第十話
私がゼジルという人の奴隷になって数日。
あの人は未だ飽きずに私を痛めつけてくる。
でも、最近はあまりしなくなった。
きっと私の反応が薄いからだろう。
リラーフさんが注意してくれているのもあると思うけど。
私の心は空っぽだった。
本当のお母さんは私を生んですぐに死んじゃったって聞いた。
本当のお父さんは魔獣にやられたって聞いた。
私を育ててくれたお母さんも、もういない。
村の友達も。
村のみんなも。
私の帰る場所は、無い。
唯一の心の支えは、夢に出てくるご主人様だ。
ランちゃんの存在も大きい。
ランちゃんは生まれたときから奴隷だったらしい。
前の主のせいで、両目と尻尾を失ったと聞いた。
獣人は汚らわしい。
人族が絶対だ。
この国の人たちはそんな考えが普通だって、リラーフさんは言ってた。
どうしてそんな事を思うのだろう。
私たち獣人だって、同じ人間なのに。
私はこれからどうなってしまうのだろう。
このままこんな生活が続くのだろうか。
あのゼジルという人は一応、奴隷商人だって聞いた。
という事は私は知らない人に売られるのだろうか。
この首輪は登録されてる人じゃないと外せない。
だからこの首輪が外されるのは、私が要らなくなった時か、私が死んだ時。
奴隷を捨てる人は滅多にいない。そう聞いた。
つまり、私は一生、奴隷のまま。
もしご主人様の記憶が無かったら、私の心はとっくに壊れていたと思う。
数日前、私が寝ていると、いつもの様にゼジルさんが私を痛めつけに来た。
でも、気が付いたらあの人は鉄格子の前で倒れていた。
いい気味だと思った。
私にはどうする事もできないから、放っておいた。
しばらくするとリラーフさんが降りてきて、倒れたゼジルさんを見て驚いていた。事情を話すと、ゼジルさんを抱えて急いで階段を上っていった。
どうしてリラーフさんはゼジルさんを大事にするのだろう。
そいうえば、ゼジルさんが死ぬと私はどうなるのかな。
今日はランちゃんと何を話そう。
今日もご主人様の夢を見れるといいな。
そんな事を思いながら、一日を過ごした。
ご主人様に頭を撫でられている。
ご主人様が私に笑いかけてくれている。
とても幸せだ。
でも、私の目線がいつもと違う。
そして、これが夢だと気付いた。
人の姿になった私が、ご主人様に頭を撫でられている。
おかしいな。
いつもご主人様の夢を見るときは元の姿のままなのに。
こんなことは初めて。
でも嬉しい。
ご主人様に今の私の姿を見せてあげることができた。
夢の中のご主人様は喋らないけど。
ずっと笑ってくれている。
ずっと撫でてくれている。
私だけを見てくれている。
それだけで私は幸せだ。
たとえ、夢だとしても。
夢だと・・・しても・・・。
ご主人様に頭を撫でられている。
まるで本当に撫でられているみたい。
それになんだかとっても懐かしい感じがする。
いつも夢の中で撫でられているはずなのに。
でも、ご主人様の姿が見えない。
目を開ける。
そこには。
「あ・・・」
ゼジルと呼ばれた、あの男の人が居た。




