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いつも読んでくださってありがとうございます!



クロード様の独白は少なからず私に衝撃を与えた。





「ニーナに会って、俺は変わったんだ・・ニーナに会わなかったらきっと父の跡を継ぐことも辺境伯になることも無かった。

病弱で誰にも期待されてなかった俺が今の地位を得るようになるまで、文字通り血を吐くような努力をしてきたんだ。

どんなにつらくても、いつかニーナに会った時誇れるような自分でいたいって、そう思って自分を奮い立たせてきた。

なのに・・ニーナは俺の事なんか少しも覚えてなくて・・・ううっ・・」


「あわわわわ・・お、覚えてないっていうか、あの子がクロード様だとは気付かなかったんですよう。ごめんなさい・・」


だって薄汚れたし顔は腫れてたし(あ、私が蹴ったせいか)わかるわけないじゃん・・。



「ニーナはさ、俺の気持ちは愛なんかじゃないって言ったけど、じゃあ長い間ずっと想い続けてきた俺のこの気持ちはなんなの?俺が狂っているっていうなら、狂わせたのはニーナだよ?今の俺はニーナが作ったんだから・・・責任取ってよ」


せ、責任ときたか。私うっかり乙女の純潔を奪って結婚をせまられる男みたいになっちゃってるけどおかしくない?私何も奪ってませんけど?

でも忘れていた負い目も多少あり、返す言葉が見つからず黙っているとクロード様はぼんやりした瞳のまま片手で私を抱きよせた。


「辺境伯の地位を得てようやく会えて、こうやって手の届く距離にニーナが来たのに、君は再会してからずっと俺を拒み続ける・・。

今の俺がダメなら、これまで君を想って努力してきたことは全て無駄だってことだろ?だったらもう俺には何も残らないじゃないか・・・。

空っぽだ。君に否定されたら俺なんて存在価値はもうなにもない・・」



「空っぽ、だなんて・・クロード様の下僕・・じゃなくて部下は皆あなたを名君だと言って尊敬していましたよ・・。あなたは皆に必要とされている立派な領主です。部下の人や領民にとって最も大切な存在のはずですよ」


私がそういうと、クロード様は自嘲気味に笑ってそれを否定した。


「彼らが私を必要としているのは、私が辺境伯として手柄を立てたからだ。彼らが求めるのは強い領主だ。私自身ではない」


クロード様、いつの間にか正気に戻ってる。


初めてクロード様の本音を聞いたけど・・なんてさみしい人なんだろう。心を許せる人がいないでずっと一人で戦ってきたのだろうか。たった一度会っただけの私を心の拠り所にしてしまうくらいに、孤独だったに違いない。


バカだなあ・・傍から見れば、誰もが羨むものを何もかもを持っているのに、こじらせ男子になっちゃって、残念な人だなあ・・。でもこれ本当に私のせいなのか?きっかけになっただけで私別に何もしていないと思うんだよね。


そう思ったけど、今それ言ったらまた泣いちゃいそうなのでとりあえず黙っとこう。


「今この話は止めましょう?ホラ、少し寝たほうがいいですよ。よしよし、クロちゃんねんねよー」


俺様クロード様は可愛くないので、クロちゃんに戻って欲しい。

クロード様改めクロちゃんは『うぐっ・・』と屈辱のうめき声をあげていたが、頭をよしよしして寝かしつけるとおとなしくなった。




寝かしつけていたら私もいつのまにか寝てしまっていたらしい。


扉をノックする音で目が覚めた。ハッとして起きあがろうとすると、クロード様がぐっと私を抱き込んで『入れ』と勝手に入室許可をだした。


ベッドで、クロード様の腕の中にいる状態なんて誤解を受けるから放して欲しいのだが、頭を胸に押し付けられているので『ムガムガ・・』としか声が出せない。


「おいおい、怪我人が何やってんだ。嫌がってんだろ放してやれよ」


入ってきたのはザジ様だ。ご飯の時間かな?


「夫婦が同衾して何が悪い。何の用だ?」


今さらっと嘘つきましたよ!それに同衾て言うの止めてください!なんかいやらしい!


「捕虜のくせに偉そうな態度だな。味方に刺されたお前を治療してやったのは誰だとおもってんだ?感謝が足りねえな。お前に用じゃねえよ。おいニーナ、飯食いに行くか?」


「あっ行きます!今日のご飯はなんですか?・・ぐえっ」


顔を上げて振り向こうとしたら再びクロード様に抱きこまれた。


「何故ニーナを連れて行く必要があるのだ。食事ならここで摂ればいい。私から引き離して何をたくらんでいる」


「便所も一人で行けないようなヤツがいきがるんじゃねえよ。ホラ行くぞニーナ」


ザジ様は簡単にクロード様の腕から私を引っ張り出すとさっさと扉を閉めてしまった。忘れてたけど敵同士なんだよね。そりゃ仲も悪いわ。


昨日と同じ広間に行くと兵士達はもうそれぞれ食事を始めていて、私が来ると『こっちで一緒に食おうぜ』とか『今日は俺が食わせてやろうかー』と気さくに声をかけてくれた。またザジ様の隣に座ると給仕係が皿を渡してくれた。

