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いつも読んでくださってありがとうございます!




ゴリゴリに鍛えるって言ってもそういやそんなに筋トレ方法しらないや。ジローは『ここの筋肉にはこのトレーニングが効くんだ!』といってわけのわからない体勢で謎の動きをしていたけれど、ああいうのはキモいからやりたくない。


「うーん、まあとりあえずスクワットでもするか」


足が衰えると脱出したあとに行き倒れるなんて事態になり兼ねない。脚力をつけておいて損はないはずだ。他にすることもないのだしひたすらスクワットをした。

そうして体を動かしているとよけいな事を考えずにすんだ。

それにやればやるほど何だかテンションが上がってキタ!ランナーズハイならぬスクワットハイ。ジローの事を筋肉バカってからかって悪かったなー筋トレってハマるかも。腹筋バキバキになる日も遠くないかも。

よし、気分が乗ってきたから回し蹴りの練習もしよう。いつかここから出たらクロード様に強烈なヤツを一発いれてから逃げよう。一度も勝ててないけど、一回くらい食らわせないと気が済まないからな!



無心でやっていたらいつの間にか陽が傾いてきていた。そうだ・・今日もクロード様が来るかもしれない。昨日まであんな心待ちにしていたのに、今は心底来てほしくない。いや、やっぱりご飯来てくれないと困るからご飯だけ差し入れて欲しい。


でも私が正気に戻っていることを気取られたら、また兵糧攻めされるだろうなあ。あの人鬼だもんなあ。やっぱり限界まで飢えたら絶対に正気を失う自信あるよぉ・・。



よしここはひとつ、まだ洗脳サレテマスヨ~感を全面に押し出してクロード様の目を誤魔化そう。

でも、昨日の私と同じ事を素面でやれって言われてもすごくハードルが高いな。そうは言ってもやらなかったらまたクロード様の犬に調教されちゃうもんなー。



・・・いまこそアレだ!セイラ様の女子技を思い出すんだ!あのうるうるぷるぷるした演技を思い出せ!あの時あんな技いつ使うんだって思ったけど、案外早くその機会が訪れたよ!

でも出来るのかなー私にそんな演技力あるのかなーでも私結構器用なはずだからイケるんじゃないかな?よし、私はセイラ様私はセイラ様・・・・・。





『ガタン』


かんぬきが抜かれる音がぁ!ついにキタ!おおおお落ち着け、イケるイケる、私は出来る子!



「ニーナ、おまたせ。昨日はすぐ帰ってしまって済まなかったね・・」


「あっ、サミシカッタデス。クロードしゃま」



・・・・・・。





うん、噛んだ。




一発目から、噛んだ。


いや落ち着け、早口だったからクロード様は気づいてないかも!・・・・うん、横向いて笑ってるね!聞き流してくれる優しさはないのかな?!めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。なんだ『しゃま』って。そんな噛み方あるか。赤ちゃんプレイか。


「ふっ・・ふふっ・・くっくっく」


「わあああ!笑わないでくださいよォ!そこは聞き流すのが大人でしょうよォ!」


あっ・・つい普通に突っ込んじゃった。


「ははっ・・悪い、つい可愛くて笑ってしまった。ホラ、遅くなったからお腹が空いたろう?ご飯にしようか」


可愛いんかい。この人の可愛い基準も大概おかしいな。そもそも私にこだわるあたり、女性の趣味が悪いとしか言いようがない。自分で言ってて悲しいけど。


クロード様はまだちょっと笑いながらバスケットから食事を取り出す。あれ?今日は膝に乗せないの?ちょっと疑いつつもご飯のほうが気になって仕方がない。今日串焼きだ。あっうまい。この領地の料理ホントうまいな。コックの腕がいいのかな。

夢中で食べていたのでクロード様のことちょっと忘れてた。ちらっと見るとクロード様めっちゃニヤニヤしているんだけど。ニコニコじゃなくてニヤニヤ。なんで?


「クロード様・・なんか今日ご機嫌じゃないですか?」


「そうだね、ニーナが元気だから嬉しいんだよ」


はーソウデスカ。筋トレ効果ですかねえ。まあいいや、なんかうまい事自然に会話出来てるし上出来じゃない?よかったよかった。


「じゃあ私は仕事に戻るよ。ニーナ、帰る前にキスをしてくれるかい?」



はいきたー。キスかーそりゃそうだよなー昨日までちゅっちゅちゅっちゅしてたもんなーここでいきなり『あっ無理です』とか不自然だもんなー虫歯になりましてーとかじゃダメかなーだめだろうなー目を瞑ってがばっと行けば出来るかな?よし女は度胸だ。


覚悟を決めてクロード様を見ると、何だか知らんがめっちゃ笑ってた。ん?どゆこと?


