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いつも読んでくださってありがとうございます!
「あっ・・しまった・・」
護衛の兄ちゃんが慌てて口を押えたけれど、静まり返っていた部屋では割と響くよね。クロード様もばっちり聞こえたらしく、ぐるんっとこちらを振り返った。怖い!顔色の悪さも手伝って振り返った顔が割とホラーだよ?!あっ護衛の兄ちゃん腰抜かした。漏らさないといいな。
「―――今の私の発言になにか問題があったかな?」
「ないです!なにもないです!口が滑りました!お許しを!」
「へえ?口が滑った?思ってる事が口をついて出てしまったんだね。よし、今後のためにもゆっくり話し合おう。何故私の発言に不満を持ったのか、お前の口から聞かせてほしい」
「おおおおおお許しを・・・不満など何もございません」
下僕ABの言った『部下の信頼も厚い素晴らしい上司』て情報は絶対間違ってたな。護衛の兄ちゃんの怯えっぷりが半端ないもん。それよりも、わたしこそクロード様に『お前が言うな』と言ってやりたい。
「クロード様、私もこの護衛の人と同意見です。あなたは私の意思など無視して押し倒してきた挙句、私を拉致したじゃないですか。さっきクロード様は『想っていれば何をしてもいいのか?』て仰ってましたけど、その言葉ブーメランですよ。それクロード様のことじゃないですか」
クロード様は私の言葉を聞くと、跪いて私の手を取った。
「無理やりのつもりなどなかったのだ。まさかあれほどまでに嫌われているとは夢にも思わなかった。昨日ニーナに泣かれて反省した。セイラや使用人達のしたことは私の問題だと言われたので早速片づけた。あとは何をすればいい?どうすれば私を受け入れてくれるんだ?」
「へっ?!ええ?!いやそんなこと言われても・・今のところクロード様の悪いところしかみてないのでどうしたって好きになれないですよ。セイラ様の事だって、私はもう嫌がらせされなくなるので有難いですけど、元はと言えばセイラ様とねんごろだったくせに急に別の女と結婚するって言い出したクロード様が悪いですよ。そりゃあセイラ様だって狂いますよ。
それを棚に上げて断罪して昔の女を厄介払いみたいにして・・それ男としてどうなんですか?ひどくないです?」
周りにいる護衛の兄ちゃんたちがうんうん、と頷いてるけど、それまたクロード様に見られたらやばいんじゃない?でも同意ありがとう。
「悪いところしか・・そうなのか・・じゃあこれからずっとそばで私を見てくれればいいじゃないか。これからは私もニーナしか見ない。セイラの事ははっきりさせなかった私も悪いが決してねんごろな関係などではない。だから嫌わないでくれ」
私の手に額を押し付けながら声を震わせて『嫌わないでくれ』と言うクロード様に、少しだけキュンとした。えっ?!キュン?いやいやいや待て待て待て、今のナシで。俺様な人が凹んでるのを見てつい同情しちゃっただけだよ。ないない。
まあでも色々反省してくれたみたいだからいっかあ。これなら私の意思も尊重してくれそうだし、今までみたいに突然押し倒したりしないだろう。
「うーん、ハイ。じゃあ前向きに検討します」
「・・っ本当か?!約束だぞ?!誓えるか?!」
「はい、検討するだけですけど・・・・・っ痛だあ!」
えええ?痛い!何事?!よく見るとクロード様が私の薬指にかみついてらっしゃる!えっ?なにやってんの?それソーセージと違うよ?!
引き抜こうとするが手首を押さえられて更にぎりぎりと力を入れて噛まれた。いだい!!
ようやく解放された時は私の指は歯が食い込んで血がだらだら垂れていた。
「ぎゃああ!肉見えてる?!なんなんですか!指食いちぎる気ですか?!」
クロード様は口元に垂れた私の血をぺろりと舐めて悪魔のような笑顔で言った。
「ニーナが誓うといったじゃないか。血の盟約だよ。さあほらニーナも私の指を噛んで?」
「はっ?えっ?いや、無理・・いや、いやああああああああっ、ムグッ」
クロード様が指を私の口に突っ込んできた!た、助けて!意味が分からない!護衛!護衛のにいちゃーん!・・・ダメだ!みんな腰抜かしとる!
