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ミスクラ! ~旧校舎の六不思議~  作者: 直井 倖之進
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第二章 『優冴VS転校生 推理勝負!』⑤

「それで、その真中さんは、今、どちらに?」

 優冴が権田巡査部長に聞いた。

「あぁ、ついさっきまではいたんだが、妙な電話が入ってな。その家を見に行っている」

「妙な電話、ですか? どんな?」

「通信指令センターではなくこの交番に直接かかってきたんだ。“とんでもない奴に目をつけられてしまった。殺されるかも知れないから、すぐにきてくれ”とな。とりあえず住所を聞いて、すぐ近所だったから真中に行かせたのだが、こちらへの連絡がないところを見ると……」

 権田巡査部長の言葉の途中で、交番の引き戸が開いた。

「交番長。ただいま戻りました」

 歯切れのよい声とともに現れたのは、すらりと背の高い制服警官だった。

「おう、真中、戻ったか。……それで、どうだった?」

 優冴との会話を切り上げ、そう権田巡査部長が問う。

 真中は答えた。

「はい、どうやらガセだったようです。玄関の呼び鈴を押しても応答がなかったため、庭先まで回ってみたのですが、部屋のカーテンが閉まっていました」

「留守だったわけか」

「はい」

 真中は頷いた。

 そこに理沙が口を挟んだ。

「本当に留守やったとやろうね? 電話で確認してみた?」

「え? 何なんだ、君は」

 急なことに真中が目を丸くする。

 だが、なおも理沙は真剣な表情で問いを繰り返した。

「いいけん答えて。電話してみた?」

 少女の勢いに()()され、真中は答えた。

「あ、あぁ。電話はしてみたよ。交番の電話は、一般電話のナンバーディスプレーと同じで、かかってきた相手の番号が表示されるんだ。だから、出先からその番号にかけた」

「出先ってことは、携帯電話?」

「いや、携帯は交番に忘れてしまったから、公衆電話で」

「その時の状況を詳しく教えて」

「詳しくって言われても、つながらなかったんだ」

「つながらんかった? どういうこと?」

「電話をかけたら受話器から聞こえてきたんだよ。“お客様がおかけになった電話番号は、現在使われておりません”って」

「ふーん。でも、それって変やね。だって、使われてないはずの番号で、その人は一度電話してきとるとやろ?」

「そうだね。まぁ、どんな手を使ったのかは分からないけど、ひとつだけ分かっているのは、たちの悪い悪戯だったってことだ」

 真中は大きな溜め息をついた。

「悪戯ねぇ。だったら、その犯人、捜さんでいいと?」

 理沙がそう真中に尋ねると、彼の代わりに権田巡査部長が答えた。

「放っておいて構わん。お前みたいな子供には分からんだろうが、今回のような警察への悪戯電話は、日常茶飯事なんだ。それなのに、いちいち反応して対応していては、こっちの身がもたんよ」

 それを正論だと感じたか、真中も、

「交番長のおっしゃるとおりだよ。まぁ、僕は、電話をかける時に十円使ったから、そのお金は返して欲しいけど」

 と、冗談まじりに笑い飛ばした。

 ……ところが、

「入れた十円、返ってきてないと?」

 突然、焦りの色を露わにして理沙はそう聞いた。

「う、うん」

 戸惑いながらも、真中が正直に頷く。

 次の瞬間、理沙は叫んだ。

「それは拙か! 急いで!」

「急ぐって、何を?」

 のんびりと問う真中を、理沙は叱り飛ばした。

「決まっとろうもん! もう一度、電話をかけてきた人の家に行くったい!」

「どうして? あれはガセ電話だったんだよ」

「理由を説明しとる暇はなか。真中さんは所轄の署に電話して応援を頼んで。権田さんは今すぐ現場に向かって」

「え? 僕が行くんじゃ駄目なのかい?」

「真中さんは気が弱いって言われとんしゃったから駄目。ここは、経験豊富な権田さんのほうが適任」

 ()()(ばや)に指示を出す理沙。

 すると、それを静かに眺めていた権田巡査部長がここで口を挟んだ。

「おい、随分と鼻息を荒くしているが、子供の話で簡単に警察官が動けるわけがないだろう。きちんと事情を説明しろ」

「だから、そんな暇はない、って言ってるやろ? 分からん人たちやねぇ。それに、ウチはただの子供やない。黒田理沙たい」

「黒田理沙」

 少女の名を繰り返す権田巡査部長の顔色が瞬く間に変わった。

「黒田理沙って、まさか、僅か十歳で『博多人形師殺人事件』を解決したという、あの黒田理沙か?」

「そうたい」

 理沙は小さく首を縦にふった。

 そのとたん、権田巡査部長はいきなり態度を(ひるがえ)した。

「分かった、信じよう。おい、真中。お前は署に応援を要請しろ。私は現場に向かう」

「り、了解しました」

 そんな真中の返事を聞き終わらぬうちに、権田巡査部長は交番の引き戸へと手をかけていた。

 その背に向かって理沙は言った。

「権田さん。犯人は単独で、恐らくは現在も被害者宅に潜伏しとる。単独犯といっても、用意周到な計画での犯行やから、所轄の応援がくるまでは絶対に動かんで」

「承知した」

 背を向けたまま返事をする権田巡査部長に、彼女は、

「ウチ、もう人が死ぬとを見たくない。だから、被害者を守ってやって。……お願い」

 と、涙ながらにそう言葉を足した。

「もちろんだ。私に任せておけ」

 首だけそちらに向けると権田巡査部長は、理沙を安心させようと厳格な顔を無理に崩して微笑みかけた。

 そして、

「では、行ってくる」

 そう短く告げてから、颯爽と交番を飛び出して行った。

 暫くして、署への応援要請を終えた真中が理沙に尋ねた。

「教えてくれるかな? どうして、犯人が被害者宅にいると分かったんだい?」

 だが、彼女は、

「事件が解決したら全部話すけん、今はちょっと待って」

 と答えるだけで、あとはその口を閉ざしてしまうのだった。

 ご訪問いただき、ありがとうございました。

 次回更新は、8月21日(火)を予定しています。

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