番外編 彼が転生した理由
完全に日が暮れた夜の時間。
俺、木立練は、ぼーっとしていた。
やっていたゲームがバッドエンドになって、その後ネットで情報を見てふてくされた感じになり、夕食時になってから家族の中でうっとおしい感じのオーラを振りまきつつ、ご飯を食べた。
で、今はその後の時間。俺はあれしてる。
「何があれなんだ」
自分の今現在の行動に自分で突っ込みを入れるという、普通の人から見たらおかしな……けれど練さんにとっては普通な行動を実行。
話題を戻すと俺は、どうにも落ち着かなかったんで夜の散歩をしているところだ。
途中までは部屋で宿題をやっていたのだが、どうもゲームの事を思いだして気分が鬱々となってきてしまった為、体でも動かすかと言う事になったのだ。
今はこれからコンビニでも行って、適当なお菓子でも買って帰るかーとか考えてぶらぶらしていたのだが、まさかそれに出会おうとは思わなかった。
金髪和装美人(たぶん女)が道端に落ちてる。
缶とか瓶とかじゃないんだから捨てるなよ、と思うが。落ちていたからにはそれなりの事情があるのだろう。
「あー、おーい、大丈夫かアンタ」
ここで、酔っ払いに目を付けられておかしな目にでも合わされたあげく、翌日の噂になるか、新聞記事になりでもしてたら寝覚めが悪すぎる。
仕方なしに声をかけると、和装美人はすぐに目を覚ました。
「???」
美女だ。
だけど疑問を抱えた。次いで、既視感も。
ゆっくりと目を開き、声をかけたこちらへと視線を向けてくるその人物を見ていると、何とも言えない既視感に襲われまくった。
「いや、まさか」
うん、まさか。あるはずない。
あれだろう。
似てるが本人と言う事はないはずだ。
さっきゲームで……いやいやないない。
ちょっとハメを外してしまったレイヤーさんあたりだろう。
「おい、大丈夫か? 道端なんかで寝るなよ。あ、俺は練って言うんだけど、男」
アホで間抜けな自己紹介だ。
ギャグでもシャレでもない。珍しく天然だったな。
「ネルさんと言うんですか。ここは……ダークアビス城にいたはずなんですけど、どうしてここに? 培養層の中で死んだはずじゃあ……」
「はぁ? ダークアビス城?」
先程やっていたラストダンジョンの名前と同じ単語を聞いて首をかしげる。
じっと観察。
目の前には、俺がやっていたゲームから抜け出てきたような、勇者パーティーの一人にそっくりの外国和装美人がいる。が、だからと言って見たまま信用するほど二次元に生きちゃない。
「酔っぱらいか、それとも変なカドに頭ぶつけたとか……」
おすすめは豆腐の。
しかし、この女性思い込みの激しいレイヤーさんでいらっしゃるのだろうか。
どう扱おう。
そんな風に悩んでいると、目の前の女性は周囲を気にし始めた。
「モンスターはいないようですね。それにしても見た事のない景色。ここは一体どこなのでしょう」
「日本です」
迷子には丁寧にがモットーだから、律儀に対応。
ついでにもっと詳しく言えば、ちょっと都会に近い感じのコンビニとか商業施設が普通よりは充実している町の中だ。
「ニホン?」
この人、なり切っているキャラに準じているのか、本当に知らないのか。どっち?
目の前の女性は首を傾げるのみだ。
「そういや、アンタ名前は?」
「あ、すいません、申し遅れましたが、私の名前はユーリィ……いえ、ユリカです。ユリカ・シティリスと言います」
「ユリカ……」
聞いた聞いた。
さっき画面の中で死んどった人。
名前まで、勇者パーティーに似せてくるとは。
困ったな。
これ、どうやって扱えばいいのだろう。
「気のせいでしょうか、貴方に向けられている視線が、壊れた花瓶をどうしようか迷っている人の視線にそっくりなのですが」
「気のせい気のせい」
ぞんざいに否定。
全然気のせいなんかじゃないが、言ったところでどうにもなんないだろう。
「あ……」
そう思った時、ユリカがふとこちらに抱き着いてきた。
というか押し倒された。
「へぁっ」
変な声が出たがやましさはない。むしろ驚きしかない。
何のおつもりで!?
