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読んでくださってありがとうございます!



どれだけ移動したのだろう。ずっと袋の中で揺さぶられたのでちょっと気持ち悪い。袋の中で吐いたら大惨事なんですけど。それは避けたいので袋の中から私を運ぶ誘拐犯に声をかけてみることにした。


「あのー!誘拐犯さん!気持ち悪い!吐きそう!私が吐いたら運ぶあなたもひどい事になりますよーそろそろ出してくださーい」


すると誘拐犯が足を止めた。そしてよく聞こえないが誰かと話しているらしい。仲間がいるのかー単独犯ならなんとか隙を作れたかもしれないが、複数犯ならまず無理だ。死にたくないからしばらくおとなしくしていよう。


吐かれたら困ると思ったのか、誘拐犯は私を下におろし袋を開け外に出してくれた。そこにいたのは犯罪者には程遠い雰囲気のきちんとした身なりの若者が二人私の前にしゃがんでいた。育ちの良さそうな若者なのにこんな犯罪に手を染めるなんて世も末だ。ぜひ説教してやりたい。


「あなた達人買い?こんな非道なことして親が泣くわよ・・孝行したいときに親は無しって言うでしょう?可愛い息子が人身売買なんてしてるって知ったら・・」


「ちょ、違います、我々はクロード様の指示であなたを見張るよう指示されていた者で・・」


お前らあの遊び人辺境伯の手先かー!なんだよもうホントろくでもないなあのお貴族様。


「はあ?!見張る?辺境伯様が?!その見張りがなんで私を袋詰めにして攫うのよ?!」



「それは・・クロード様がお戻りになるまでに、逃亡しそうになったら捕まえるように言われていたので・・その際かなり抵抗されるはずだから、傷をつけないよう捕獲せよとの指示でしたのであのような形になりました。暴れないと誓ってくだされば袋から出て構いません」


それを聞いて私は、はああぁ~と脱力してしまった。袋に詰め込む前にまず一言いってくれ!ああそれよりもマークはどうなったのだろうか?絶対誘拐だと思って大騒ぎになっていないだろうか?


「マークはどうしたんですか?怪我なんてさせてないでしょうね?」


「ああ・・あの男ですか。他の者がちゃんと事情を説明したでしょう。しかし随分と親しそうでしたが恋人ですか?結婚とか聞き捨てならない言葉も聞こえてきましたが」


「聞き捨てならないって・・・あなた方に関係ないでしょう。それに何故私が捕まらなきゃいけないんですか?

確かに昨日私は辺境伯様にお怪我をさせてしまいましたが、その処罰として屋敷から追い出されアルトワ家からは縁をきられました。それでもまだ罰が足りませんか?自分の手で罰しないと気が済まないのでしょうか?だとしたら、あなた方の主人は随分と狭量なのですね」


わざと挑発的に言ってみる。すると自分たちの主人をバカにされたと思ったのか、男達の顔つきが厳しくなる。おうおうかかってこいや。


「・・・誤解です。クロード様は男爵にもあなたにも何か罰を与えるつもりなどありません。ただあなたがお気に召したのでしょう。あなたには我々の領地まで来ていただきます」


男達は私の安い挑発に乗らなかった。さすが育ちが良さそうなだけあるね、色々わきまえている。


「・・・はあ、お気に召した・・?なにが・・どうしてお気に召したんですかね?頭突きする女がお好みでしたか?」


全く理解が出来ないので純粋に疑問に思った事を言ってみる。すると男達はそれぞれ明後日の方向を向いてう~んと唸っている。あ、やっぱそうでしょ?おかしいでしょ?やっぱみんな何かオカシイなーと思ってたんだね。


「どうせ、自分に恥をかかせた女を同じだけ辱めてやりたいとかそーゆーアレでしょう?そんな男の領地に絶対行きたくないですけど、お断りすることは出来ますか?」


「とんでもなく不敬な発言は今聞き流すとして、我々はあなたを捕まえる事が仕事なので解放して差し上げることは出来ません」


そうだろうね、知ってた。でも言ってみた。心底嫌だけど、私に抗う術はない。仕方がない今はおとなしく従って、どこかで逃げ出す機会を窺おう。


「男爵の屋敷でクロード様のお戻りを待って頂くはずでしたが、もう無理ですね、あの屋敷の人間はあなたをまた逃がそうとするでしょう。なのでこれから我々の領地に向かいます」