今日のご飯は米に肉の煮込みのようなものを添えた一皿。うーんやっぱりこれも手で食べるんですね。うん、無理です。パラパラの米をどうして手で食べられようか。


「いや、これは無理です。スプーンくださいお願いします」


「お前ホント不器用なのな・・こうやんだよ、ホレ」


「・・・こぼしました」


「・・・しゃあない、口開けろ」


結局また食べさせてもらう事になってしまった。これも辛いけど美味しい。この国は基本辛い料理が多いのかな。口にご飯を放り込まれて食べる私をまた兵士達が面白そうに見ていた。時々ザジ様の指をかじってしまうので、ザジ様が『いてえっ!』と叫び声をあげる。それを聞くたび兵士達が『どんだけ食い意地張ってんだ』とげらげら笑っていた。




「お前さ、もうあの男の牢に戻らなくていいぞ。お前が妻でもなけりゃ領民ですらないってわかったから投獄しておく理由がない。どこか部屋を用意するからそこで過ごすといい。

今、辺境伯の身柄と引き換えに鉱山の採掘権を譲渡するよう宰相が交渉している。本当は領地の全てを取り戻したかったがな、そこまでの要求は宰相につっぱねられた。

この条件ならほどなく締結するだろう。再び平和条約が結ばれたらニーナも国に帰れるだろうからもう少し辛抱してくれ」


「人質を取ったうえでの交渉では中立国が口をだしてきませんか?私の国がそれらを味方につけたら不利になると思いますが」


「ドーベルヌの領地に関しては元々俺の民族が暮らしていた土地だ。かつての戦争で鉱山を手に入れたいが為に非人道的なやり方であの地を奪ったのが先々代のドーベルヌだ。俺の民族は住み慣れた地を追われ北に追いやられたんだ。中立国もその経緯を知っているからこの領地に関しては口をださない」



私の国では、クロード様の祖父にあたる人物が蛮族からの侵略を退け国を守ったとされている。その功績を認められ、クロード様の祖父は辺境伯という爵位とあの地を賜ったと聞いた。


「・・・そうだったんですね。知らずにいてごめんなさい」


戦争とは、立場が入れ替われば見え方も違ってくる。どちらが正義で悪かなんて線引きができないのが戦争だ。私の住んでいたところでは長く平和だったが、それは誰かの犠牲の上になりたっていたことなのだ。知らなかったからと言って許されることではない。知ろうともしなかった事が恥ずかしかった。


私が謝るとザジ様は明るく笑って頭を撫でてきた。


「お前が謝ることじゃない。

・・・いやもし悪いと思うなら、我らの国に来て火の国がどんな国でどんな風に暮らしているのか知ってもらいたい。お前の国の貴族らなどは我らを蛮族などと毛嫌いしているが、身分の差などなくいい国だ。それをお前の目で見て欲しい」


本当に、冷戦が終わって国交が正常化するのであれば・・・。そう思ったが、クロード様の顔が頭をよぎる。今まで知らなかったクロード様の事情を知ってしまうと、あっさり見捨ててはいけない気がしてくる。


「行ってみたい・・ですけど・・クロード様がなあ・・」


言葉を濁すとザジ様が眉をしかめて私の肩をつかんで引き寄せた。


「ドーベルヌのヤツがまたお前を拘束しようとするなら、俺が守ってやるから大丈夫だ。同意なく付けた血の婚姻なんて無効だから安心しろ」


間違って誘拐した負い目があるからかもしれないが、ほぼ他人の私の身の振り方を真剣に考えてくれている。責任感の強い良い人だ・・。

そこまでしてもらうのは悪いから・・と言おうとしたら周りの兵士からヤジが飛び交いだした。


「ザジ様~口説くのは場所を選んでくださいよー」


「昨日の今日でそれっすかー早くないすかー」


「うるせえそんなんじゃねえ。聞き耳立ててないで飯食っちまえよ」


ザジ様と兵士達は、こんな風に軽口をたたける関係なんだな。部下と上司というよりもっと信頼し合う仲間という雰囲気でうらやましくなる。


「ザジ様は良いリーダーなんでしょうね。私に傭兵は無理ですけど、いつかこの国に来たら、じゃあザジ様の下で雇ってほしいです。」


私がそういうと周りから『振られた?』とか『いや分かってねえんだろ』とかひそひそ聞こえるので何か間違えたかと思っていたら、ザジ様も微妙な顔をしている。


「・・まあいい。そうだな、お前なら傭兵でもやれそうだけどな。食べ終わったなら部屋へ案内する。牢屋と変わらねえくらい簡素な部屋しかないが・・」


「いえ、停戦宣言がされるまでは私も敵国の人間です。立場は不本意ながらクロード様の味方ということになります。手当する人も必要でしょうしクロード様と牢屋でいいですよ。なんかクロード様も苛めすぎたら大人しい良い子になっちゃったですし」


こうして過ごしていると彼らを敵と思うことは出来ない。だが戦闘でお互い血が流れている以上、私は自分の立場を忘れることはできない。



「・・・敵国の人間、か。そうだな・・戦争が続く限り、お前はその姿勢を崩さないんだろうな。此度の事は俺が仕掛けた戦争だ、必ず終わらせると約束する・・。

戦いが終わり国交が回復したらもう敵ではないだろう?その時がくれば、お前を迎えに行っていいんだよな?」


「あ、ハイありがとうございます。でもザジ様ウチの国ではものすごく目立つだろうからいいですよ。馬で行くんで大丈夫です。あ、就職先やっぱ傭兵は嫌です。メイドかコックで紹介してください。割と仕事出来るほうですよ私」




あれ?みんなが残念な人を見るような顔をしているんだけど、売り込み方間違えたかな?








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