「むむむむぅ・・やめひぇふああひ」
「舐めるんじゃなくて噛むんだよ?そんなにいやらしく指をなめてニーナは私の忍耐力をためしているのかな?」
ドロっとした瞳でねっとりじっとり見つめながらさらに指を押し込んでくる。別の方向に話が行きそうで恐ろしくなった私は慌てて指に噛みついた。
もうやけくそに力いっぱい噛んでやったら、なぜか恍惚とするクロード様。そうかそういえばどMだったっけ?もう色々ありすぎて忘れてた。護衛の兄ちゃんたちはもう抱き合って震えてる。そうだね、上司のこんな性癖受け止めきれないよね。でもね、赤の他人の私はもっと受け止めきれないのわかってくれる?
血が出るまで噛んだらようやく納得したのか指を私の口から引き抜いてくれて、血と唾液で濡れた指を舐めながらクロード様は私にこう告げた。
「盟約を結んだから誓いを守らないといけないよ?ニーナの指にある私の印がその証明だ」
印じゃなくて歯型ですけどね。つーか前向きに検討すると言っただけなのにどうしてこんな死地に赴く同志の血判みたいなのやらなきゃいけないんすかね?わけが分かりません。
「な、なんですかコレェ・・こんなゆびきりげんまん聞いたことないですよ・・」
「イヤ、これ古い婚姻の儀式じゃ・・あがっ!あああ嘘です!間違いでした!」
護衛の兄ちゃんが何か教えようとしてくれたが、言い切る前にクロード様の裏拳がスパーンと兄ちゃんの顔面にヒットした。待って、今重要なこと言った気がするよ?
「私はこれから仕事があるが、ニーナも一緒に来るかい?片時も離れずにいればお互いの事がよくわかるだろう」
「いえっ!今日は鉱山の見回りに門の外へ出ますので、ニーナ様には危険です。隣国の者が入り込んでいるかもしれません。今日のところは屋敷でお待ちいただいたほうがいいのでは?一応医師の診察も受けたほうがよろしいですし」
勇気ある護衛の兄ちゃんがクロード様を止めてくれた。そういや毒の事忘れてた。護衛グッジョブだよぉぉ!
「ああ・・少し口にしていたな。ニーナ、毒はすり替えてあったが何かあったらいけない。セイラ側にすり替えた事を疑われぬよう同じもので毒性の薄いものを使用したのだ。一口程度では問題ないが一応毒消しをもらうといい」
「はあ、じゃそうします。どうでもいいけどお腹すきました。もう誰も信用できないので自分で調理場から食材を拝借していいですか?」
「セイラを支持した使用人は、謀反の意思ありとして今頃全員勾留してある。なのでもうニーナに危害を加えようとする者はいないはずだが・・いいだろう、護衛を一人付けるので私が戻るまで好きにしていていい」
先ほど口が滑った兄ちゃんを私の護衛にしてくれるらしい。頼りない事この上ない。
クロード様は実は忙しいらしく、朝食事件のせいで遅れた時間を取り戻そうと急いで出発していった。
・・・朝からすっごい疲れた!指もずっくんずっくん痛んできたし、なんて日だ!
「じゃ、じゃあ・・医師のもとへ先にいきましょうか・・?指の治療が先ですかね・・?」
「はあ・・ハイ。お願いします・・ねえ、あの人本当に部下に慕われているんですか?やってる事どう考えても名君じゃなくて暴君じゃないですか」
問いかけたけど護衛の兄ちゃんは目を合わせようとしてくれない。おい、なんでだ無視するな。無言のまま廊下を進む。横を向いてこちらを見ようとしない護衛の兄ちゃんにイライラしたので脇をくすぐってやった。
「あひゃっ!ちょ、ちょっと!止めてください!お願いですからおとなしくしていてください!あなたの動向ひとつで我々の命が危険になるんです!・・・あなたは本当に何者なんですか?あんなクロード様見たことがない・・」
「ええー私はあった時からクロード様はずっとあんな感じですよ?おたくの上司がおかしいのを私のせいにしないでくださいよー」
「いや!あなたに関わらないときはまともなんだ!あなたが絡むと途端に狂気に駆られる!クロード様になにをしたんですか?・・・なにか暗示でもかけたんですか?」
ええー悪役設定まだ継続中だったの?そんな特殊能力持ってたらこんな事態に陥ってないわバカやろう!
まともに出来上がってるストックが尽きました・・これからは不定期更新になると思います。申し訳ないっす。