逃がそうとした?あれ追い出されたんじゃなく逃がしてくれたのか?ああーあの叔母様ならやりかねないなあーあの人ほんとツンデレだから。色々ひどいことも言われたけれど、本心では少しは大切に思ってもらえていたんだろう。

あ、やばいちょっと泣けてきた。ぐすん。



グスグスと泣き出した私を見て男達がおろおろしだした。女を麻袋で拉致するような人でなしのくせして涙には弱いとかどうかしているけど、どうも辺境伯が嫌で泣いていると思っているらしい。


「あの・・そんなに嫌なんですか?クロード様に声をかけられてこんな反応する女性初めてなので、正直驚いています」


「ぐすっ・・じゃああなたはクロード様がいきなり夜中に寝室に忍び込んできて有無を言わさず押し倒してきたら嬉しいですか?」


「えっ・・ええーそんな事言われても・・それは嫌ですけど、命令とあらば耐えるのみですが・・イヤ何言ってんだろう俺。すみません余計な事を言いました」


「ううぇぇん!そうでしょ?!私だって嫌だよー行きたくないよー」


これ見よがしに泣きわめいてみせると、男達はほとほと困ってしまった様子でどうするか決めかねているようだった。すると余計な事を言わなかったほうの男が私に話しかけてきた。


「とりあえず今日は近くの町の宿に泊まりましょう。領地へ向かう前にクロード様と合流して、直接お話ししてみてはどうですか?あの方は部下からの信頼も厚い素晴らしい名君です。きちんとお話すれば・・あの方の良さがきっと分かるとおもうのですが。もしどうしてもイヤだというならちゃんと伝えてみてください。クロード様も考え直してくださるでしょう」


ふむ、悪くない提案だ。辺境の領地は要塞のような門と城壁で閉ざされていると聞く。一度そこに行ってしまえば脱出は難しくなるだろう。ここにとどまり逃亡の機会を窺うほうがよっぽどいい。

昨日のクロード様の一連の行動をみるととても部下に慕われる名君とは思えないのだが、女子にだけ鬼畜なのだろうか。まあ一度話をしてみてからでもいいかもしれない。ホント――――は話の分かる男かもしれないし。できれば追われる身にはなりたくないので、無罪放免の言質をとりたい。


「・・・わかりました。そのようにお願いいたします」



私がそういうと男二人はあからさまにホッと息を吐いた。




***



二人に連れられ私は知らない町の宿屋に泊ることとなった。だが男二人が私と同じ部屋にずっと居る。あれ?これ寝るときも同じ部屋にいるつもりなのか。


「あの、あなた方私と同室なんですか?一応私も女なんで、見知らぬ男と一緒に寝るとか嫌なんですけど」


「いっ・・一緒に寝るわけじゃないです。本当は一人部屋にして差し上げたいですけど、あなたの場合油断すると逃亡しそうなので止むを得ずここにいるのです」


「はあ・・しかたないですね、じゃあ気にしないようにします。ところでそろそろあなた達の名前くらい教えてくださいよ。なんて呼んだらいいですか」


男の一人が口を開きかけると、もう一人が耳打ちして何かを言った。耳打ちをしたほうの男が私に向かってこう言い放った。


「我々はあなたとなれ合うつもりはありません。最低限の用事以外、口をきくつもりもないので名前を知る必要もありません。あなたをクロード様の指示通り無傷であの方の元へお連れするのが我々の仕事ですので」


「えー?名前を聞いただけでそんな反応するの自意識過剰の女の子みたいー。じゃあいいですよ、クロード様の忠実なる下僕AとBさん。私朝からなにも食べていないのでお腹が空きました。捕虜は食事をご所望です」


むっと怒った顔をしたが、二人とももう何も言わなかった。そして下僕Bがドアを開けて出て行った。下僕Aはどうするのかと思ったら、私に背を向けて椅子に座った。ああ、お話しませんアッピールですね、もういいです。



することもないので勝手に部屋をうろつく。洗面所に行くとバスタブがあるので驚いた。ここかなりお高い部屋だ。でも私捕虜だし、きっと下僕ABが払ってくれるんだろう。

昨日も湯あみをしていないし、袋に詰め込まれたりしたのでかなり汚い。よしせっかくだし風呂に入ろう。タライじゃない風呂久しぶり!やったね!






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