そう尋ねようとしたが、こちらにとびかかって来た獣の姿を、迫って来たユリカの体の隙間から見えて、かなりぎょとした。
「な、なんだあれ」
「モンスター。やっぱりここまで来てしまったんですね。……もう魔力も残っていないのに」
ユリカはこちらの手を握ってその場から走り出す。
「お、おいおい説明してくれ。一体何が起こってるんだ」
俺にしてはなんて普通なセリフ。
振り返り。背後から追いかけてくるそれを見つけると、赤く爛々と光る目と視線が合ってチキン肌とチキンハートになった。
奴はユリカがモンスターと言った通りの姿だ。
先程はよく見えなくて、ただの何かの獣だと思ったのだが、それは明らかに異形の怪物。
グロテスクにでこぼこした体表をした二本足で走り、口から火を吐くトカゲっぽい何かだった。
「うわ、うわ、うわぁ」
練さんは、予想を超えた現実に阿保な事しか言えないようになってしまったみたいです。
逃げ続けて数十分。
夜と言う時間が幸いしたのか、通りを歩く人を巻き添えにする事はなかったが、代わりに頼れる人もいないのが辛い。
人気のない林道に入り込んで、「この選択肢間違った」と頭をすぐに抱える事になった。
二人と化け物。
圧倒的に人間の方が分が悪いに決まってる。
「とりあえずこんな所じゃまずいだろ」
「いえ、人がいるよりは。逃げ切って体力を回復した方が、魔法力が戻れば魔法を使って撃退できるはず……」
向こうの世界の住人なんですね。
思い込み村の、思い込みワールドの。
分かります。
「いや、分かってたまるか」
特殊スキル、セルフ突っ込み発動。
このままだと訳も分からず死んでしまうがな。
愛の逃避行とやらで美女と共に命を懸けるのならまだしも、相手は知らない人間。
こんな所で、共にお陀仏になるのは嫌だった。
「おいこら、離せ」
「あっ」
強引に手を振りほどき、違う道へ。
だがユリカはこちらへと付いてきた。
「何でついてくるんだよ」
「あのモンスターが貴方を狙わない保証がどこにもないからです」
「……」
つまりこちらを心配してと。
現実が見えてないだけなら見捨てられたかもしれないのに、他人なのはそっちの方だって同じなはずなのに。
罪悪感がちょっぴり刺激されてしまったではないか。
ゲームならともかく女性に優しくするなんて、この恋愛経験ゼロのへっぴり練さんにできるわけないって、クール装った冷たい態度とったのにな。
来世があったらもうちょっと、そこら辺がんばろう。冗談だが。
「はぁ……。何で、そんな所まで本物に似てるんだよ」
優しくて、困っている人を放っておけない。
まさに俺の知るユリカ・シティリス本人。
まったくだ。
「はぁー……」
大きく大きく、それはもう山より高く、谷よりも深くため息をついて、背後にいるユリカの華奢な手を掴みなおす。
「この先に、学校の課外授業で使った小屋がある」
「ネルさん、ありがとうございます」
女の人の手って柔らかいんだなーとか、そんな事を考えて気を紛らわせる事にした。
取りあえずは逃避行は無事だった。まだ安全を確保したわけではなく、途中だが。
小屋を見つけて、中に避難。室内に誰かが忘れて言ったらしい毛布にくるまって、夜の寒さをしのぐ。ちなみに、二枚あったので、ラッキー展開はなしだ。残念だったな。泣ける。
財布は持ってるのに、携帯はなし。
助けを呼ぶのは無理だった。
「なあ、起きてるか」
「……何でしょう」
今間があった。
寝てたな。
「あんたって本当にあのユリカなのか?」
練さんとしては、「何馬鹿な事言ってるの、現実見なよ」みたいな展開を望んでいたのだが。
「出会った人によく言われますよ。とても勇者と共に旅をしている人には見えないって」
そうはならなかったようだ。
え、マジ? その反応マジ?
「人からよくからかわれるんです。戦闘の時も大事な時もちゃんとしてるのに、日常では意外に抜けてるって。培養層の中に注意力を置き忘れてきたのかも」
よく失敗しちゃうんですよ。笑っちゃいますよねあはは……みたいな会話が零れてくる度に、練さんは耳疑いまくりだ。
現実、なのか、これ。
「いてて」
頬をつねったがちゃんと痛かった。
夢オチの方が良かったな。
というか培養層? 母親のお腹の中とかじゃなくて?