「・・・なんで笑ってんですかクロード様」


「はは・・だってこの世の終わりのような顔をしているから可笑しくて。とっくに正気に戻っているのに私にキス出来るのかい?それはそれで楽しみなんだがね」


うおおおい!とっくに気づいてるー!なんだよもう早く言ってよ!性格悪いな!


「もうばれてるなら隠してもしょうがないんで言いますけどね?善良な一般人の私を投獄して飢えさせて正気を奪うなんて鬼の所業ですよ?正気じゃないのをいいことにあれやこれやしてぇ!乙女の純情なんだと思ってんですかあ!私は怒ってるんです、もうクロード様なんて大嫌いです。顔もみたくありません。あっでもご飯はください」


開き直ってクロード様を詰ってみたが、当の本人はどこ吹く風という雰囲気でクスクス笑ってるので腹が立つ。少しぐらい後ろめたいと思わないのか。それどころか言えば言うほどクロード様が爆笑してるんだけどどういうことなの?


「なんで笑ってんですかぁ!少しくらい反省してくださいよォ!!も、大っ嫌い!」


クロード様はひとしきり笑うと、私に向かって言った。


「―――反省はしないよ。そんな生半可な気持ちでやったわけじゃないからね。でもさすがニーナだな、一体どうやってあの状況で正気を取り戻したんだい?君は本当に規格外だな・・惚れ直したよ」


「なにわけの分からないこと言ってんですか。じゃあもう反省しなくていいから私をここから出してこの地から解放してください。もうそれでチャラにしてあげます」


「ニーナは戦術の知識はあるようなのに交渉は下手だな。何度も言うが、領外へ出ることは無理だ。隣国から武装した兵士が国境を越えてきているんだ。

悪いがニーナは危険だと忠告したにも関わらず、脱走しようとした前科があるからこの部屋から出してやるわけにいかない。

隣国とは戦争にならぬよう両国の宰相がようやく交渉のテーブルについたところだが、軍隊が完全に撤退するまではもう少し時間がかかる。無事に新しい協定が締結すれば領外の治安も落ち着こう・・・その時は必ずここから出すから、もう少しだけ我慢してくれ」


えー嘘っぽい。また騙されている気がする。


どう返すか迷ったが、今日のところは一旦引こう。ここで食い下がっても今の私とクロード様の力関係ではどうしようもない。

それに戦争まで一触即発の状態は事実のようなので、落ち着いたら出すという約束を今は信じるしかない。


「ヤダって言ってもどうせ聞いてくれないんでしょうしね。約束ですよ?必ず出してくださいね?それとご飯はちゃんとください、死んじゃいます」


「わかった、約束する。食事については、私が来られないときも必ず運ばせるから」


クロード様はそう言うと立ち上がって扉のほうへ向かった。ああ、もう帰るのだろう。昨日までなら『行かないで~』て涙目になるとこだが、今日はもう違うからね!ひとりぼっちでも寂しくなんかないんだからね!鬼畜クロード様なら居ない方がマシだもんね!

・・・ホントに寂しくなんかないんだからね!私筋トレしなきゃいけないしね!ううう嘘じゃないもん!


帰ろうとするクロード様をちらっと見ると目が合った。クロード様は片眉をあげてニヤッと笑うとガバッと抱きついて流れるような早業でキスをしてきた。


「んんんんんん?!?!?」


クロード様はぺろりと唇と舐め、呆然とする私に『じゃあおやすみ』と爽やかな笑顔を向けて颯爽と出て行った。



・・・イヤおやすみじゃないよ。何してくれてんだ。


言った通り、あの人何一つ反省してないんだな!!!嫌われたくないとか嫌がることしないとか言わなかったっけ?!まあそれも嘘なんだろうけど、それにしたって酷すぎない?


「まあ・・もう何度もしてるし今更か・・」


びっくりしたが、キスされてもたいしてショックを受けていない自分がいてちょっとがっかりする。私この領地にきて色々失った気がするな・・・。はあ・・嫌な気分になったから寝る前に腹筋しとこう。




***


次の日、夜中になってもクロード様は来なかった。


普段は外の音など全く聞こえないのだが、窓の外から人の怒声や慌ただしく移動する音が聞こえてきて物々しい雰囲気が伝わってくる。何か不測の事態が起きたのかもしれない。


まさか・・・隣国との交渉が上手くいかなかったのだろうか。開戦、という事になるのだろうか。生まれてからまだ私は戦争を体験したことがないので、ジローの昔話でしか聞いたことがない。でもたくさんの人が死んで、私の国は勝利した側だが失ったもののほうが多かったと聞いた。




男爵の屋敷のみんなの顔を思い出し不安に駆られていると、鐘を忙しなく鳴らす大きな音が響き渡り、その後に続く怒号が私を震え上がらせた。




「――――敵襲!!!」





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