第二章 『優冴VS転校生 推理勝負!』⑦
「じゃあ、第二問。“ウチは、今回の事件の犯人をひとり、単独犯だと推理しましたが、それは何故でしょうか?”。さぁ、答えて」
「えーと、それって理沙ちゃんが交番長に伝えた内容だろう? “犯人はひとり。被害者宅にいて、周到に準備しているから気をつけて”、みたいなことを言ってたよね。犯人が用意周到だったのは、アナウンスの入ったレコーダーを準備していたことからも分かるけど、どうして単独犯だと気づいたんだろう。……うーん」
真中が大きなひとり言を口にし、頭を悩ませる。
それを理沙が注意した。
「真中さん。あんた、ちょっと煩かよ。優冴君が有利になってしまうやろ」
「ご、ごめん」
真中は亀のように首を縮めた。
「どう? 何の答えもなかけど、降参ね?」
理沙が勝ち誇った笑みを浮かべる。
すると、優冴は口を開いた。
「いや、降参はしないけど、感心していたんだよ。理沙ちゃんの記憶力って凄いなぁ、って」
「ウチを褒めたからって、正解にはせんよ」
「分かってるよ。犯人がひとりだという推理材料は、僕たちがここを訪れてすぐ、僕と権田さんとの会話の中にあったんだ。交番にかかってきた電話の内容を尋ねる僕に、権田さんは教えてくれた。“とんでもない奴に目をつけられてしまった。殺されるかも知れないから、すぐにきてくれ”という話だった、とね。この“とんでもない奴”に注目すれば、単独犯であることが分かるんだ。もし、犯人が複数ならば、それは、“とんでもない奴ら”になるはずだからね」
「……正解」
先ほどの余裕はどこへやら。理沙は崖っぷちに追いこまれた。
「へへーん。これで、あと一問ね」
嫌味ったらしく朱音が小躍りする。
それを横目で睨みつけると、理沙は、
「最終問題!」
と、その言葉に力をこめた。
「最後の問題は、“どの時点で、ウチは今回の出来事に事件性があると気づいたでしょうか?”、よ。さぁ、この問題、答えられるものなら答えてみなさい!」
理沙はビシッと優冴を指さした。
そのとたん、
「ちょっと、それってずるいわよ。だって、その正解は理沙ちゃんのさじ加減ひとつじゃないの!」
乗せられるものかと、朱音が囂囂たる非難を浴びせる。
しかし、理沙は、
「大丈夫よ。四年二組の教室で颯太君に話したやろ? “ウチ、冗談は言うばってん、嘘は言わんもん”って。ウチが負けたと思ったら素直に認めるけん、安心して」
と小さく笑って見せた。
「そう。まぁ、それならいいけど……」
完全に納得はしていないながらも、朱音はしぶしぶ頷いた。
「さぁ。優冴君、答えて」
理沙が促す。
優冴は、ゆっくりとその口を開いた。
「事件性があると理沙ちゃんが気づいたのは、さっきの問題と同じで、僕と権田さんが会話をしていた時だよ。あの時権田さんは言っていた。電話は、“通信指令センターではなくこの交番に直接かかってきた”、とね。警察に対する悪戯電話が多いのは事実なんだけど、それは、“一一〇番”、通信指令センターへの悪戯がほとんどなんだ。一般電話と同じ桁数になっている交番の電話番号よりも“一一〇番”のほうがかけやすいからね。それなのに、電話がかかってきたのは交番だった。これは、話の内容が信用に値するという何よりの証拠なんだよ。つまり、理沙ちゃんの事件性への疑いは、既にそこから始まっていた。……どうかな?」
全員の視線が理沙に集まる。
彼女は、
「正解よ。……ウチの負け」
と、観念したように小さく舌を出した。
「やった! ミスクラ部長は、優冴君!」朱音がもろ手を上げて宣言しかける。
だが、急に何を思い立ったか彼女は、隣の颯太に耳打ちした。
「ねぇ、颯太。悪戯電話は、犯罪なんだからね。もし、貴方がそんなことしたら、姉弟の縁、切るから」
「わ、分かってるよ」
颯太は慌てて返事をした。それと同時に彼は、頭の中に数多ある悪戯リストの中から“警察への悪戯電話”を仕方なく削除した。
「本当に分かっているのかしら。心配ね」
疑いの眼差しで颯太を見つめる朱音に、理沙が声をかけた。
「ミスクラの部長は優冴君に決まりよ。色いろと迷惑かけて、ごめんね」
「いえ、そんな。私のほうこそ、ごめんなさい」
二人は、漸くわだかまりをなくした。
そこに、今までずっと黙っていた充が、腕を組んで満足そうに言った。
「これにて一件落着、だな」
そんな彼の言葉に応えるように、クラブ活動の終わりを知らせるチャイムが鳴る。
こうして、記念すべき第一回ミスクラは無事に幕を下ろした、はずだったのだが……。
「凄いよ! 理沙ちゃんも優冴君も、凄いよ!」
突然、感極まった声を上げ、美奈が二人に抱きついた。
「ちょ、ちょっと先生、放して。このままやったら、殺人事件になる」
美奈の胸に強く顔を押し当てられ、苦しそうに理沙が呻く。もちろん、優冴も同様の事態になっている。
だが、両手をばたつかせる二人に気づくことなく彼女は、
「偉いよ! 理沙ちゃんも優冴君も、偉いよ!」
と、なお一層強く抱きしめた。
目の前で繰り広げられる光景を眺めながら、羨ましそうに颯太が呟いた。
「柔らかくて甘い匂いがして、いいんだよなぁ、アレ」
それを聞いていた朱音の脳内で、階段で颯太から聞いたアレと目の前のアレとが、ひとつにつながった。
そう。先ほどここにくる途中に颯太が言っていたアレとは、ハグのことだった。美奈は、嬉しいことや感心したことがあると相手に抱きつくという妙な癖を持っていたのだ。
人知れず謎を解いた朱音。しかし、その胸中は、すっきりするどころかモヤモヤしていた。美奈にハグされている優冴の顔が、照れたように赤くなっていたからである。少し考えさえすれば、それは息苦しさによるものなのだと分かるのだが、今の彼女にそんな心のゆとりはない。
「何か、むかつく!」そう思うと同時に、朱音の気持ちは言葉となって飛び出した。
「美奈先生! いい加減にしてください!」
「賢いよ。理沙ちゃんも優冴君も賢、……え?」
怒声を耳に入れ、美奈の腕の力が弱まる。その隙をついて二人は逃げ出した。
「まったく、何をやってるんですか?」
怒る朱音を前に、美奈は、
「あれ? 朱音ちゃん、どうして怖い顔するの? ……あ、分かった! 朱音ちゃんもして欲しいのね?」
そう言うが早いか、彼女の許へと駆け寄った。
「ち、違っ……」
否定する間もなく捕まり、朱音も強く抱きしめられる。
「よい子、よい子。朱音ちゃんはよい子ね」
頭を撫でるというおまけつきのハグ。美奈の胸に抱かれながら朱音は、「この先生、絶対に変だよ」と、ミスクラの未来に大いなる不安を抱くのだった。
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今話で第二章が終了です。
次話、第三章初回更新は、8月27日(月)を予定しています。




