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読んでくださってありがとうございます!

今日は夜の大運動会です。





この異常な状況に私は必死で考えを巡らせた。


夜中に、女の寝所に、男が侵入してくる。

十中八九これ夜這いだよねぇ?眠れないからまくら投げしようとか絶対ないよね?

なんでよりによって私なんだ。アデリーヌのとこ行けばいいのに。超ウェルカムだろうに。


不信感満載で男の顔を見上げると、美しい顔に涼しい笑みを浮かべている。無駄と思いつつすっとぼけて話しかけてみる。


「クロード様、えーっと。お部屋をお間違えですよ。ここは屋根裏部屋ですよ」


「間違えてなどいないよ。ニーナの元へ来たのだから」


「クロード様、申し訳ありませんがわたくし夜伽お相手は出来かねます。どうか別の・・従妹のアデリーヌはきっとあなた様をお待ちしていると思います・・きゃっ」


クロード様は私の手を掴むと、そのままベッドに押し倒してきた。わあすごい、なんの相談も提案も交渉もないんですね!


恐る恐る見上げると、クロード様は不敵に笑って私を見下ろしてる。その目をみて、ああダメだこの人本気だ、ごまかし効かないとさすがにわかった。


でもさあ!随分と自信満々で押し倒してくれてるけど、全然私が嫌がるとか拒否するとかの可能性を考えないのかね?まあこの容姿だし、女なんか向こうから抱いてくれと言ってくるだろうしなあ。自分の誘いを断る女がいるとは全く思ってないんだろうね。


・・・なんか腹立つな。よしここは一発拒否の姿勢を示してみよう。



「やめて!大声出すわよ!」


「構わないよ。ここへ案内してくれたのはアルトワ男爵だからね。むしろ今、下で人払いをしてくれているんじゃないかな。だから恥ずかしがらずに声を出していいんだよ」


なんだとー?!叔父様、私を売りやがったなー?!娘の想い人がこんな女たらしだと知って、慌てて私をあてがったな?!だめだ退路を断たれた!


クロード様はそう言って優しげにほほ笑んでみせ、私をベッドに押し付けたままその上に挟み込むように膝立ちで乗った。


力では絶対に敵わない。素早く理解した私はあきらめて抵抗を止めた。それを感じ取ったクロード様は私を拘束する手を放して、シャツのボタンを外しはじめた。



そうして私は、一夜の相手として純潔を奪われ――――・・・





・・・るのは嫌だったので、全力で頭突きした。




「ぐあっ!」


油断していたのか、まさかそんな行動に出ると思わなかったのか、頭突きはクロード様の顔にクリーンヒットした。

割とこちらもダメージが大きかったが、反撃してこないうちに足を彼の首にすばやく絡める。そのまま上半身をひねり反動をつけ、足で挟んだまま放り投げた。


「どりゃあ!」


「うわっ!」


下着丸出しで足をからませたからか、クロード様はほぼ無抵抗で私に投げ飛ばされた。ベッドの下に叩きつけ、その隙に逃げようとドアへと走る。


だがさすがは砦を守る国の英雄。私のしょぼい作戦など物ともせず、すぐに身を起こし逃げる私の足をがっしりとつかんだ。足をぐいっとひかれて私はノーガードで床に倒れた。


「ぎゃん!」


痛ったあ!顔面打った!


クロード様は捕食者の顔で私の足を掴んで引き寄せる。ずるずるずる。あーアリジゴクに捕まった蟻ってこんな気分ですかね・・。


「はは・・まさかこんな手に出るとは・・やられたよ」


口元を押さえているクロード様の手が真っ赤だ。あっ鼻血ですね、割とすごい出てる。イケメンの鼻血っていろんな意味で破壊力がすごいね。かくいう私もおでこをぶつけて切ったらしく額から血がだらだら流れてきてますけど。


お互い血だらけで暫し向かい合う。ええと、このあとどうすればいいのかな?絶対もうピンクな空気にはならないから不敬罪で手打ちにとかされちゃう流れ?

それにしてもコレ傍から見たらすごい光景だよなと思うとなんだか可笑しくなってきた。


「ふっ・・ふふふ」


つい笑いがこぼれると、鼻血のクロード様もつられて笑い出す。


「ふっ・・ははは」



そこへ、ドアから叔父とクロード様の護衛の人達が飛び込んできた。あれだけ屋根裏でどったんばったんすればそりゃ響き渡るよね。入ってきた人々は血まみれで向かい合う私たちを見て固まってしまった。


「えっ・・クロード様・・?何事・・ですか?」


護衛の方の一人が勇気をもって話しかけてきた。


「大事ない。ちょっとした事故だ、さがっていろ」


「いやいやいや、大事あるから。無理がありますクロード様」


思わず突っ込んでしまうと、クロード様がこちらを向いた。あっやばい怒ってらっしゃる?よね・・?


