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ハルカカナタ  作者: 梅津 勇次郎
7/11

帰宅


僕は、カバンを受け取った後、すぐに帰りの電車に乗り込み、そのまま自宅へ戻った。

なんとかカバンが手に入り、会社に向かおうとしたが、疲れがドッと溢れ出してきて、

今から戻ったとしても何もやる気が起きないことを考えると、

「もう、家に帰ろう・・・」と決めて、須藤部長に連絡した。

『カナタくん、なんだかいきなり疲れてるみたいだね。今日はゆっくり休んでちょうだい。書類なんかは明日まとめてもらえればいいから』

とありがたい言葉をいただいて、すぐに帰る方向の電車に乗り込んだ。

「あぁぁ、なんとかカバンと中身が見つかって良かったぁ・・・」

と安堵なのか疲れなのか、ため息に似た深呼吸が出てきた。

カバンが戻ってきたとはいえ、なんだか後味が悪いものだった。


見つけてくれた恩人に怒鳴って、空気悪くして、お礼も何も言えずに、終わってしまった。

電車に乗っている間は、ずっと窓の外を見つめながら、ただぼんやりとしていた。

(はやく家に帰ろ。)

そう思えば思う程、電車が遅く感じる。


考えなくてもいいことばかりを考えてしまう。

(あぁ・・・なんてことしたんだろ)

(あぁ・・・カッコ悪いなぁ)

(あぁ・・・あぁ、あぁーーー)

なんて電車の中で一人で百面相になりながら、思い出し苦笑いを浮かべている。周りの人からなんか不思議そうに見られているのかなと思われつつも、やっぱりグルグル頭の中を後悔の念が回っていた。


