第二章 『優冴VS転校生 推理勝負!』④
「こんにちはー、おじゃましまーす」
愛嬌たっぷりの挨拶とともに美奈が引き戸を開けた。
五人の子供たちの中で、颯太、朱音、優冴の三人にとっては、『“ウンテンドー3DS”盗難事件』以来の訪問となる交番だが、そこには、相も変わらず権田巡査部長がいた。
「おや、美奈先生か。これは嬉しいお客さんだ。さぁ、入ってくれ」
いつもは厳しいはずの“鬼の権蔵”が、目尻を下げて彼女を迎え入れる。
しかし、その後ろに立つ五人の姿を目にしたとたん、
「お、おほん」
と、実に態とらしい咳払いをしていつもの表情に戻った。
「権田さん、久しぶりだな」
慣れた様子で颯太が交番に入ってくる。
権田巡査部長は露骨に嫌な顔をした。
「何だ、颯太か。暫く顔を見ずいられて清々していたのに、今度は何をやらかした?」
「別に何もやってないって。最近は忙しくてそれどころじゃないんだよ」
「適当なことを言うな。小学生が忙しいわけがないだろう」
「本当だって。……美奈先生、助けてよ」
颯太が芝居気たっぷりに美奈の後ろに隠れる。
すると、
「権田さん。颯太君は、たくさんお手伝いしてくれるとてもよい子なんですよ。警察のご厄介になるようなこと、するはずがありません」
美奈は、そう颯太を擁護した。
今も美奈の背から顔を覗かせ舌を出しているこのガキは、決してそんな殊勝な奴ではない。そう分かっていながらも、権田巡査部長は、何と言い返すこともできず、
「まぁ、先生がしっかりと見てくれてさえいれば、それでいいのだが……」
と頭を搔いた。
「もちろんですよ。任せてください。ねっ、颯太君」
既に舌を引っ込めている颯太に美奈が微笑みかける。
「うん!」
颯太は元気に頷いた。
これ以上この茶番を見ていても仕方がない。気を取り直して権田巡査部長は尋ねた。
「ところで、美奈先生、今日はいったいどういった要件で?」
「あ、忘れていました。実は、真中さんにクラブ活動のお手伝いをお願いしていたのですが……」
「あぁ、そのことか。それならば、報告を受けている。地域社会への貢献も我々警察官の使命だ。存分に使ってやってくれ」
「ありがとうございます! 権田さんって、優しい方なんですね」
無垢な笑顔で美奈が権田巡査部長の手を握る。
「お、おっと」
権田巡査部長は、思わず頬を緩ませた。
だが、子供たちが見ている手前もあり、名残惜しそうにその手を離すと、
「おや、綾乃瀬もきていたのか?」
とごまかした。
「ご無沙汰しています。権田さん」
優冴が会釈する。
「あぁ」
相槌を打ちながら権田巡査部長は、ふと何かに思い至ったように尋ねた。
「時に綾乃瀬、お前も、真中が手伝いをするというクラブの部員なのか?」
「はい。ミステリークラブです」
「ミステリーか、それは結構。では、お前に頼みがある」
「頼み? 何でしょうか?」
「真中を鍛えてやって欲しい」
「鍛える、ですか」
優冴が困り顔になる。
しかし、それを気にすることなく権田巡査部長は続けた。
「そうだ。真中光一巡査は、四月に卒配された新米だ。正義感に溢れた若者で、私も目をかけているのだが、いかんせん、気が弱くてな。夜勤のパトロールも怖がってしまって満足にできんありさまだ。多少の荒療治となっても構わんから、その点を集中的に鍛えてやってくれ」
「なるほど。確かに、ミステリークラブはそういったことにはうってつけかも知れませんね。分かりました。できる限り協力します」
「そうか。頼んだぞ、綾乃瀬」
そう言うと権田巡査部長は、万事解決したかのような笑顔を見せた。
その様子を眺めながら、しみじみと理沙が呟いた。
「優冴君って、警察の人からも信頼されとるとやねぇ」
「そうよ。理沙ちゃんなんか、足元にも及ばないんだから」
朱音が強気なことを言う。
だが、理沙は、それに怒るでもなく、
「優冴君との推理勝負、楽しみやねぇ」
と、小さなえくぼのできる笑みを浮かべるのだった。
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