「そうだな、ニーナの手当てが必要か。仕方がない一旦お預けだ」


そういうとクロード様は自分の上着を怯える私に着せ、さっと抱き上げた。ん?怒ってない?そしてなぜ姫抱っこ?

唖然とする皆様を無視して私を抱いたまま、梯子も使わずひらりと階下へ降りてしまった。あのー私の事よりまずご自身の鼻血を拭いたほうがいいのでは・・・?


慌てて護衛の方と叔父様が追いかけてきた。叔父様は階下で控えていた執事に手当の用意を指示すると、私を抱いたままのクロード様を一番近い客間に案内した。超特急で執事が救急箱やらお湯やらタオルやらを持って現れ、ようやく私はクロード様の姫抱っこから解放された。


濡らしたタオルで血を拭いていると、顔を洗ったクロード様が何故だか私のすぐそばにぴったりと座ってくる。嫌なのですすっと距離を空けた。


叔父様を見やるともう渋いなんてもんじゃない、苦酸っぱいもの食べたみたいな顔をして私を見ている。そりゃ大事なお客様を怪我させたのはホスト役の叔父様としてはまずいだろうけどさあ!なんの相談もなく私を夜伽係に差し出した叔父様の責任だからね?!


「あの・・このたびは姪のニーナがあなた様に狼藉を働きましたようで、まことに申し訳なく・・どのようにお詫びすればよいものか・・」


歯切れ悪く叔父様がクロード様に謝罪した。


「侘びか・・・ならば二週間後の領地へ戻る際に再びこちらへ寄る。その時ニーナを貰い受けよう」


「はっ?」


「えっ?」


それだけ言うとクロード様は護衛を引き連れ部屋を出て行ってしまった。




「・・・・?」


「あれ?今許されたのかな?・・・辺境伯様、鼻血出てたけれどあれニーナがやったのかい?」


「・・・クロード様が部屋に侵入してきて、いきなり押し倒してきたので、庭師のジローに教わった護身術を駆使して死ぬ気で対抗しました」


庭師のジローは若いころ傭兵をしていたので武術に長けている。

私がいずれこの家を出てどこかで働くというと『世の中には不届き者が多いんだ。ニーナはわりと可愛いから護身術を身につけた方がいい』といって、体術に始まりさまざまな傭兵の知識を私に教えてくれた。さっきの技は、男に襲われた時の対処法のひとつ。正攻法で戦っても勝てないから、油断したところを狙えと教わった。


「で、その結果がアレかあーまいったなあー。すごい物音するから、護衛の人達なんて『すわ、暗殺か?!』ってみんな得物を取り出すんで、おじさん生きた心地しなかったよ・・」


「だったらせめて前もって連絡してくださいよ!まあ断るけど!いきなり辺境伯様が部屋に乗り込んできたら私だってパニックにもなりますよ!第一あの方はアデリーヌの想い人ではないですか。私のところへ夜這いに来たなんてアデリーヌが知ったら卒倒しちゃいますよ・・」


「ところでさっき、辺境伯様変な事言ってなかった?」


「言ってましたね、『ニーナを貰い受ける』とかなんとか・・」



「「・・・!!!!!」」


言ってた!色々びっくりしすぎて大事なとこ聞き流すところだった!貰い受けるってなに?!


「どどどどういうことでしょうかね叔父様」


「・・・おそらく辺境伯様に気に入られたんだろうねえ。妾にでもしてもらえるのかな?」


「いや、どう考えてもあんな目に遭わされた仕返しのためだとしか・・もしくはドMか・・」


「あんな美丈夫に見初められたのだからよかったじゃないか。アデリーヌが聞いたらハンカチ咥えて悔しがるだろうなあ。困ったなあ」


叔父様が冗談めかして言うが、私は本気でこりゃまずいと思っていた。叔母様とアデリーヌの本気度をぼんやり気味の叔父様は知らないのだ。たとえ辺境伯が意趣返しのために私を連れて行くだけだとしても、二人はきっと怒り狂うだろう。


どうしたものか、と頭を抱えていたら、ギギギィ・・とドアが不吉な音を立てて開いた。ま、まさか・・・。



ドアの向こうにはハンカチを咥えてじっとり恨みがましい目で私を見るアデリーヌが立っていた。


わーお、わりとホラーな光景!





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