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いつも読んでくださってありがとうございます!
結局昨日は一人が寂しくてあのままシーツを被って寝てしまった。時間が分からないけど、もうだいぶ日が高いみたいだ。寝過ぎた。
クロード様が持ってきてくれたバスケットにはまだ果物やクッキーなどが入っていて、しばらく飢えることはなさそうで少し安心する。だけど相変わらずすることがなくて暇だ。ぼんやりとベッドに寝転んでいると、昨日の事ばかり考えてしまう。
以前、押し倒されてキスをされた時はなんとも思わなかったのに、いやむしろ屈辱としか感じなかったのに、昨日は・・なんだろう?あれ?あの時私何を思っていた?
・・・だめだ頭がうまく回らない。
でもぼんやりしているといつの間にかクロード様の事を考えてしまう。今日はいつ来るのか、来てくれるのか、忙しいと言っていたから無理かもしれない、それなら今度はいつ来てくれるのかとそればかり考えてしまう。
私が何もかも受け入れればもっと長く居てくれるかもしれない。ここから解放してくれるかもしれない。下僕ABのように忠誠を誓えばいいのだろうか。もう一生ここでクロード様を待ち続けるのかと思うと気が狂いそう。だったら何もかも受け入れてしまったほうが楽だ。でもそれでいいのか?そうなったら一生服従する生活だ。いやでもここに一生居るよりマシか?
ベッドに寝転がったままクロード様の事を考えて一日を過ごした。
クロード様は約束通り今日も来てくれた。一日ひとりでぼんやりしていた私は、来てくれたことが嬉しくて思わず笑顔で駆け寄った。クロード様も嬉しそうに私を抱きしめてくれた。
「ニーナお待たせ、まずは食事にしようか」
お腹は空いていたが、昨日よりは余裕をもってご飯を食べることが出来た。今日は何か薄いもちもちしたパンのような生地に、お肉と野菜がはさんである初めて食べるサンドイッチ。手で持って食べられるのだけど、やっぱりクロード様が私の口に運んで食べさせてくれる。頬についたソースを指で拭ってくれたり水を飲ませてくれたりと甲斐甲斐しい。
食事を済ませるとポットに入ったお茶をクロード様手ずから出してくれる。温かいお茶なんてひさしぶり。クロード様は昨日と同じく私を膝に乗せ、お茶を飲む私を嬉しそうに見ている。
「ねえ、クロード様・・昼間なんにもすることないし誰も来ないし私寂しいです」
「そうか・・寂しくさせて済まない。ニーナはこんなにも寂しがり屋だったんだね、知らなかったよ。もう少しすればもっと来られるようになるから・・」
ここから出してやろうとは言ってくれないのか。いつまで私はここにいるんだろう。逃げようとなんてしなければ良かった。この屋敷には友達なんていないけれど、それでもまだ誰かと話したり自由に過ごせた。最初から言うことを聞いていればこんなひとりぼっちで寂しい思いなんてしなくてすんだのに。
そういえば私は子供の頃とても寂しがりだった。幼いころは一人で寝るのが不安で祖父母のベッドにいつも潜り込んでいた。男爵の屋敷に住むようになってからも、最初の頃はメイド頭のイダのベッドにたびたび潜り込もうとして怒られたものだ。大きくなってからはさすがにそんな恥ずかしい真似はしなくなったが、家族に愛されなかった私はその分誰かに依存する性質なのかもしれない。
「・・・ニーナ、キスをくれるかい?」
クロード様が許可を求めてきたけれど、もう私に拒む意思も理由もなかった。おずおずと顔を寄せ、唇を重ねてみる。クロード様は少し驚いたように目を見開いた。
軽く触れ、すぐ離れる。いまので良かったのかとクロード様の顔色を窺うと、ギュッと眉根を寄せ何かをこらえるような様子で私を見ていた。
「い、いまのじゃダメでしたか・・?」
クロード様は何度も頭を横に振ると、きつく私を抱きしめた。背中に手を回すとその広い背中が少し震えている。・・・泣いているのだろうか。顔が見えないから分からないけど苦しいのだろうか。どうすればいいんだろう。
「・・・クロード様?大丈夫ですか?」
何も言わないクロード様に不安になって問いかける。するとようやく顔をあげてくれた。
「なんでもない・・・なんでもないんだ・・・すまない」
寂しそうに謝るクロード様に困惑する。なにか機嫌を損ねてしまったのだろうか?また来てくれなくなるだろうか?
クロード様は首を振るばかりで何も言ってくれない。そしてそのままほとんど話さずに帰って行ってしまった。
どうしようどうしよう。明日もう来てくれなくなるかもしれない。嫌だ、どうすればいいんだろう?
クロード様が帰ってしまえばまた一人ぼっちで、ぼんやりとただ時間が過ぎるのを待つしかない。ただもうクロード様のことしか考える事がない。不安に駆られて部屋の中をうろうろと無意味に歩き回る。
その時、ぼんやりと無駄に歩き回っていたせいか、力いっぱい椅子に足の小指を『ガン!』とぶつけてしまった。
「痛っだあ!!!」
小指!足の!超絶痛い!わあああ私のアホー!痛すぎィ!もう、ぼんやりしてるからだよ!なにやってんだあー!
