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牢の中で話をするのかと思ったら、外へといざなわれ兵士達が大勢で食事をしているところへ連れて行かれた。この国の人はテーブルではなく座して食事をするらしい。円座を組んでそれぞれで楽しそうに食事をしている。戦場の緊迫感や悲壮感が感じられない明るい雰囲気で、なんだか拍子抜けしてしまった。
男は私を自分の隣の席に座らせると、おもむろに頭を下げてきた。
「すまん、お前に関する情報が誤っていたようだ。新たに上がってきた報告でお前が本当の事を言っているようだとわかった。話を聞かず一方的に罵るような真似をして悪かった」
敵の大将に謝られて正直驚いた。今私は捕虜なわけだし、そんなことをする必要はないはすだ。びっくりしたが捕虜に対しても公平であろうとする大将の姿勢に好感が持てた。
「それはどういう情報ですか?
私がクロード様に夜這いをかけられて頭突きでそれを拒んだら、家から追い出されて旅に出たところ麻袋に入れられ拉致されて力ずくで領地に連れてこられたっていうのに、嫉妬に狂ったクロード様のカノジョに毒殺されそうになるし、なぜかクロード様には指を食いちぎられそうになるから、身の危険を感じて領地から逃げ出そうとしたら牢屋に監禁されて一時期洗脳されるし、ようやく逃げ出したらクロード様の妻に勘違いされて敵国まで拉致られてきたっていう本当の正しい情報ですか?」
ここぞとばかりに愚痴も含めて私の置かれている状況を一気に喋ったら、騒がしかった人々がシーンと静まり返った。
アレっ?!ちょっと調子に乗って大きい声で喋りすぎたか?
恐る恐る周りを見渡すと一呼吸おいてどっとみんなが爆笑しだした。
「はっ?!ええ?なんで笑うんですか?」
隣の大将を見ると彼もひっくり返って笑っている。イヤここは同情するところであって、笑うとこじゃないですよ!笑いものにされて私はむくれた。酷い、人の苦労話で笑うなんて酷すぎる。
すると大将が私の頭をゲラゲラ笑いながら撫でてきた。
「お前、なんちゅう目に遭ってるんだよ!あの男、すました顔してやる事ねちっこいなあ!いやー可哀想に」
笑いながら言われても嬉しくありません・・・微妙な気分で憮然としていると、大将が兵士の名前を呼び数名私たちの周りに集めた。
「屋敷でお前を取り逃がした奴らだよ。
こいつらがお前の事を屋敷の使用人らに確認したところ、どうも間諜から上がってきた報告と違うことがわかったんだ。
妻にするという女を領主が連れてきたが、女は嫌がっているようで逃げ出そうとして、それを領主がとっつかまえて監禁しているって言うじゃないか。
実際お前が居た部屋は座敷牢だったし、昨日お前の話をきかず決めつけてしまったが早計だったな、悪かった」
そういうと大将は手を叩いて使用人に食事を運ばせた。
「まずは食事にしよう。くわしい話は食べながら聞こうか」
床にお皿を置いて手で食べる形式らしい。野菜と肉を煮込んだものと薄いパンのようなものがのった皿を受け取ったがどうやって食べたらいいかわからない。周りをみて見よう見まねで食べてみる。・・・ダメだぼろぼろこぼれてめっちゃ床汚した。話をするどころではない、まず食べられないんですがスプーンもらえないすかね?
こぼしてべちょべちょの私を見かねたのか、隣の大将がパンを一口大に切って野菜を乗せたものを差し出してくれた。
「ホレ、食え」
「あ、ありがとうゴザイマス」
差し出された手からパンをパクリと食べる。おお、美味い。ちょっと辛いけどメッチャ美味い。ためらいなく食べた私に驚いたのか、大将はビックリした顔をしたが笑って次々口に運んでくれた。
「お前の住む国では我々の事を、床に座り手で物を食べる野蛮で汚らしい民族だと言われているのだろう?お前は抵抗ないのか?」
「ムグムグ・・はあ、そうなんですか。慣れてないのでムグムグうまく食べられないですけどコレ美味しいですね。初めて食べる味です・・ムグムグ・・もっとください」
パクパク食べる私を、気づけば周りの人たちが面白そうに見ていた。そのうちの一人が私に話しかけてきた。
「アンタ貴族じゃないのかい?見た目はどこかのお嬢様のようだが、貴族の娘が回し蹴りなんてしないもんなあ・・どういう育ち方をしたんだ?」
ん?回し蹴り出来ることを何で知ってるのかな?んん?この人・・。
「あっ・・屋敷で回し蹴りした人・・?うわ、その節はごめんなさいすいませんでした」
「回し蹴り?お前を取り逃がしたときの事か?」
「このお嬢さん、座敷牢の窓から逃げ出して、下の階にガラスを蹴破って飛び込んできたんですよ。そこで俺と鉢合わせしたんですが、驚いている隙に回し蹴りをくらいオチました。面目ない」
回し蹴りでオトされた兵士の人がすまなそうに言うと再び部屋が笑いの渦にのまれた。なんだろうなーこの国の人明るいなー笑い上戸なのかなー。
「ぶはっ・・お前強いな!窓を蹴破って飛び込むとかもうやる事めちゃくちゃじゃねーか、面白いなー。よし、食い終わったことだし手合せしよう。どれくらいヤレるのか見てみたい」
