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いつも読んでくださってありがとうございます。

キリが悪かったんで今回やや短め。





とりあえずスープの中からひょいと子ネズミを取り出して床にぽいっと逃がした。

割と熱いスープだったわ、よく無事だったな子ネズミよ・・強く生きろ。


スープから解放された子ネズミは、元気いっぱい床を縦横無尽に走り回った。屈強な侍女さんズはネズミが苦手らしく『きゃあ!』と可愛い悲鳴を上げて逃げ惑っている。セイラ様も飛び上がってクロード様に抱きついた。

たかが子ネズミ一匹で大混乱に陥ったダイニングルームだったが、セイラ様がクロード様に抱っこされたまま私に向かって叫んだ。


「ひどいわニーナさん!こんな嫌がらせをするなんて・・!」


そういうとセイラ様はしくしくとクロード様の首に顔をうずめながら泣き出した。おい、なんでそうなる。これなんていう茶番?あくまで私が悪者なのか?どう考えても無理があるのだが、味方ゼロなこの状況ではその無理も通ってしまうらしい。


「なんて女だ!」


「悪魔のようだ・・」


皆が口々に私を非難しだしたので、あほらしくなってきた。おい、まずは子ネズミをスープに入れたヤツに文句を言ってくれ。仕方がないので席を立つ。しょっぱなから食事にすごいものぶち込んでくれる狂ったモラルの人から出される食事に手を付けることは出来ない。次も何が入ってるかわかったもんじゃない。


「食欲がなくなりましたので、私はこれにて失礼させていただきます」


それだけ言い捨てると、もう部屋に戻ろうと思い席を立った。

ついでにパンを持っている給仕係からバスケットごと奪い取り逃げるように部屋へと帰った。パンは私だけに配るものではなさそうだったので何か細工されてはいないだろう。今日はこれで我慢だ。


部屋に入り椅子で気休め程度の簡単なバリゲートを作る。


・・・正直食事に異物を混入されるとは思わなかった。これから食事どうしよう・・脱出するときのために体力はつけておきたい。食事をしないで弱る訳にはいかない。


パンをかじりながら私は今後の事を考えた。




何度か侍女さんらしき人が扉をガチャガチャしていたがまるっと無視していたら、悪の総大将クロード様が乗り込んできた。


「ニーナ?どうして扉をふさいでいるんだい?話をしたいのだがいれてくれないか?」


「・・・(無視だ無視)」


「ドアを蹴破るのは避けたいのだがね。ニーナも部屋には扉があったほうがいいだろう?」


ひい!開けます!そんな解放感あふれる部屋にしないでください!

開けるとクロード様と護衛の方が立っていたので仕方なく招き入れる。クロード様が入室したところで続いて護衛の方がはいろうとしたがクロード様が後ろ手でドアを勢いよく閉めた。そのままカチリ、と鍵を閉める音がした。『クロード様ぁ!!!』と焦る護衛の声がするけれど、彼は涼しい顔で手に持った鍵をくるくる回しながらこちらへ近づいてきた。


「先ほどは済まなかったね。屋敷の者達も突然私が婚約者を連れてきたものだから戸惑っているようだ・・風当たりはしばらく強いだろうから、ニーナはなるべく私の傍にいたほうがいいよ」


そういうとごく自然な感じで私を押してソファに座らせ、自分もぴったりと隣に腰かけた。


「・・・食事にネズミを放り込むのがこの屋敷の人々の戸惑い方なんでしょうか?クロード様のお傍にいることで解決する問題とは思えません。あなたの屋敷の使用人なのですからクロード様が解決なさってください。これは私の問題ではありません」


感情的にならないよう、できるだけ理路整然と話す。こういう時取り乱したら負けだと思ってる。クロード様はそんな私の反応が気に入らなかったらしく、不満げに眉を顰めた。


「・・・君の味方はいま私だけなのだがね・・そんな強気な君も好ましいけれど・・・君が私を頼って縋ってくれたらどんないいかと思ったんだがね・・まだお仕置きが足りないかな・・」


なにか剣呑な言葉をつぶやきながらクロード様は私の腰を抱いて引き寄せた。

顔が近づいてくるので掌底を叩きこんでやろうと構えたが、先読みされて腕を取られる。悔しいので腕をひねって拘束から逃れ、立ち上がって戦う構えを取る。


・・・構えてみたけど、勝てる気がしない!ジローと組手はよくやったけど一度も勝てなかったもん!


「はは、やっぱりニーナは規格外だな。ファイティングポーズをとる女性は初めてみたよ。この勝負に勝ったら私はニーナを好きにしていいのかな?」


クイクイッと手招きしてクロード様が私を挑発してくる。くそう!


クロード様の問いには答えず脇腹を狙って拳を叩きこむが、簡単に手で受け止められてしまう。手をつかまれたまま足蹴りを繰り出すが、足を掴まれそのまま抱え上げられた。


「うわわわっ」


軽々と私を持ち上げベッドに放り込むクロード様。くっそお!簡単に負けた!なんて弱いんだ私は。自分の身一つ守れないのか!


「私の勝ちだね。さあようやくこの間の続きができるね。愛しているよニーナ」


勝者の笑顔でクロード様が私を見下ろしている。もう逃れる術はない。どちらにせよ、彼の領地に連れ込まれた時点で私の自由は奪われていた。スープのなかでもがく子ネズミを思い出した。あれは私だ。必死でもがいてもこの辛い場所から自力で出ることはできない。


抵抗を止めた私に満足そうに微笑んで、クロード様は唇を重ねてきた。ああ、初ちゅーがこれか、とぼんやりと考えた。



ままならない人生だなあ・・。

まあ、子どもの時から嫌というほど自覚させられていたことだ。

諦めることには慣れているんだ、今度もきっと、耐えられる。

だけど・・。



「うっ・・うええっ・・うえぇん」


私が泣き出すとクロード様は『えっ?えっ?』とアワアワしていた。


「どっ・・どうした?そんなにもイヤなのか?それほどまでに私が嫌いなのか?」


いやなんでイヤじゃない可能性があると思えるのか不思議だわ。嫌う要素しか今のところないぞ?




「・・・私があなたを好きでも嫌いでも、そんなの関係なく私を抱くんでしょう?だったら好きにすればいいじゃないですか。どうせもう私に逃げ場はありません。だから泣くくらいいいでしょう?・・・せめて心だけは私の自由にさせてください」



クロード様はショックを受けたように顔を強張らせ、黙った。私はもうどうにでもなれと大の字に寝ころんだまま目を瞑ったが、クロード様はうつむいたまま動こうとしない。ん?どうした?と思ってちらりと片目を開けてみると、泣きそうな顔をしている。ええ?これ私が泣かせたって事かな?またとんでもない仕返しされるんじゃ・・と怯えたが、クロード様はノロノロとベッドを降りると若干ふらつきながら部屋を出て行った。


ん?

あれ?

どうしちゃったの?




・・・まあいいか!なんかしらんが諦めたらしい!ラッキー!


私はこの時、あまり深く考えなかったから、とりあえず今逃れられたことだけを呑気に喜んでいた。しかし私のこの事がクロード様のご乱心に拍車をかけるきっかけになり、私を取り巻く環境はここからさらに悪い方に転がっていくのだった。





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