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ハルカカナタ  作者: 梅津 勇次郎
8/11

電車遅延により


僕はいまだにわからないことがある。

数学の“マイナス”と“マイナス”をかけると“プラス”になることが。

計算式上では確かに“プラス”になるんだろうけど、実際問題、現実ではどうすればいいんだろう。“マイナス”の状態に“マイナス”の状況をかけても“プラス”にはなり得ないだろうと。

なんでこんな事いきなり言ったかって?

今が正にその状況だからだ。


「マジかよ・・・」 と電車の中で一言ポツリ。


会社へ出勤して、部長に昨日の報告書を提出。その後は適当に軽く同僚と雑務をこなし、予定していた次のクライアントの所へ向かう途中だった。

昨日の気分を払拭・・・出来ず仕舞いのままだった。こんな状態で人の多い電車に乗るのは気が滅入る。

あぁ、バイク乗りてぇ。

相変わらずの暑さの中、電車に乗り込んで出発したはいいものの、


「プシューン・・・」

数百メートル走り出した所でいきなり電車は停まり出す。

『・・・お客様にご案内いたします。ただ今、線路内に不審物が落下しているとの情報がありまして、現在確認しております。つきましては、ご迷惑をおかけしますが、少々お待ち下さい。』

電車内の客(僕も含めて)は何事かとざわつく。

くそっ、何だってこんな時に電車停まるんだよ。


昨日からずっとついてない。

先ほどの言葉を吐いた後にスーツの内ポケットをまさぐる。

とりあえず、携帯で先方に連絡っと・・・。

カバンから携帯を取り出し、先方の会社の電話番号を確認する。

「えーと・・・確かこの書類に」

昨日まとめておいた書類に連絡先を書いておいたはずだ。

・・・あった。

僕は、急いで電話をかける。

不慮の事態で遅れそうな場合は必ず先方に連絡を入れる。

これ、社会人として常識。

えーと、03-・

『プルルル・・・プルル・・・』

電話越しに連絡音が鳴る。

ここは電車の中だが、仕方ない。

この際、背に腹は代えられない。

『プル・・・お電話、ありがとうございます。』

女の人だ。

「あっ、すいません。今日の2時にそちらに伺う予定になっていた者ですが」

『はい、確認しますので少々お待ち下さい・・・~♪』

女の人がそう告げると保留音の「カノン」が流れる。

・・・出来れば、定刻通りに行きたがったが、まぁしょうがないな。

しかし、何だろ?この違和感・・・

『お待たせいたしました。本日2時からのご予約をいただいておりますが、』

「はい、そうです。実は、電車が遅延しているので、担当の方に・・・そうですね、30分程遅れる旨を伝えていただいてもよろしいでしょうか?」

『かしこまりました。確認のため、お名前を頂戴してもよろしいでしょうか?』

この声どっかで・・・

「田中カナタと申します。」

『・・・!』

「・・・?あのー、もしもし?」

『・・・あっ、失礼致しました。それでは、田中様。よろしくお願い致します。』

あれ?この声で・・・

「すいません、」

『はい、なんでしょうか?』

「あの・・・お名前を教えていただいてもよろしいでしょうか?」

『タカナシと申します。それでは、失礼致します。』

ガチャ・・・プープープー

・・・まさかな。そんな分けないだろ?

でも、あの声。

「・・・マジかよ」

その日、僕は二度目の「マジかよ」を呟いてしまった。

ほんの、ほんのちょっとだけ

先方に行くのをためらってしまった。

これって“プラス”になってんのかな・・・?

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