電話ボックスへ
電車に乗り込んだ僕は次の駅に向かった。
といっても、わずかの時間だけども・・・
久しぶりに会社関係の書類や手帳を手放した。
これはこれでけっこう気持ち的に楽になる。
だが、手持ち無沙汰になってしまった。
何をすればいいのかわからない。
電車の中では、たくさんの人がいる。
みんな色んなことして電車でヒマ潰してるんだなぁ。
はやく次の駅について、カバンを渡してもらおう。
次の駅に着いた電車は、またも帰宅ラッシュの人たちを吐き出す。
電車の中が徐々に閑散としていくと、なぜか知らないが漠然とした不安が僕の中を駆け巡るような感覚に陥るんだ。
僕は、誰かに認められたい気持ちが強い。
だから必要としている須藤部長から頼られると
「認められたい」と思って必死になって頑張っている。
頑張ったぶんだけ上手くいって、
上手くいったぶんだけ褒められて、
褒められたぶんだけ『自分の居場所』が確保出来ている・・・
ような気がしている。
だから、失敗するのが、すごく怖い。
失敗したら自分の居場所がなくなって、
自分の存在価値がなくなってしまうような気がしているからだ。
『自分の居場所ってあるのかな?』
と本当にムダな自問自答を繰り返している。
そんなことは、本当にムダなので今は仕事に打ち込んで、
考えないようにしている。
でも、こうやって仕事に関するモノが手元から離れると
なんでかしらないけど、考えてしまうんだ。
よそう。
今は、カバンだ。
そうだ、カバンだ。
そんなこと考えられるのも、変に心に余裕が出来たからだろう。
カバンが見つかっていなかったら、やっぱりテンパっていたに違いない。
僕は、改札口を出て、電話ボックスがあるかを確認する。
「この辺にはないみたいだな。」
近くにあった案内表示板を見て、電話ボックスの場所を確認する。
良かった。この駅に電話ボックスは一つだけだ。
「反対口かぁ。」
電話ボックスを目指して、歩く。
一時は手元からカバンが離れたけど、
でもホント、よかった。
・・・ホントによかったのか?
実際に手元にはまだ来てないじゃないか。
その『タカナシさん』と連絡がとれなかったら、カバンだって見つからないわけだし、
間違えて、電話ボックスじゃない所で待ち合わせしているとか・・・?
だんだん心配になってきて、小走りになる。
自分の心配性には、毎度苦労する。
でも、一回考えだしてしまうと、どんどん悪い方向にばっかり進んでしまう。
考えている間に、いつの間にか走っていた。
頼む。どうか『タカナシさん』に会わせてくれ!!
そして・・・カバン持っててくれ!!
走り出して間もなく、反対口の外に出る。
周囲を見渡す。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・あった。電話ボックス。」
電話ボックスの前には、一人女性らしき人が立っている。
「あれが、『タカナシさん』か・・・」
僕は、階段を下り、電話ボックスの前に歩み寄る。
なんだか・・・緊張してきた。
彼女も僕に気づいたのか、こちらを見た・・・と思う。
ちょうど、電話ボックスの中の照明で顔は見えなかった。
彼女の前に立って、僕は言った。
「あのー、『タカナシさん』ですか?」