第二章 『優冴VS転校生 推理勝負!』③
颯太以外の四人も彼の席の周辺にある適当な椅子に腰をかける。
ところが、三分待っても先生はこない。五分待ってもやっぱり現れない。
さすがに変だと感じ、誰にともなく充が言った。
「なぁ、ミスクラ担当の先生って誰なんだ? まさか、忘れているなんてことはないだろうな」
いつの間にか「ミスクラ」と呼ぶようになっている彼の問いに答えたのは、隣の席に座っている颯太だった。
「忘れてはいないと思うよ。先生は忙しいものなんだから、もう少し待ってあげようよ」
「どうしたんだ? 教師をかばうなんてお前らしくないじゃないか。さては、お前、担当の先生が誰なのか知ってるな?」
充が怪しみの眼差しを向けると、颯太はあっさりそれを認めた。
「あ、ばれた?」
「やっぱりか。で、誰が担当なんだ?」
「俺たちのクラスの担任、美奈先生だよ」
「美奈先生? それって確か、今年先生になったばかりの新任教師だよな?」
「そうだよ。五月五日生まれの二十三歳で牡牛座のA型。ラムネが大好きで、苺が嫌い。少しおっちょこちょいなんだけど、超美人で凄く優しい。そんな室瀬美奈先生だ」
颯太は、まるで自分のことのように得意がった。
「なるほど、まだ学校に慣れていない先生だから遅れているってわけか。それはそうと、颯太、お前、美奈先生のこと好きだろ?」
「な、何で分かったの?」
図星をさされ、颯太は慌てた。
「何で、って、その話ぶりで気づかないと思っているのは、お前ぐらいだよ」
充が苦笑すると、颯太は、
「充兄、分かってると思うけど、朱音姉の時と同じでこれもばらしちゃ駄目だからね」
そう言って自分の口元に人差し指を当てた。
「……お前、そのうち秘密だらけの男になってしまうぞ」
充が颯太を心配する。
直後、
「何、何? 颯太君って、そんなに秘密だらけの男の子なの?」
二人の背後からいきなり誰かが話しかけてきた。
音もなく忍び寄ってきたその人物に、慌てて五人がふり向く。
続けて、
「美奈先生!」
颯太が驚きと喜びの入り交じった大声を上げた。
「遅くなっちゃった。皆、ごめんね」
後ろでひとつに結んだ長い黒髪を揺らしながら、美奈は五人にぺこりとお辞儀した。
「もう、本当に遅いぞ」
先ほどの秘密に触れられたくない颯太が、むくれた風を装って頬を膨らませる。
すると、美奈は、
「……ごめんなさい」
と急にしゅんとし、今にも泣き出しそうな顔になった。
「これは、拙い」そう思った颯太がしどろもどろになりながらフォローする。
「い、いや、いいんだよ。ほら、先生って忙しいものなんだし、き、気にしないでよ」
「じゃあ、許してくれる?」
ちらりと颯太を見ながら美奈がそう聞くと、
「も、もちろんだよ!」
彼は何度も頷いた。
「そう。よかった!」
美奈はとたんに笑顔になった。
「いや、よくはないだろう」、「大丈夫なの? この先生」颯太を除く四人の子供たちが各々そんなことを感じて不安になる。
だが、当の本人である美奈は、何事もなかったかのように話し始めた。
「えーと、今からミステリークラブを始めるんだけど、私、ミステリーってよく分からないの。推理小説は読まないし、都市伝説にも興味がないし……。そこで、色いろと考えた結果、ある人にお手伝いをお願いすることにしました」
「ある人って?」
颯太が尋ねる。
「それは、まだ秘密。でも、もう了解はもらってるから、これから皆でご挨拶に行きましょう」
そう告げると美奈は、五人についてくるよう促した。
四年二組の教室を出て、美奈のあとに続き廊下を歩く五人の子供たち。途中告げられた彼女のヒントでは、手伝いをしてくれる人は何でも一階にいるらしい。
二階から一階へと下りる階段で、一番後ろを歩いていた朱音が隣の颯太に小声で聞いた。
「ねぇ、美奈先生って、普段もあんな調子なの?」
すると、少し伏し目がちに颯太は答えた。
「いや、普段はもっと酷いよ。今回は、手伝いを頼む人を事前に準備してくれているだけましだ」
「そうなの。大変ね」
朱音が哀れむような目を向ける。
「まぁ、ね。いつも優しいのはいいんだけど、そのせいでクラスのやつらが調子に乗っちゃってさ。給食の準備や掃除とか、時間内に終わらないことも多いんだよ。だから、俺や四郎はいつもその尻拭い。まったく、忙しすぎて悪戯する時間もなくなっちゃったよ」
「あら、それはよかった。颯太のために私が頭を下げずにすむんだから」
「同情して損した」とばかりに、朱音は嫌味を口にした。
しかし、颯太は聞いていない。
「でも、美奈先生を喜ばせたら、アレをしてくれるからなぁ。いいんだよなぁ。……アレ」
横を向き、そんなことを独りごちている。
「アレって、何?」
気づいた朱音がそう問うと、颯太は、尋常ではないほどに狼狽しながら大きく首を横にふった。
「い、いや、な、な、何でもないよ!」
「何でもないわけがないでしょう。アレって何よ、アレって。答えなさい!」
姉の強みか朱音が厳しく追及する。
颯太は、完全に窮地に追いこまれた。
だが、ちょうどそこに、救いの女神である美奈先生の声が聞こえてきた。
「皆、着いたよ」
それに釣られて朱音が辺りを見回す。
そこは、新校舎一階の角部屋。西桜小学校内交番だった。
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