時間はいつも通りのはずなのに、いつも以上に遅く感じていた。

電車が最寄り駅に着いた時には、ずいぶんぐったりしていた。


「・・・つ、疲れた。」

気疲れした体をなんとか動かして、帰り道を歩く。


辺りは薄暗く街灯がポツポツとある閑静な住宅街。

時折、走ってくる車のヘッドライトとコンビニの明かりぐらいが光っている。

・・・

その先にある自宅にようやく着いた。

「やっと着いた・・・」

僕は、アパートのドアを開ける。

「あっ、遅いよ~、カナ~」

「・・・ただいま、それとその名前で呼ぶなよ。」

「別にいいじゃーん。だってカナはカナじゃーん(笑)」

玄関先で一発目に人のことを「カナ」呼ばわりするこいつは、俺の妹「ヒナタ」だ。


「ヒナタ、風呂は?」

「沸いてるよ。先に入っちゃった。よかった?」

「あぁ、別に構わないよ。」

いそいそとネクタイとスーツを取り、そのまま風呂場へ直送する。


あぁ、今日はホントに疲れた。・・・早く風呂に入りてぇ。

「お風呂に私の残り香があるからたっぷり吸ってね(笑)」

「吸わねぇよ・・・ってか、毎度毎度、お前のそのキャラめんどくせぇ」

僕は髪をボリボリ掻く。


「ひどい!!それが実の妹に言うセリフ!?」

とかなんか言ってる割には、顔はニヤニヤしている。

妹は頭をブンブン回し、「それ、フレグランストルネード!!」とじゃれてくる。

僕は、本当に疲れていたので、「やめろ、やめろ」と手で払いのける仕草をして、妹の行為を遮る。

「・・・とりあえず、風呂入る。」

「はーい、どうぞごゆっくり~」

笑っている妹を後に僕は風呂に直行した。


◇ ◇ ◇ ◇


「・・・あ~、気持ちいい。」

ザパーッンと風呂に豪快に入る。

社会人になって、初めてわかる風呂のありがたさ。


一日の疲れをとる為にこの極上の楽しみがある。

これが、露天風呂なんかだったらもっと最高だろうなぁ。

・・・なんてオヤジくさいことを思いながらフーッと大きく呼吸をした後、顔をバシャバシャと洗った。


ここは、僕が借りているアパートだ。妹とルームシェアしている。

間取りは2DK。最寄り駅からは徒歩15分。

けっこう遠い感じがするけど、外観や内装、収納と比較してみても、他の賃貸物件と比較して、まぁまぁ手頃な値段だったと思われる。

もちろん、妹もバイトをして一緒に家賃を払っている。

当たり前だ。ただで生活させようなんてコレっぽちも思っていない。


僕は、風呂から上がり、ダイニングへ向かった。

今日は、ヒナタが料理当番だ。

「疲れた~、んでハラ減った~」

「お疲れさま、はい、今日の夕飯」

目の前に出てきたのは、レトルトカレーだった。

レトルトカレーオンリー・・・


「・・・」

「何?どうしたの?食べないの?」


「ヒナタ・・・一つ質問していいか?」

「何?」


「お前が料理当番の時は、なんでいつもレトルトカレーなんだ?」

「楽だから」


・ ・・即答かよ。

「・・・手の込んだ、とは言わねぇけど、もちっと何か・・・あと一品ぐらい作ってくれよ。」

「そしたらカナが作ればいいじゃん。」


「あぁ?」

「だって、カナの料理の方が全然美味しいし、マジ、ホッペタチョー落ちるぐらいにうますぎるからぁ」


「お世辞でもめんどくせぇ・・・」

そういって、僕はキッチンに立った。これ以上何を言ってもコイツには無駄だ。

今まで、そうやって兄妹やってきたから。お互いによくわかっていた。

僕は冷蔵庫から有り合わせの料理を作ることにした。

「・・・サラダともう一品作るか」

「わーい、今日は料理当番じゃないカナが料理作ってくれる~。ウッレシー♪」


一言多いんだよ。こいつは、

あー、ぶっ飛ばしてぇ。

・・・いかん!!これで手を出したら兄の面目がなくなってしまう!!

それ以前に、男としてそれだけは絶対にしちゃいけない!!

ヤターとヒナタは両腕を上げて、体全体でうれしさをアピールする。

・・・しょうがない。


「・・・お前は、その間に洗濯物片付けろ。それとその名前で呼ぶな。せめて兄を付けろ。」

「は~い、わかったよ。カナ兄ぃ」


ヒナタはペタペタとフローリングを素足で歩き、ベランダから洗濯物を取り出してたたみ始めた。

コイツは昔っから、甘え上手だ。

欲しいものがあれば誰かに甘えてすぐに手に入ることを熟知している。

何がスゴいって、「イラっと」させない程度にブリっ子かましてくるので、その境界線がすごいと思う。

外でも程度をわきまえないのかと思うと、いつもハラハラする。

それなりに顔も悪くないから、頭の悪い男はホイホイ寄ってきて、さぞたくさん貢がれていることだろう。


そんな兄の気持ちをコレっぽちも察していないのだろう。

「~~~♪」

鼻歌を歌いながら、自分のTシャツをたたんでいた。


やれやれ。


簡単に作り終えたサラダと一品料理(今回は鳥のササミのチーズ焼き)をテーブルに置き、テレビを付ける。ちょうどニュースをやっていた。

「おーい、出来たぞー。」

「はーい、もうお腹ペコペコー」

「・・・なら、ちゃんと料理作れよ。」

「えー、だって、料理出来ないもん。」

「よく言うよ。シェフ志望が。」

こいつは、今調理師の専門学校に通っていて、バイトでイタリアンの厨房でメインで料理をまかされている。

以前、バイト先で食べた料理はなかなか絶品だった。

ホントにうまかった。


「私の料理はお金を取るの。今度作るときはその分代金とるからね。」

「・・・チーズササミとサラダよこせ。今日はお前カレーだけだ。」


ケタケタと笑いながら、ヒナタは俺から料理をとられないように、皿を頭の上に上げていた。

両手で手を叩いて笑いたいのだろう。

代わりに足をクラッカーのようにパンパン叩いて笑っていた。 お前はサルか?

・・・器用な奴だ。


「・・・ったく」

『次のニュースです。』

「あっ、カナ兄、ニュース・・・」

「んっ・・・?」

『被害者の申し出により被害者家族救済措置法を被告に適用することになりました。これにより、被告の弁護士から強い反発が起こっています。また、独自の街頭調査でもこの法律についてアンケートをとったところ・・・』


「ひどいもんだな・・・こんな法律。」

「そう?私は賛成だな。」


「おい、お前なぁ・・・」

「別にいいでしょ。このくらい思ったって。」


ヒナタの口調がほんのかすかだけど強くなった。

普通の人にはわからないくらい。

だけど、兄妹ならすぐにわかった。

「・・・まぁ、そうだな。思うくらいなら」

ヒナタがまたンフー、と笑みをこぼす。


「そうでしょー?思うだけならタダなんだから。」

「あぁ」


僕らは飯を食い終わった後、それぞれの自室に戻った。

「明日はこの会社に行って・・・この調査表をクライアントに見せて・・・」

明日の準備をする。

今日どんなに後味が悪くても、それを翌日に引っ張ってクライアントの前で鬱々して失敗する。

そんな姿を想像したくないので、 入念な準備にまた再確認を行う。

準備が終わった所で、歯を磨く。ついでに仏壇に手を合わせて、就寝する。

「明日もまた、頑張ろう。」

「おやすみー、カナ兄」

ヒナタの声が聞こえ、別室から漏れていた明かりがなくなる。

「おー、おやすみ」

今日一日が終わった。

明日も頑張ろう。

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