あまりに痛くて悶絶しながら床をごろごろ転がった。
「はあ・・はあ・・」
ひとしきり転げまわったら床の汚れを全部吸い取ってしまった・・。使用済みモップのようになってるぞ私。それにしてもよくこんな汚い床で過ごしていたな・・使用人根性が染みついているから私かなり綺麗好きなのに、こんなになるまで気づいてなかった。
「ダメだ・・ぼんやりし過ぎて頭がバカになってるんだ・・」
服を全部脱ぎ捨ててシャワーを浴びる。なんかひさびさに頭がすっきりしている気がするな。転げまわったからだろうか。ここんとこ食べて寝るだけの生活だからなーアホにもなるよね。なにやってんだろう。
ん?
私ホント最近なにやってた?
んん?なんだろ、なんかマズイ気がしてきた。
うん、まずイチから思い出してみよう!
えーっと、二日ぐらい放っとかれて極限に飢えていたから・・・。
そうそう、ようやくクロード様がご飯をもってきてくれたんだよねーそれで、ペットのように抱かれながら餌付けみたいにご飯をたべたんだよね!うん、しかもあの時私ノーパンだったぞ?なに普通の顔して膝に乗ってたの?
その後は・・クロード様がすぐ帰るとかいうから、さみしいから置いてかないで~って泣きを入れて、キスしたらもうちょっと居るよ!て言うから。キ、キスをして・・・・。えっ?
次の日なんて自分からクロード様に・・。えっ?・・・ええ?!
「うえええええええええ?!?!?!?!」
あまりの羞恥に変な叫び声出た。
私なにやってんの?!なにあれ?!私クロード様のペットなの?!犬なの?バカなの?なんであんな事しちゃったの?!いくらご飯もらえなくなると困るからって、あそこまでやる事必要なかったよね?!つーかむしろ喜んでやってたわ。なんで今までオカシイなって思わなかったんだろう?
お腹が空き過ぎて、思考力が落ちたあたりからもうおかしくなってた気がする。
・・・コレ、いつかジローが言ってた捕虜の洗脳とそっくりじゃない?
***
捕虜になっていた頃のことはジローにとって暗黒時代だったらしく、お酒が入るといつもその頃の事をぐちぐちと語っていた。
「人間なんて弱いもんでさ、捕虜になった時最初は強気の態度でいたんだが、食事も与えられず拷問されて、挙句タマをつぶすぞなんて言われたらすぐに降参しちまったなあ。一度そうなるともう囚人根性が染みついて、もう拷問されなくても看守に媚びへつらっちまうんだ」
「えーホントー?ジローが媚びるのとか想像出来ないよー」
「いやホント、生殺与奪権を握られてるとな?ケツの穴を舐めろと言われれば『喜んでェ!』て言っちまうような心境になるんだよ!特殊な訓練でも受けていない限り誰でもそうなるんだよ。
戦争の場合はそういう囚人の心理を利用して、捕虜に対してアメと鞭を巧みに使って洗脳したりすることがあるんだ。拷問されてギリギリの精神状態の時に、看守はあえて捕虜を優しく扱うと捕虜は看守に通常では考えられないくらい感謝の念を抱いて好意を抱くようになっちまうんだ。それを繰り返すと完全にそれまでの常識や正義なんて捨てて従順な奴隷になり下がってしまう。
そうやって洗脳がすんだ捕虜を、逆スパイとして敵国に送り込むんだ。俺は下っ端の単なる傭兵だったからな、そんな目に遭わなかったが、同じころ捕まっていた騎士や高官がそうなってしまったのを見たことがあるぞ」
この時は、ジローが看守のお尻の穴を舐めたのかどうかばかりが話題になって洗脳については詳しく聞かなかった!今更だがもっとよく聞いとけば良かった・・。
今の私、これと全く同じ状況じゃない?
えっ・・・ひょっとして、これ、全部クロード様の計算通りってこと?あの人有能な戦略家だって言うしその程度の知識絶対持ってるよね?『たまたまです!』とか絶対ないよね?
「・・・・」
・・・鬼かあの人は!!!
ジロー!助けてー!こういう時どうしたらいいのー?!何か、何か言ってなかったっけ?!捕虜時代のエピソード・・・・・・・・・ダメだ!もうお尻の穴を舐めたのか論争の記憶しかない!屋敷のみんなは満場一致で『ジローは舐めただろう』一択だった。いやいやそんなことはどうでもいいんだってぇ!このままじゃまたクロード様の犬に逆戻りだよ!
とりあえず今は我に返ったけど、これからも正気でいられる自信が全くない。正直今でもクロード様の犬でいいですって思っちゃう自分がいるもん!やばい、染みついた囚人根性やばい。牢屋で何もすること無いから思考力がどんどん落ちちゃうんだよ。せめて、運動でもできれば・・・ん・・・?運動・・・?
「・・・筋トレ・・・?」
おおお、ジローの金言があったよ!
『ニーナ!心が迷った時は筋肉を鍛えろ!筋肉はお前を裏切らない!健全な精神は健全な肉体に宿るんだ!!』
そーだ、筋肉バカってみんなでバカにしてたけど、確かにジローの言うとおりだよ!体が弱るから心も弱るんだ。よし、やってみよう。どうせ何もやることないんだから、ゴリゴリに鍛えてやろう。
・・・私の腹筋が六つに割れたらクロード様どんな顔するかな?ワクワク。
どうでもいいと思いますが、この後ホントにシックスパックになって拳で語らうバトル小説に路線変更したりしないのでご安心ください。