大将がとんでもない事を言いだしたぞ。なんだか変な事になったなあ・・でもこんな風に気さくに話しかけてもらうのなんて久しぶりだ。あの領地に居た時は皆よそよそしくて誰からも距離を置かれていた。ここは敵陣なのだと分かっているが、クロード様の屋敷に居た頃よりよっぽど居心地がいい。
「いいですけど、所詮は女ですからねー期待外れだと思いますよ?」
「なんだお前結構つまんねえこと言うんだな、そんなこと言わず俺を驚かせてみろよ」
大将はもうやる気で立ち上がっている。ヤバイな、ちょっと楽しくなってきた。
私も立ち上り、トントンとジャンプして間髪入れずに頭を狙って蹴りを繰り出す。当然軽く躱されるので、そのまま体を捻って回し蹴りを一発。
大将は『おっ?』という意外そうな顔をしたが、片手で簡単に受け流した。うーんさすがだ、全然余裕そう。
懐に飛び込んで脇腹を狙って拳を叩きこんでみる。避けられるかと思ったら何故か綺麗にはいってしまった。えっ?と思って見上げると大将は『いってえ』と軽く言って私をガシッと抱き込んだ。そのまま床にひっくり返される。
「そんな細い腕なのに割と重いパンチくれるなあ。でも一発で倒せないなら相手の懐に入っちゃダメだな。こうやって簡単に押し倒されちまうぞー」
大将は床に私を抑えつけながらニヤニヤ笑っている。そうだなあ、そういやジローも相手と距離を取れって言ってたっけ、忘れてた。
「ザジ様~目の毒なんで女を押し倒すのやめてくださいよー」
兵士達から野次が飛び始めたので大将は私を押さえる手を離してくれた。すると兵士達がわらわらと私の周りに集まってきた。
「姉ちゃんすげえなーどこで覚えたんだその蹴り」
「あとどんな技持ってるんだ?なあ、俺とも手合せしてくれよ」
ものすごく好意的に話しかけられてめちゃくちゃ戸惑う。あのー私捕虜ですけど遊んでていいんですかね?どうしたもんかと思っていると後ろからぐいっと引っ張られた。
「ダメだ、まだ話が終わってない。お前ら飯食い終わったならさっさと仕事に戻れ」
大将が私の肩を掴んで引き寄せながら兵士達を追っ払った。兵士達は『ザジ様が始めたんじゃん』とブツブツ言いながらはけていった。ザジと呼ばれた大将は改めて私に向き合うと真面目な様子で話を始めた。
「お前があの男の妻では無いことは分かったが、今国境でお前だけを解放してあの領地の者はお前を保護してくれるのか?話を聞く限りとてもそうは思えないが。
あの男から逃げ出そうとしていたんだろう?・・・ならばいっそ我らの国に来るか?」
「はっ?!ええ?私敵国の人間ですよ?
あなた達火の国とはもうずっと戦争を繰り返している相手です。私の国に対する恨みも深いんじゃないですか?とても受け入れられるとは思えません。少なくとも私の国ではそうだと思います」
「お前の国は選民意識が強くて排他的だからな。我らはもともと4つの部族からなる共和国だ。見た目も文化もバラバラの人間が暮らしている・・・敵国から来たとしてもただの娘を排除しようとするような者はいないよ」
敵国に亡命か・・。
それはすごく魅力的な提案だった。家族も無く、クロード様の領地では散々疎まれ嫌われていた私がのこのこあの領地に戻ったところで誰にも歓迎されない。それならばいっそすべてのしがらみを捨てて別の国で暮らすのも悪くない。だが・・・。
「・・・ありがとうございます。すごく心惹かれますが、あなたの国とは今戦争をしている状態です。母国には、少ないですが大切に思う仲間もいます。私は彼らの敵に回ることは出来ません」
私がそう答えると、大将は少し考え込むような顔をしていたが私の発言に対して何も言わなかった。
「・・・そういやだいぶ放っておいたがドーベルヌのヤツは死んでないかな?」
大将がいきなり話題を変えてきた!そうだ、すっかりクロード様の事忘れてた。
「ああーそうでした、起きてるかもしれないしそろそろ戻ります。食事ありがとうございました」
牢屋に戻るって自分で言うのもおかしいが、まあ今のところあそこが居場所だしな。仕方がない。大将自らまた牢屋まで私を連れて行く。入口まで来たところで大将が私を呼び止めた。
「そういや名乗っていなかったな。俺はこの砦の総司令官、ザジという」
「ザジ様、ですか。私はニーナです。アルトワ男爵の姪でしたが、絶縁されたので今は平民です」
私がそう名乗るとザジ様はふっと笑って私の頭をぐりぐりと撫でまわした。
「ニーナ、悪いがもうしばらくここに居てくれ。憎い男と同じ部屋で世話をするのはつらいだろうが・・」
「ああ全然かまわないですよ。むしろ辱めて遊んでいるので気にしなくていいです」
辱めているのか!とひとしきり爆笑して、ザジ様は扉を閉めて帰って行った。初めて見たときはなんと恐ろしい見た目の大将かと驚いたが、話してみれば気さくで優しい人だ。兵士達もみんな明るくて好意的だった。なんだか久しぶりに和んだ気持ちになって頬が緩む。
ふと見るとクロード様が目を覚ましていて、なんとも言えない微妙な顔で私をみていた。