そんな設定ユリカにはなかったはずだが。
つねつね。
少なくとも今俺が置かれているこの状況は夢幻のなんちゃらじゃない。
リアルだわー。現実だわこれー。
「始まりの魔女さんもきっとがっかりしてる……。せっかく私の魂を解放してくれたのに」
魔女さんですか……。
「ネルさん?」
「何でもない。ちょっと俺のほっぺに見るのがおぞましい虫がいたから叩いてみただけ」
「そんなひどい虫がいたんですか、嫌だな……」
信じたらしい。まあ可愛いらしいこと。
ゲームの中でのユリカは比較的しっかりした人間の様に描かれたが、戦いから離れた、生身の彼女は案外こんなようなものなのかもしれない。
「失敗しても良いんじゃないか。そういうとこ見ると安心する」
「えっ」
勇者だ英雄だって言われてても、一人の人間なんだと言う事が分かって親近感が湧くものだ。
こんな事いったら信じるみたいな発言に見えるから、直接は言わないけど。
「ありがとうございます。ネルさんっておかしな人なんですね」
誉めて変人呼ばわりはいただけない。
「虫がいたのに自分の頬をつねるなんて」
そっちか。
そりゃ確かに変だ。
練さん変人です。
寒い小屋の中に、一瞬だけ暖かな空気が満ちたように錯覚したが……。
「いや、違う。これは燃えてる?」
わずかな熱を感じてその発生源、頭上を見上げた。
赤く熱せられれ、焦げ臭いにおいを放つ天井部分がある。
上に乗っているのだ、あの怪物が。
「出ろ!」
慌てて小屋を出ようとするが、その判断は一瞬だけ遅かった。
造りは木だ。そんな小屋の中に隠れるんじゃなかった。
一瞬後、屋根が猛火に包まれて。
崩れ落ちて来た。
熱に炙られて叫ぶ。
熱い。死にそうだ
というかすぐ死ぬ。
思考が乱れた。何も考えられない。
「ネルさん、ネルさん。しっかりしてください」
誰かに庇われている。
「お母さん、ネージュお母様、私はどうすれば……。……リカ姉様、貴方だったら一体どうし……」
おそらく一緒に死ぬ。
申し訳ないと思ったのか、らしいと思ったのか、判別がつかないまま意識が落ちていった。
ただ覚えているのは、ユリカの声と。
慰めの様にかけられる優しくささやかな回復魔法のファンタジーの力だけ。
目を覚ました時。
何が起こったのかを思い返していた。
俺の周囲は白い空間。他には誰もいない。
暇だったので、思い出すしかやる事が無かったのだ。
あの時、火ダルマになった俺を、ユリカは回復魔法をかけて助けようとしてくれた。自分も死にそうになっているにも関わらず。その近くに礼の怪物が迫っているにもかかわらず、彼女は練という他人を選んで優先したのだ。
「……あいつは、どうなったのかな」
生きているとは思えない。
けれど、最後を見ていないのだから。
生きていてくれれば。そんなもしもの可能性があればいいと、そう願わずにはいられない。
おかしな奴だったけど、優しい奴だったし。
短いほんの数時間にも満たない邂逅だったが、それぐらいの事は俺でも分かった。
「ふーん、死んでもあのお姉さんのこと心配するんだー。お兄さんやっさしー」
そんな練に声をかけてくるのは無邪気な子供。
半日前にやっていたブレイブファンタジーのゲームの中で登場するキャラクターの一人、旅商人のリリシャだった。
「何だ? 今日は偉く非現実な事が続くオンパレードだな」
「かわいそー。ねぇ転生させてげよっかー。他の世界に転生ー」
「お前、神様か何かなの?」
質問するが、リリシャ似の少女は笑うだけで応えない。
「あのお姉さんはねー。家族が死んじゃった世界から、お兄さんの世界にきたのだよー」
それどころか、聞いてもいない話を語りだす始末だ、親の顔が見てみたいな。本物リリシャにいなかったが。
「たった四人で魔王に挑んでやられてー、逃げた時に殺されちゃたからー」
「はぁ?」
それって、俺がやったゲームのバッドルートの内容そのままじゃん。
「だから、リリシャと契約して、自分の存在をその世界から消しちゃう事で世界の時を戻す事にしたんだよー。お姉さんはその契約の事覚えてないみたいだけどー」
「!」
つまりあれか。
ユリカは練がいる世界に来る事で、終わってしまった世界をやり直させたと言う事なのか。
「マジのユリカだったんかよ」
「えーそういう反応ー? そういう推理ー? あはは、おっもしろいねー」
「とりあえずちょっとだまっててくんねぇ?」
考える。
今自分が何をすべきか。
色々感傷に浸りたい事もあるし嘆きたいし、明日の宿題とか食べたいもんとかどうすんだよ、後俺のパソの中身誰か消去して、とか色々あるのだが、すべて横に置いとく。
ユリカは仲間を助けるために、死んでこの世界に来た。
俺はそのユリカに、助けられようとしていたのだ。
なら理由としては十分だろう。
何をやるのも力押しだ。
頑張りゃ大抵の事は、乗り切れる。
「異世界転生一名お願いします」
「おー、きたきたー。やるー。おにーさんすごーい」
「ただし」
「ただし?」
時間と場所指定のお届けで、指定場所は培養層。
時間は、ユリカ達が魔王に挑む前だ。
それくらいサービスしてくれよ。神様。
とりあえずは、拒否られたら、全力で駄々こねよう。
そう決意して、練は口を開いた。
のちにおまけで、友人仕様のチートデータが付属される事になるのは、思いもしない事だったが。
これにて一旦終了です。
ここまで読んでくださった方、目を通してくださった方、通り過ぎて行っただけの方も一応、ありがとうございます。




