「えーと、それで、僕は何をすればいいのかな?」
こわごわ真中が尋ねると、颯太は、にやりと薄笑いを浮かべながら首をふった。
「いいえ、何かをする必要はありません。ただ、静かに話を聞いていればいいんです」
「話を聞く?」
「そうです。これから俺たちミスクラメンバーと美奈先生が、西桜小旧校舎に伝わる七不思議を語っていきます。ひとつの話を終えるごとに、目の前の蝋燭を一本、吹き消します。全て蝋燭が消えるころには、恐らく、真中巡査の弱点である恐がりは、克服されていることでしょう」
「なるほど。でも、美奈先生や理沙ちゃんは、僕と同じで今年学校にきたばかりだろう? 旧校舎の七不思議なんて知るはずが……」
「もちろん、理沙姉は福岡から転校してきたので旧校舎のことは分かりません。真中巡査と同じく、今回は聞き役です。しかし、美奈先生のほうは、何を隠そうこの西桜小の出身。しかも、旧校舎で授業を受けていた過去があるのです。当然、旧校舎の七不思議については誰よりも詳しい。そこで、美奈先生には、俺たちが知らない七不思議を補って話してもらおうと思っています」
「本当ですか? 美奈先生」
真中が隣の美奈に問うと、彼女は、
「はい! 私、頑張りますよ!」
と、気合いを入れるように拳を握り締めた。
「真中さん、もう質問はない? なければ、とっとと始めたいんだけど」
雰囲気作りで使っていた敬語に飽きたのか、いつもの調子に戻ってそう颯太が聞く。
「あ、う、うん」
真中は頷いた。
「じゃあ、トップバッターは朱音姉だ。とっておきの怖いのを頼むぞ」
颯太は、自分の姉を一番に指名した。
「私? いきなりなのね。まぁ、いいわ。じゃあ、話すね」
そう言うと朱音は、こほん、とひとつ咳払いをしてから語り始めた。
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次回更新は、8月30日(木)を予定しています。




